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6話 お姉さんと出会った

「レティアは小さな一歩を踏み出し、ルシアスの少し上目遣いの視線を捉えながら、にこっと笑った。「わたしね、お友達になるのってすごく楽しいと思うの。だから……きみとも、いっぱいお話ししたいなぁ!」


 ルシアスはその笑顔に戸惑いながらも、ほんの少しだけ肩の力を抜いたように見えた。いつものムスッとした顔には変わりなかったが、ほんの一瞬、口元がわずかに緩んだような気がした。「……あんた、変なやつだね。でも、まあ……ちょっとなら、付き合ってあげてもいいけど。」


 その言葉を聞いたレティアは、嬉しそうに手を叩いて笑う。「やった!きみ、やっぱりいい人だね!」と無邪気に喜ぶその姿に、ルシアスは思わずため息をつきつつも、心の中に温かい何かが灯るのを感じた。


 森の中を彩るように、レティアは虹色の小動物たちと無邪気に追いかけっこを楽しんでいた最中だったのを完全に忘れていた。その笑顔には不安の影などなく、むしろ無邪気さで溢れていた。しかし、彼女が遊んでいた相手が「暗闇の支配者・ノクス」の群れであることを知る者は、思わず声を失ってしまうだろう。


 突然、地を揺るがすような足音が響いた。ノクスの群れが一斉にレティアを追いかけ、猛スピードで駆け寄ってくる。漆黒の毛並みには紫の模様が走り、銀色に輝く目は獲物を捕らえようとする鋭い光を放っていた。口から覗く牙はまるで剣のように鋭く、そこから漏れる唸り声はまるで森を脅かす嵐そのもの。瘴気が彼らの足元を揺らめき、枝葉を枯らしながら彼女に迫っていた。


「な、な、な……何あれ!? あんなの、ムリムリムリィーーっ!」 ルシアスはノクスたちの圧倒的な威圧感に完全に飲み込まれ、その場で硬直した。その目は恐怖に見開かれ、体は小刻みに震えていた。気を取り直すように杖を持ち直したものの、手が震えて力が入らず、呪文を唱えることすらできない。


 一方、追いかけられているはずのレティアは、彼らを背後に感じながらも振り返ってにっこりと微笑んだ。 「あ、おいつかれちゃったねぇ……あはは♪」 その無邪気で平然とした態度は、ノクスたちの恐ろしさとは正反対で、まるで鬼ごっこの延長のようだった。


「何言ってるの、レティアーッ!? あの狼たち、完全に危ないやつらだよ! 今すぐ逃げないとーー!」 ルシアスはパニックになりながら、彼女に駆け寄ると強引に抱きかかえた。その顔には冷や汗が流れ、全身で震えていた。


「え、ちょっとルシアス……急に抱っこなんて、びっくりしちゃうよぉ~! あははっ♪」 まるで事態の緊迫感が分かっていないかのように、レティアは楽しそうに笑みを浮かべていた。その笑顔を横目に、ルシアスは全力で森の奥深くへと走り出した。


 森の中を駆けるルシアスの心には、強い焦りと警戒が渦巻いていた。彼女の腕の中には無邪気な笑顔を浮かべるレティアが抱えられている。レティアは、状況にまるで動じた様子もなく、ルシアスを見上げながら話しかけた。 「ん? いい子たちだよ?」


 その言葉にルシアスは目を丸くして息を飲んだ。『いい子たち? あれが? あの化け物が!?』 ルシアスの目に映るノクスたちはどう見ても「いい子」などではなかった。漆黒の毛並みは紫の光を帯び、全身に瘴気を纏いながら森を駆けるその姿は、凶暴で恐ろしい化け物そのものだった。銀色に輝く瞳は冷徹な捕食者の光を放ち、地面を切り裂くかのような鋭い爪の音が後方から響き渡り、ルシアスの緊張を一層煽っていた。


「いい子なわけないでしょっ! あれが! あんな恐ろしいオオカミがいい子なわけないじゃない!」 ルシアスは激しい口調で叫び、強くレティアを抱きかかえながら足を速めた。冷たい汗が額を伝い、震える脚を必死に動かしながら、彼女は逃げ道を探していた。咆哮と共に近づいてくるノクスの群れが、まるで悪夢のように迫っていた。


 一方、レティアはまったく慌てた様子もなく、平然とした笑顔を浮かべていた。「だいじょうぶだよ、ルシアス。あの子たち、ただ遊んでるだけだもん!」


「ただ遊んでる? あんたねぇ、あれがただ遊んでるなら私は魔王にでもなれるわよ!」 ルシアスは鋭い眼差しをノクスに送りながら、レティアに強気な口調で反論した。しかしその一方で、彼女の内心は必死だった。状況を冷静に見極めながらも、レティアを守るため全力で走るルシアスには、レティアの楽観的な態度が一層の苛立ちをもたらしていた。


「いい加減にしてよ、レティア! あんた、危機感ってものがないの!? 今襲われてるんだから!大変なんだから!」 ルシアスは声を張り上げながら、それでも足を止めることなく駆け続けた。背後から響く咆哮と迫りくる瘴気が、彼女の強い意志を試しているようだった。


「もぉ……オオカミさん。とまってぇ!」レティアが柔らかい声でそう指示すると、それまで勢いよく駆けていたノクスたちはまるで魔法にかけられたように、その場で大人しく立ち止まった。漆黒の毛並みが微かに揺れ、銀色の瞳は鋭さを失い、レティアをじっと見つめていた。

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