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30話 冒険の準備

「ルーシー、ルーシー! 森で冒険を続けられるんだよね?」

 レティアは明るい笑顔でルーシーの顔を覗き込みながら、楽しそうに尋ねた。その瞳には期待と無邪気な輝きが満ち溢れている。


「ま、そうね。レティーがどうしてもって言うなら……仕方ないわよね。面倒を見るって言っちゃったものね。」

 ルーシーはそっけない口調で答えたが、その声にはどこか嬉しそうな響きが混じっていた。


「それなら……まずは食材を買わないとね。その不思議なバッグに、食材を入れるスペースはまだあるの?」

 ルーシーはレティアの背負うバッグを指差しながら尋ねた。


「うん! まだ、いーーっぱい入るよぅ♪」

 レティアはバッグを自慢げに示し、嬉しそうに答えた。


 二人は町の市場で食材をたっぷりと買い込み、森へと向かった。レティアの不思議なバッグに次々と詰め込まれる食材は、まるで底がない倉庫のようで、どれだけ入れても余裕がありそうだった。


 森に入ると、木々が生い茂る静寂な空間が広がり、遠くから鳥のさえずりが聞こえていた。しかし、その静けさの中に、微かだが嫌な気配が漂っているのを感じた。


「気をつけて、レティー。何かいるわ。」

 ルーシーは緊張した表情を浮かべながら、周囲を警戒して剣を抜いた。その瞬間、茂みから低いうなり声が響き、大きな牙を持つ魔物が勢いよく飛び出してきた。


「来たわね!」

 ルーシーはすぐに構えを取り、魔物の動きをじっと見極める。一方で、レティアはすばやい動きで後方に回り込んだ。


「大丈夫だよ、ルーシー! わたしの速さに任せて!」

 レティアは軽やかに駆け回り、魔物の注意を引きつけ始めた。左右に素早く動く彼女の姿に魔物の視線は振り回され、その動きに隙が生じる。


「今よ!」

 ルーシーがタイミングを見計らい、素早く弓を構えて矢を放った。狙いは正確で、魔物の足元を射抜き、その動きを一瞬止める。


「ルーシー、準備はできてるよ!」

 レティアは魔物に向けて手をかざし、虹色に輝く小さな球体を作り出すと、勢いよく放った。球体は鮮やかな光を放ちながら魔物に命中し、その目を眩ませた。


「もう一撃いくわよ!」

 ルーシーは頷くと次の矢を放ち、魔物の動きをさらに鈍らせる。続けざまにレティアがもう一つ虹色の球体を魔物の頭部目がけて放つと、それが正確に命中して大きな衝撃を生み出した。魔物の巨体は宙に浮き、キラキラと輝きを放ちながら砕け散り、消え去った。


「やったね、ルーシー!」

 レティアは嬉しそうに笑顔を浮かべ、息を切らしながらルーシーを見た。その表情には達成感が満ちている。


「ふぅ……やっぱり、あんたの速さには助けられるわね。でも、もっと気をつけること。危なっかしくて見てられないわ。」

 ルーシーは苦笑しながらも、どこか誇らしげにレティアの肩を軽く叩いた。


 二人は森の中で野営にふさわしい場所を見つけると、レティアがテントの設営を担当し、ルーシーが食事の準備をすることにした。レティアが不思議なバッグを開けてテントを取り出すと、それは瞬く間に広がり、完成した。


「うん。よしっ♪ でーきたぁ! ふぅ〜疲れたぁー」

 レティアは満足げに微笑みながら、完成したテントを眺めた。


「……なんか、それズルじゃない……?」

 ルーシーはテントを見つめながら少し呆れたようにぼそりと呟いた。しかし、心の奥ではその便利さに羨ましさを覚えていた。


 一方、ルーシーも料理の準備が進み、煮込み料理を火にかけたあと、肉を焼くための待ち時間に入っていた。焚き火の傍らで二人が寛いでいると、ふと、人の気配がした。


 レティアはその気配に気づいていたが、敵意も殺意も感じられない穏やかな雰囲気に違和感を覚えつつも放置していた。木々の間から柔らかな足音が聞こえ、やがて木陰から一人の少女が現れた。


 彼女は可憐な容姿をしており、腰まで届く銀髪が月光のように輝いていた。澄んだ水色の瞳にはどこか控えめな優しさがあり、その表情には困った様子が漂っている。見たところルーシーと同じ歳頃で、物静かで大人しい雰囲気を纏っていた。


「す、すみません……私、道に迷ってしまって……ここでキャンプをされているのを見かけて……助けていただけませんか?」

 彼女の声は柔らかく控えめで、自然と聞く者の心に安心感を与える響きを持っていた。


 ルーシーは警戒心を持ちつつも、その可憐な姿に思わず目を奪われていた。一方、レティアは困った様子の少女に目を細め、微笑んで言った。

「うん、大丈夫だよ! 道に迷ったんだね……助けてあげるよぅー♪」


 フィオーレはその言葉に安堵の表情を浮かべると、小さく頭を下げて感謝の意を示した。

「ありがとうございます……ご親切に……」


 その場の空気は穏やかで、フィオーレの物静かな登場が二人の野営地に新たな展開をもたらしたのだった。


 レティアはフィオーレの可愛らしい姿を見つめながら、不思議そうに尋ねた。

「こんな森の中で、女の子一人なのぉ?」


 フィオーレは小さなため息をつきながら、控えめな声で答えた。

「えぇ、その……パーティを脱退したので、一人でも活動できるかと……腕試しをと思いまして。結果は……これですけど。あはは……はぁ……やっぱり、一人ですとダメですね。」

 そう言いながら、肩を落としたフィオーレの表情には寂しさがにじんでいた。


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