24話 冒険者ギルドで
レティアはルーシーの影に潜り込み、ひっそりとその中で過ごしていた。影の中から伝わってくるルーシーの感情——後悔と寂しさが入り混じった気持ち——に、レティアは胸が温かくなるのを感じていた。早く姿を現して抱きしめたいという衝動に駆られながらも、「今出たら追い返されちゃうかも」と思い、ぐっと我慢をしていた。
町の近くに差し掛かった頃、レティアはそっと影から飛び出した。そして、押さえていた気持ちが一気に溢れ出し、ルーシーの後ろからぎゅっと抱きしめた。 「ルーシー捕まえたー♪」 無邪気な笑顔を浮かべながら、楽しそうに声を弾ませる。
「きゃっ!? え? なんでレティーがいるのよ!?」 ルーシーは驚きの声を上げ、振り返るとため息をついた。しかし、その表情にはホッとした安堵と、どこか嬉しさが滲んでいる。自然と笑顔がこぼれてしまうのを隠せなかった。
「えへへ。ついてきちゃったのぉ! ふっふーん♪」 レティアは可愛らしくドヤ顔を決めて、得意げに答える。
「まあ、いいわ。……何かあるかもって思っていたわよ……明らかに、あんたの反応がなさすぎたものね。」 ルーシーはそっけなく答えながらも、その声にはどこか優しさが混じっていた。嬉しさが伝わってきて、レティアは思わず笑顔を浮かべる。
「……ちぇ〜! つまーんなーい!」 レティアはわざとつまらなそうな態度を取るが、ルーシーの感情が伝わってきて、心の中では嬉しさが溢れていた。
「家には言ってきたの?」 ルーシーが心配そうに尋ねると、レティアは軽い調子で答えた。 「町に行くって言ってないけど……2、3日で帰るかもって言っておいたよ。」
「そう、ならいいけど、おとなしくしているのよ。それと逸れないように……その、手を繋ぐわよっ。これは、仕方なくだから!」 ルーシーは恥ずかしそうに顔を赤くしながら、少し強がった口調で言った。
レティアはその言葉に嬉しそうに頷き、ルーシーの手をしっかりと握った。二人の間には、言葉にしなくても伝わる温かな絆が流れていた。
町の入り口でレティアは目を輝かせながらルーシーに尋ねる。 「うん♪ ルーシーは、なにをしに来たの? おかいもの?」
その問いに、ルーシーは軽くため息をつき、呆れたように答えた。 「もう、あんた……人の話を聞いてなかったの? 出発する時にも説明したけど……冒険者ギルドで依頼の確認をするのよ。暮らしていくにはお金が必要なの。服や装備に、食料も買わないといけないんだから。」
ルーシーの真剣な様子に、レティアは「そっかぁ」と小さく頷きつつも、あまり深く考えず微笑んでいる。ルーシーはしばらくして、何か思いついたようにレティアを見つめる。
「そういえば、レティーは何歳なのよ?」 急に真剣な顔をして尋ねるルーシーに、レティアは胸を張り、元気よく答える。 「わたし、6歳だよっ♪」
その答えを聞いたルーシーはため息をつき、少し遠くを見るような目をしながら呟いた。 「そうなのね……あと4年かぁ……はぁ……」
レティアは頬をぷくーっと膨らませ、不満げに問い返す。 「……むぅ。なんで、ため息なのぉ……?」
ルーシーは一瞬言葉を飲み込むようにしてから答えた。 「レティーが冒険者になるまで、あと4年も待つのかって思って……ん? あ、えっと……あんたがパーティに入りたそうにしているからよ。待っててあげるのよっ!」 いつものきつい口調で言い放つが、その声にはどこか残念そうな響きが混じっていた。
レティアはしばし呆然とした後、その言葉の意味を理解し、目を輝かせる。 『わっ。え? わたしを待っててくれる気だったんだ♪』
内心では嬉しさで胸がいっぱいになる。 「そっかぁ♪ ルーシー、ありがとねー!」 そう無邪気に微笑むレティアの様子に、ルーシーも少しだけ表情を緩ませた。
冒険者ギルドに着いたルーシーは、壁に貼り出された数々の依頼を眺めながら真剣な顔で吟味していた。その様子に、レティアは少し退屈そうな顔をして心の中でつぶやく。 「うぅ〜ん……ヒマ。つまんなーい……。」
ギルド内をきょろきょろと見回していると、受付で暇そうにしている人を見つけた。その姿を見つけるや否や、レティアは元気よく声をかけた。 「こんにちはー♪」
受付の人は少し驚いた様子で微笑みながら返事をした。 「ん? どうしたんだい? お嬢ちゃん。」
「わたしレティア。そこで、なにしてるのぉ?」 レティアが首を傾けて尋ねると、受付の人は苦笑しながら答えた。 「ふふふ……お仕事をしているんだよ。ここで依頼の受付とか説明をしているんだけど……この時間はヒマでね。」
その言葉にレティアは興味津々の顔をして、自慢げに話し始める。 「ふーん……わたしもね、冒険者になるんだー!」
受付の人は少し目を丸くしながらも、優しい笑顔で答える。 「そうなのかい。それは楽しみだなー。お嬢ちゃんみたいな可愛い冒険者が来たら受付も賑やかになりそうだ。ここには怖そうな男の人ばっかりだからね。」 その言葉にレティアは嬉しそうににっこり微笑んだ。