22話 冒険の夜の焚き火
「わぁ、焚き火っていいねぇ! 暖かくて、きれいだよぅ♪」 レティアは焚き火を囲むように座り、嬉しそうに手をかざして暖を取っていた。その無邪気な姿に、ルーシーも少し微笑みながら腰を下ろした。
「まあ……こうして火を囲むと、夜の山でも安心感があるわね。静かで落ち着くし……。」 ルーシーは火を見つめながら、小さく息をついた。
焚き火のパチパチという音が二人の周りに広がり、火の光が木々の影を揺らしている。二人は持ってきた食材を使って簡単な料理を楽しみながら話を始める。レティアが楽しそうにしゃべり出した。 「ねぇねぇ、ルーシー! 焚き火って何か特別な感じするねぇ。なんでだろー?」
「……それは多分、みんなが火を囲むと安心するからじゃない? 明るくて、暖かくて……魔物が寄ってこないってのもあるけどね。」 ルーシーは冷静に答えつつも、焚き火の心地よさに自然と微笑みを浮かべていた。
レティアは炎を見つめながら、ふと昔のことを思い出すように言った。 「……お父さんもこういう風に、みんなで焚き火を囲んだことあったんだろうなぁ。こうやって楽しかったとおもうなぁ。みんなで冒険の話とか、いろいろ聞いたんだろうね〜。」
「そう……レティーのお父さんは冒険者だったのよね。すごい人だったんでしょ?」 ルーシーが静かに問いかけると、レティアは少し誇らしげに微笑んで答えた。 「うん! すっごくすごい人だったよぅ。わたしも、そんな冒険者になりたいんだぁー」
「ふふ……その夢、叶いそうね。レティーなら無茶ばっかりだけど、才能があるし……。」 ルーシーは少しからかうように言いながらも、どこか優しい目でレティアを見ていた。
夜が更け、星空がさらに濃くなっていく中、二人は焚き火を囲んで穏やかな会話を続けた。レティアが時折口ずさむ鼻歌と、ルーシーの静かな相槌が心地よい調和を生む。
「これってさぁ、冒険者の憧れの夜だよねぇ! またこうやってキャンプしたいね、ルーシー!」 「ええ、いいけど……あんまり何度も火を焚いてると、薪がなくなっちゃうわよ。」 ルーシーが軽く笑いながら応じると、レティアも楽しそうに笑い声を響かせた。
焚き火の光が二人の顔を優しく照らし、無数の星が瞬き、濃紺の夜空に宝石のような輝きを放っている。山の頂上からは街の明かりもほとんど届かず、星々の鮮やかさが際立っていた。
「わぁ……こんなに星がいっぱい見えるなんて、すっごーい♪」 レティアが目を輝かせながら星空を眺める。その笑顔は、まるで子供のような純粋さを感じさせる。
ルーシーは少し肩をすくめながら、隣に座るレティアを見つめた。 「……こんなにきれいだと、わたしでも感動するわね。でも、レティーみたいに大げさにはしゃげないわよ。」
「えー! でもでも、この星空、ぜったい冒険の星なんだよぅ! ルーシーはどの星が好き?」 レティアが指を空に向けて、輝く星々を見つめる。ルーシーも視線を上げ、少し考え込むように答える。 「うーん……あれ、かな。あの、ちょっと大きくて輝きが強い星。」
「あ! わたしもそれ好きだよぅ! なんかね、探検したくなる星だよねぇ♪」 レティアが嬉しそうに語りながら、ルーシーの肩に寄りかかる。
二人は星座を探し始める。レティアが指を動かしながら星をつなげ、「これって……動物さんに見えるよぅ!」と嬉しそうに声を上げる。一方でルーシーは少し呆れた表情を見せつつも、「……そうね。星座って、見た人の想像次第よね。」と優しく答える。
その後、流れ星がひとつ、夜空を横切る。レティアが驚きの声をあげる。 「わぁ! 流れ星だよぅ! ルーシー、お願いごとした?」
ルーシーは少し照れながらも小さな声で答える。 「……まだ、決めてないわ。でも、お願いするなら……レティーが冒険に成功すること、かな。」
「えぇ!? わたしのことお願いしてくれるの? ルーシーってすっごく優しいねぇ!」 レティアが満面の笑顔を見せると、ルーシーは少し困ったような顔をしながら視線を逸らした。 「別に……特別なことじゃないわよ。気が向いただけよ。」
二人はそんな会話を続けながら、夜空に広がる星々を見つめ続ける。その静かで温かな時間は、心を満たすひとときとして忘れられないものとなった。
翌朝、東の空が薄紅色に染まり、朝日が山々を優しく照らし始めた。鳥たちのさえずりが静寂を破り、森に新しい一日の活気を運んでくる。
ルーシーは目を覚まし、軽く伸びをしながら隣を見る。そこには、穏やかな寝息を立てているレティアをそっと見つめた。その顔にはまるで何か良い夢を見ているかのような微笑みが浮かび、ルーシーの口元にも自然と笑みが広がった。
「……ほんと、寝てるときは無邪気なのよね。」 そう呟きながら、ルーシーは伸びを一つして静かに立ち上がる。
外に出ると、ひんやりとした朝の空気が頬を撫で、焚き火の残り火がまだ微かにくすぶっていた。焚き火の残り火に軽く風を送り、薪を追加して火を起こす。空気はまだ少し肌寒かったが、焚き火の炎が暖かさを提供してくれる。ルーシーは持ってきた食材を手際よく準備しながら、深呼吸をして森の香りを楽しんだ。