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12話 狼の群れに名前をつけた

 横たわった魔物を眺めながら、レティアは困った表情を浮かべて呟いた。

「これ、どーしよー? 重そうだし、触るの嫌だなぁ……」

 そんなことを考えながらあたりを見回すと、遠くから戦闘音や魔物の威嚇を聞きつけたノクスたちが、じっと見守るようにこちらを見ているのが目に入った。


「なんだぁ……ノクスたち来てたんだ!? ほら、仲良く食べなぁー♪」

 レティアがにっこり笑顔でそう声をかけると、ノクスたちはようやく動き出し、横たわる魔物のところへ向かっていった。食べ始めるノクスたちを見守るレティアは、ほんのり満足そうな顔を浮かべていた。


 一方、さっきの獲物の残りを狼の群れが食べ始めたが、それに気づいたノクスのリーダーが低い唸り声を上げた。

「ガルルゥゥゥ……」

 リーダーは威嚇をしながら狼たちに詰め寄り、その迫力に怯えた狼たちは草むらの隅に体を寄せ合い、すくむように身を縮めた。


「むぅ。めっ! イジワルしちゃダメ!」

 慌てて注意すると、ノクスのリーダーは拗ねたように「くぅーん」と小さく鳴き、しょんぼりしながら元の場所に戻っていった。


「さぁー食べて、えっと……なんて呼ぼうかなぁ……黒っぽい狼の群れだしぃ……シャドウパピーズかなぁ♪」

 そう呟くと、怯えていた狼の群れがレティアの周りに集まり、かわいらしく「わふっ♪」と鳴いた。彼女はその姿に思わず笑みをこぼしながら言った。

「うん。うん。食べてもいーよー♪」


 半分以上はすでにノクスたちに食べられていたが、それでもまだ十分な量の獲物が残っていた。狼たちは静かに食事を始め、その光景を眺めていたレティアは、少し飽きてきたのか新しい遊びを始めた。


 虹色の剣を手に持ち構えた彼女は、剣を伸ばしたり縮めたり、自由自在に形を変えて振り回してみた。

「うぅーん……あと、弓矢かなぁ。」

 剣を弓矢に変えると、今度はそれを構え、近くの木を的に狙いを定めた。

「的は……木でいいかぁ〜」


 ギギギィーと弓矢を引くと、音もなく矢が放たれ木に当たると小さな音をたてた。


『パシュッ』

 

 無音で放たれた虹色の矢は、まるで猟や隠密行動に最適な道具のようだった。その特性に気づいたレティアは、わくわくした気持ちを抑えきれない様子で興奮気味に言った。

「わぁ、これすごーい! 音がしないなんて……びっくりだよぅ。」


 さらに彼女は空を飛ぶ鳥を狙い、矢を放った。その矢は自動で軌道を修正し、目標にまっすぐ向かっていった。

「わっ、え? あぁ……虹色の能力かぁ♪ てっきりわたしの実力かと思っちゃったよ。練習もせずに当たるわけないよね〜」

 

 そう言いながらも苦笑いを浮かべるレティア。その後も彼女は手を空にかざし、小さな虹色の球体を放った。球体は鮮やかに輝きながら空を舞い、次々と鳥に命中した。音もなく放たれるその球体が鳥に当たった瞬間だけ、静かな音が辺りに響く。

 

『パシュッ、パシュ……ッ』


 撃ち抜かれた鳥たちは、羽をゆっくりと広げながら空から落ちていき、地面に到達する時には『パサッ、パサッ』という静かな音を立てた。


「うん。これで人数分の鳥も獲れたねー!」

 レティアは満足げな笑顔を浮かべながら、小さな声で嬉しそうに言った。その瞬間、虹色の動物たちが健気に動き出し、せっせと獲れた鳥を運んできた。


「わぁ……ありがとー、動物さんたち♪」

 彼らが一生懸命働く姿を見て、レティアの顔には自然とまた満面の笑みが浮かんだ。彼女にとって、この穏やかで健気な瞬間が特別な喜びをもたらしていた。


 結構な時間が経っていた。レティアはふとルーシーのことが気になり、気配を探りながら彼女の元へ向かった。草むらで弓矢を構えているルーシーを見つけると、レティアは嬉しそうに笑顔で駆け寄った。


「ルーシー。ノルマは、たっせいしたぁー?」

 屈託のない声で問いかけるレティアに、ルーシーはムスッとした表情を浮かべながら答えた。

「レティー、静かにしてよねっ。見て分かるでしょ! まだ、狩りの途中よ。」

 厳しい口調だったが、その声にはどこか照れくささが含まれていた。


 ルーシーは弓を構えながらちらりとレティアを見て、小さくため息をついた後、少し恥ずかしそうに言葉を続けた。

「あ、あと1羽で4人分の夕食になるわよ……別に、あなたに喜んでほしいなんて思ってないけれどね! お世話になるんだし、ご両親の分もと思って……」

 顔を背けながら、草むらに視線を向け、獲物を探すふりをしていた。


 レティアはその言葉を聞いて、ふと自分も鳥を狩っていたことを思い出した。

『あ、わたしも鳥を狩ったんだった……明日の朝食にすれば良いかー♪ わたしは、ラクをして魔法でちょちょいと簡単に狩ったけれど……ルーシーは自分の目と耳、経験と忍耐を使って時間を掛けて獲ってくれたんだもんっ!』

 そう考えると、ルーシーの努力がいとおしく思え、レティアはつい感情が高ぶって彼女に抱きついた。


「わっ、ば、ばかぁ……狩りの邪魔よっ。邪魔をしにきたの……うぅ……べつに……良いんだけどっ。」

 ルーシーは顔を赤らめながらも、恐る恐る片手をレティアの背中に回した。そして、視線を泳がせながらぼそりと言葉を続ける。

「わたし、お姉さんだしね……歳下の子の面倒ぐらい見なきゃね。」


「うん。ありがとー。ルーシーお姉ちゃん♪」

 レティアが満面の笑顔でお礼を言うと、ルーシーは一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに驚きの表情に変わった。

「ふんっ。当然よ……。お姉ちゃん……!?」

 その言葉に反応して、ルーシーの顔は真っ赤になっていた。


「どうしたの? ルーシー顔が真っ赤だよぅ〜?」

 レティアは首を傾げながら無邪気に聞いた。


「う、うるさいわよっ。獲物が逃げちゃったじゃない……」

 ルーシーは拗ねたように呟き、慌てて腕を離した。その仕草がどことなく可愛らしく、レティアはますます嬉しくなった。

 

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