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第8話:金か、血か。競馬場に渦巻く欲と人間模様

――1976年(昭和51年)4月22日(木)。

水島蓮が“昭和に転生”してから10日が過ぎていた。


【現在のクエスト】

● JRA馬主資格を5年以内に取得せよ(期限:1981年4月11日まで)

● 残り期間:4年11ヶ月と20日

● 現在所持金:68,400円


時間は、確実に減っている。


東京・府中。週末の開催に向けた下見を兼ねて、蓮は競馬場周辺を歩いていた。


競馬新聞を広げて、立ち話に花を咲かせるおじさんたち。

公衆電話から誰かに馬名を叫ぶ若者。

見た目はラフでも、目だけが鋭く光っている玄人風の男。


(昭和の競馬って……やっぱ、今よりずっと“匂いが濃い”)


すれ違うだけで感じる。

ここに集う人々の多くは、夢ではなく金を追っている。



「へい兄ちゃん、いい話あんだけどさ――どう?」


声をかけてきたのは、チェック柄のシャツにサングラスの男。

手にはメモ帳。片耳に鉛筆を挟んでいる。


「なにがです?」


「オレの◎◎って馬がさ、今週末めっちゃくるよ。情報料千円で教えるよ。

 調教タイムと馬主筋の内情報。来るから、マジで」


蓮は、目を細める。


(調教も見てないやつが“来る”って断言する時点でアウト)


昭和の競馬場は情報が少ないぶん、“情報屋”が跳梁跋扈していた。

もちろん中には本物もいる。だが、大半はハズレ。


蓮は軽く首を振ってその場を離れた。



喫茶店「サンビーム」。競馬場の裏手にある古びたカフェ。

コーヒーを一杯注文し、蓮は持参した出馬表を広げる。


図鑑をこっそり起動し、今週末の出走馬を順にスキャンしていく。


だが、異変が起きた。


(……あれ?)


何頭かの馬に、赤い警告が表示されている。


■馬名:サクラレグルス

【将来の成績】クラシック戦線候補 → 【非アクティブ】

【理由】主戦騎手の進路変更・所有者未確定

【警告】このまま放置すると誕生自体が取り消される可能性:高


「……そういうことか」


図鑑の中で、未来が次々と“霧に覆われて”いく。

ほんのわずかなズレ――

たとえば、馬主の資金繰り失敗。調教師の移籍。繁殖牝馬の取引断念――

そんな“見えない分岐”で、未来の名馬は簡単に消えてしまう。


(逆に言えば……俺が拾えば、繋がるかもしれない)


未来を守るためじゃない。

これはもう、自分の血統を創るための戦いだ。



その時、ふと視界に入った記事に、蓮の目が止まる。


『テンポイント、今週は休養明けも注目』

『トウショウボーイ、デビュー間近――2歳戦線に異彩の血』


蓮の脳内に、スキルが自動的に応答する。


■テンポイント

スピード:S

成長型:早熟持続

血統:コインドシルバー系/母父ロイヤルチャレンジャー

※ 77年 有馬記念優勝 → 三強時代形成


■トウショウボーイ

スピード:S

瞬発力:S

血統:プリンスリーギフト系 → 父系衰退の危機

※ 将来のライバル:グリーングラス/テンポイント


昭和三強――まだその言葉がない時代。

だが蓮は知っている。この3頭がやがて、伝説になることを。


「こいつらとも……いつか、俺の馬でやりあう」


まだ遠い夢。だが、明確に目指すものができた。

スターと渡り合うには、まず“自分の馬”を持たなきゃ始まらない。



その夜。

下宿に戻った蓮は、あらためてクエスト画面を開いた。


【現在のクエスト】

● JRA馬主資格を5年以内に取得せよ

● 残り:4年11ヶ月と20日

● 所持金:68,400円

● 達成条件:年収1,700万円 または 資産7,500万円


「さすがに遠すぎるな……」


1レースごとに数万円増やしたところで、焼け石に水。

次にやるべきこと――それは、爆発的な増資手段を見つけること。


「……さて。ここからが本当の勝負だ」


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