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第40話:記憶に賭ける日

【クエスト進捗】

● 所持金:661,400円(生活費差引後)

● 残り期間:4年9ヶ月と11日

● 現在の目標:馬主資格取得

 必要資産:5,000万円相当 or 年収1,700万円以上(昭和基準)

【日付】

1976年(昭和51年)6月27日(日)



あのとき、たしかに俺は、この週末の重みを意識していなかった。


ただの競馬の週末。

ファームの仕事に追われるだけの、いつもの朝のひとつ。


だけど今――

目の前に広がるのは、“未来の記憶”が揺らぎ始める、大舞台。


 


【宝塚記念】――中央競馬、上半期の総決算。

グランプリ。春の王者を決める戦い。


そして、出走馬の名を見た瞬間。

蓮は、息を呑んだ。


 


《トウショウボーイ》――その名は、記憶の奥に、強く刻まれていた。


未来で語られる“天馬”。

後に三強時代を築く伝説の名馬――その始まりが、このレースだった、はず。


 



WINS新宿。

場内のモニターには、阪神競馬場のスタンドとパドック映像が映し出されていた。


朝から新聞片手の男たちが熱を帯びた声を飛ばし、馬券窓口には長蛇の列ができている。


 


蓮は、壁際で一人、じっと馬柱を見つめていた。


 


(記憶じゃ、この馬が勝った。……でも、全部が同じとは限らない)


調教の時計。パドックの雰囲気。前走の内容。

展開、馬場状態――微妙なズレがある。


(俺がこの世界に来たことで、“未来の結果”が変わる可能性はある)


(なら、記憶だけじゃなく、“今の目”で選ばなきゃ意味がない)


 



そのとき――

ふいに肩越しに、低い声が届いた。


 


「やっぱり来てたか、水島くん」


振り返れば、例の男――柏木が、コーヒー片手に立っていた。


 


「今日のグランプリ、どう読む?」


「本命は――決まってます。あとは、相手をどう絞るかです」


 


柏木が、わずかに口元をほころばせる。


「おお、頼もしいね。それで、誰に賭ける?」


 


蓮はペンを走らせる。



【蓮の最終買い目】

•馬連:⑧トウショウボーイ-③カツラノハイセイコ/⑥メグロモガミ/⑤アサカオー

•3連単フォーメーション:1着⑧ → 2着③⑥ → 3着③⑥⑤(6点)

•総投資額:42,000円



(1番人気に素直に乗るだけじゃ勝てない。

“どの馬が噛み合って、どう走るか”まで読んで――初めて勝ちきれる)


 


柏木が一言、ぽつりと漏らす。


「人気馬に流す奴は多いけど、

“無駄のない馬券”を打てる奴は、そう多くない。……いい目をしてるよ」


 


蓮は無言で頷き、静かに窓口に向かった。


馬券が発行される音。

記入した数字が、現実に変わるその一瞬――手が震える。


(頼む、“今の俺”の選択が、当たっていてくれ)


 



午後3時40分――発走。


ファンファーレが鳴り、蓮の心臓も同じリズムで跳ねた。


 


「ゲートが開いた! 1976年、宝塚記念――スタートです!」


先行するのはカツラノハイセイコ、メグロモガミ。

後方で静かに脚を溜めるのが、⑧ トウショウボーイ。


(来い……ここから、あいつは飛んでくる)


 


第4コーナー――


 


「外からきたァァァッ! トウショウボーイ、すさまじい末脚ッ!!」


「先行勢が粘る中、外から一気に差し切ったァァッ!!」


 


ゴールイン。

•1着:トウショウボーイ(1番人気)

•2着:カツラノハイセイコ(2番人気)

•3着:メグロモガミ(3番人気)


 


記憶と、結果は――ほぼ合っていた。


でも、どこかが少しずつズレていた。


 



払い戻し窓口。

蓮の手に戻ってきた現金は――76万8000円。


 


静かに封筒を受け取ったそのとき、柏木が再び言った。


 


「展開は……君の読みと、どうだった?」


 


「少し違いました。トウショウボーイの仕掛けは、思っていたよりも早かった。

相手も、順番が入れ替わっていた。……でも、結果としては、合ってました」


 


「ふむ」


柏木は煙草に火をつけながら言う。


 


「どんな天才でも、“全部を当てる”のは不可能さ。

だが、“無駄を省いて、勝ち筋を絞れる目”――それは育てられる。

君は……その“目”を、持ち始めてる」


 


蓮は静かに深呼吸をした。


 


(未来は、完全じゃない。全部は見通せない)


(でも――)


 


(俺の“目”が育てば、未来だって読み直せる)


(今のこの世界で、俺が選び、掴む。その力を育てていく)


 


静かに、蓮はWINSを後にした。


その手の中には、大金と――たしかな“感覚”が、残っていた。

ガチガチ馬券……記憶を試すには良いか

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