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第30話:若駒と夢と、育てる側の視点


【クエスト進捗】

● 所持金:684,000円(生活費・交通費差引後)

● 残り期間:4年9ヶ月と28日

● 目標:馬主資格取得(JRA)

 必要資産:時価5,000万円相当 or 年収1,700万円以上



1976年(昭和51年)6月13日(日)――午後。


蓮は、再び《南坂ファーム》の敷地を訪れていた。

前日見てきたグラスフィアの存在が、自分のなかで強く根を張りはじめていたからだ。


だが、それ以上に――

“育てる”という視点を、もう一度見直したくなった。



「おう、戻ってきたか」


敷地内の角で草刈りをしていた作業着の男――俊さん、こと矢野泰三が、帽子を持ち上げて声をかけてきた。


「昨日、埼玉まで行ってきました。俊さんの言った馬、見ました」


「……で、どうだった?」


蓮は一呼吸置いて、力強く答えた。


「間違いなく、見る価値がある馬です。

 血統だけじゃなく、馬自身の“反応”が良かった。気性も人懐っこいけど、芯がある」


「そうか」


矢野は、黙って草刈り機のエンジンを止めた。


「じゃあ、ひとつだけ――お前に聞いてみよう」


蓮は顔を上げる。


「馬を“育てる”って、どういうことだと思う?」



不意を突かれたような質問だった。


「血統や、適性を活かす環境を……整えて――」


「それもある」


矢野は刈り取った雑草の山を、靴先で蹴った。


「でもな。馬は“予定通り”には走らねぇ。

 こっちが思う成長曲線、こっちが望む仕上がり――全部、裏切られることの方が多い。

 だからこそ、“その馬が何を求めてるか”を感じる必要がある」


「……“感じる”?」


「調教師でも厩務員でも、本当に馬に向き合ってる奴は、言葉の代わりに“反応”を見る。

 耳の動き、目線、尻の緊張、汗の出かた――全部だ。

 そいつに“応えた”とき、初めて――育つ」



蓮は、黙ってその言葉を飲み込んだ。


(俺は、図鑑で“因子”や“配合”を見抜ける。

 でも、それを“生かす現場”のことは、何も知らないに等しい)


「俊さん、俺――育てる側のこと、もっと知りたいです」


矢野は笑った。


「そりゃあ、血統オタクがそんなこと言い出すとは思わなかったな」


「知識だけじゃ、勝てないってわかったからです。

 ――だから、時間をもらえませんか? 馬の手入れや、日常の作業でも構いません。

 少しでも、“馬と向き合う”感覚を知りたい」


矢野は、しばらく蓮の顔を見て――ゆっくりとうなずいた。


「なら、明日から来い。早朝5時集合な。

 最初は馬糞と格闘してもらうが、それでもいいならな」


「もちろんです!」


蓮の声は、土の匂いを吸った空に、真っ直ぐ響いた。


まぁまずは土台作りからよな

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