第20話:運命の出会い再び。あの日の“先輩”と、馬の話を
1976年(昭和51年)5月23日(日)――東京競馬場。
昨日の雨が嘘のように晴れ、やや重馬場ながらも爽やかな風が流れていた。
蓮は、パドックで1頭の牝馬を見つめていた。
【スカーレットマリィ】
牝3歳・500万下クラス
父:ダンディルート 母父:パーソロン
【評価:爆発力持ち/瞬発力特化】
【将来の牝系構築候補】
【担当厩務員:俊吾】
(今日の主役は、この馬……だけじゃない)
⸻
ふとした瞬間、パドック脇に立つ女性の姿が目に入る。
白いワンピースに薄いカーディガン。肩までのストレートヘア。
清楚で、けれど凛とした空気を纏うその横顔は――
(渡瀬葉月……やっぱり、綺麗な人だ)
大学でも有名な“先輩”。蓮は転生直後から彼女の存在を知っていたが、
今は少し違う感情がそこにある。尊敬と、共感と、ほんのわずかな距離。
⸻
「昨日の馬券、当ててたでしょ?」
急にかけられた声に、蓮は少し驚いた。
「……見てたんですか?」
「ええ。俊吾の馬だったから。なんとなく気になって見てたの。
……君、すごく冷静だったから、ちょっと印象に残ってて」
蓮は苦笑しながら頷く。
「おかげさまで、ちょっと資金が増えました」
⸻
「今日は、あの馬の応援?」
「そう。スカーレットマリィ。
俊吾が厩務員実習の時に関わってた子なの。
“ちょっとだけ関わった馬”って、つい気になっちゃうのよね」
(確かに、そういう想いってあるよな)
⸻
レース直前。
蓮がふと彼女を見ると、葉月もじっとパドックから馬を見つめていた。
目に浮つきはない。
この人は、たしかに“本気で”馬と向き合っている。
(ただの綺麗な人じゃない。……やっぱりこの人、強い)
⸻
そしてレース。
スカーレットマリィは中団で控え、直線一気の差し切りを決めた。
1着:スカーレットマリィ(牝3)
タイム:1:35.3(やや重)/差し切り勝ち
⸻
レースが終わった後、葉月は静かに言った。
「……あの子、ようやく報われたわね。嬉しい」
蓮も、何も言わずに頷いた。
⸻
帰り際、葉月がふと振り返る。
「そういえば、水島くん、だったわよね? 名前」
「あ、はい」
「……覚えてるわ。ふふ。また会えるといいな」
それだけ言って、彼女は人混みに紛れていった。
(やっぱり、俺……この人にちょっと憧れてたんだな)




