第19話:昭和の静かな反逆者たち。そして、ひとつの“誘い”
1976年(昭和51年)5月16日(日)。
東京競馬場の興奮が冷めやらぬまま、蓮は次のステージに目を向けていた。
【現在のクエスト】
● JRA馬主資格を5年以内に取得せよ(残り:4年10ヶ月と26日)
● 所持金:693,253円(生活費差引後)円
● 馬主資格審査:資産5,000万円相当 or 年収1,700万円以上(昭和基準)
目標資金(登録手続き+初期維持費):最低150万〜200万
(……登録に必要なのは100万円程度って聞くけど、あれはあくまで“初期費用”。
本当に大事なのは、審査に通るための“資産や年収”の証明だ)
【蓮の頭の整理メモ】
・登録実費:馬購入費・維持費・名義登録などで100〜200万円
・だがJRA馬主資格取得には「審査通過」が必須
→ 資産:おおよそ5,000万円相当 or 年収1,700万円以上(昭和基準)
→ 金だけではなく「実績」や「身元」も見られる
→ 現在の俺は、“まだその土俵に立てていない”
(まずは金。次に信用。どちらも揃わなきゃ話にならない)
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午後、蓮は例の喫茶店――ウィンズへ足を運んだ。
俊吾と出会ったあの時から、時が流れても変わらぬ雑多な雰囲気。
競馬新聞を広げる男たちと、コーヒー片手にレースを語る老婦人。
そんな中、ひときわ浮いた存在が一人。
テーブル奥の窓際で静かに紅茶を飲んでいたのは――谷川だった。
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「やあ、若造。来たか」
「……偶然ですか?」
「さあ? 偶然ってことにしておこうか」
谷川は40代前半。仕立ての良いグレーのスーツにオールバック、
どこか高級なホテルマンのような物腰で、眼鏡越しの視線は冷静に蓮を測っていた。
(……本当に“情報屋”か? それとも……)
蓮はわずかな警戒を残しつつ、谷川の前に座る。
「少し、面白い資料を手に入れてね。君に渡しておきたかったんだ」
谷川が差し出した封筒には、一口馬主クラブの案内と、
小規模牧場による分譲馬システムのパンフレットが入っていた。
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「君のように“血統を繋ぐ”ことを考える人間には、選択肢がいくつかある。
その一つが、この手の“持ち分制度”だ」
「……メリットは分かります。初期費用を抑えて馬に関わることができる。
でも、自由度が低い。育成方針や配合にも口出しできないケースが多い。
まして、系統確立を目指すなら、“自分の馬”じゃないと成立しない」
蓮の言葉に、谷川は小さく頷いた。
「正直でいい。……でも、全否定はしていないんだな?」
「そりゃ、魅力的な馬がいれば……一口出資も考えますよ。
血統的に価値があると判断すれば、データを得るだけでも意味はある」
「うん、いい感覚だ。慎重だけど柔軟。
“今はやらない”って判断も、十分賢い」
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少し間を置いて、谷川は声を潜めた。
「ここじゃ深い話はできないが――
次に会うなら、もっと“静かで耳のない場所”を用意しよう」
蓮は驚きもせず、ただ静かに頷いた。
「その時は、もう少し“聞く覚悟”を持っていきます」
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その夜。蓮は図鑑にメモを追加した。
【資金戦略補足】
・登録資金と審査条件は“別物”
・当面の目標:資金100〜200万円 → 信用構築 → 審査突破
・一口馬主:慎重だが前向きに検討/将来出資候補あり
そして、カゲツスワローのページに目をやる。
【状態:安定】
【評価:繁殖適性“可能性あり”】
→次期評価:あと66日
(俺の“血統構想”は、ここからが本番だ)




