第13話:とある馬券師と、危うい提案。情報の裏にある罠
1976年(昭和51年)5月1日(土)。
蓮が昭和に転生してから――ちょうど19日が過ぎた。
【現在のクエスト】
● JRA馬主資格を5年以内に取得せよ(残り:4年11ヶ月と10日)
● 所持金:73,200円(※生活費差引後)
【この1週間の収支:+13,600円】
少額ながらも堅実な馬連・ワイドを重ねて当て、週を通して安定的な利益を得た。
まだまだ遠い目標ではある。
だが、蓮は確かに“階段を一段上った”という手応えを感じていた。
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「……学生のクセに、渋い勝負してんな」
場外馬券売り場の片隅、ベンチに座った蓮に声をかけてきたのは、
古びた新聞を背中に背負ったネクタイ姿の中年男だった。
白シャツにくたびれたスラックス、だがその目には“現場の経験”が滲んでいる。
「さっきの買い方、見てたよ。
5番人気と7番人気のワイド1点買い。……見事な読みだったな」
「……偶然ですよ」
「偶然が続くなら、それはもう実力だ」
蓮はわずかに表情を崩す。だが、油断はしない。
この手の“馴れ馴れしい情報屋”には、ろくな話がない。
「……一つ乗ってみないか?明日の“中山9R”。これは、信頼できる筋からだ」
男はそう言って、小さな紙片を差し出した。
書かれていたのは――本命馬+伏兵3頭。
(この展開、どこか既視感がある……)
蓮は図鑑でその馬たちを即座に確認。
うち1頭だけは、展開と血統的に「確かに面白い」と思えた。
しかし――同時に、図鑑の下部に薄赤の警告表示が現れる。
【注意:この情報は他者にも流通済みの可能性があります】
【現在、同内容が別地区で3件以上使用中】
(……やっぱり、“ばら撒き型”か)
「じゃあ……参考にさせてもらいます。ワイドで、ちょっとだけ」
「堅いなあ。坊主、お前、なかなか良い目をしてるぞ」
男はそう言って立ち去る。
だが、去り際、こんな一言を残した。
「外れたら、それもまた経験だ。俺も、昔はそうだった」
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翌日・中山9R――
結果:本命1着、伏兵いずれも掲示板外。
蓮の買い目:ワイド1点・不的中。
収支:-1,000円 → 所持金:72,200円
損失は小さい。
だが、蓮の中では一つの“答え”が出ていた。
(情報だけに頼ると、こうなる。
図鑑も、過信すればただの辞書だ。……最後は“俺の目”)
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「もう迷わない。――勝ち続けるために、必要なことだけ拾っていく」
そう誓った蓮の瞳には、あの日よりも少しだけ“覚悟”が宿っていた。