第12話:未来の馬を、この手で――資金戦略と血統構想の始動
1976年(昭和51年)4月26日(月)。
週末の競馬が終わり、場外馬券売場も静かさを取り戻していた。
【現在のクエスト】
● JRA馬主資格を5年以内に取得せよ(残り:4年11ヶ月と15日)
● 所持金:59,600円
蓮は下宿の机で、大学ノートを広げて考え込んでいた。
(……月2〜3万のペースじゃ、ダメだ)
現実を突きつけられていた。
JRA馬主資格には「資産7,500万円」あるいは「年収1,700万円以上」という条件。
どちらも、単純に計算すれば毎月100万円以上の増資が必要なレベル。
(いずれ大きなチャンスを掴むにしても、今のままじゃ焼け石に水だ)
⸻
蓮はペンを走らせながら、短期・中期・長期の資金戦略を練り直していった。
【短期】馬券収支で月+3〜5万円を目標に。確度の高い情報で時折ジャンプ。
【中期】競馬関連事業のクラブ的出資 or 情報筋の紹介による副収入の機会を狙う
【長期】血統構築を軸とした「所有価値のある繁殖牝馬」の取得と運用
(馬券はあくまで“きっかけ”で、主軸じゃない)
馬主になるというのは、ゴールじゃない。スタートラインだ。
本当の勝負は、そこから始まる。
だからこそ、安定的に立ち続ける“仕組み”が必要だ。
⸻
《血統チート図鑑》を開く。
ターゲットは――“1976年現在の3歳牝馬”。
蓮が注目したのは、名も知られていない一頭。
■カゲツスワロー(3歳牝)
父:サウンドトラック × 母父:ヒンドスタン
【因子:根性◎/健康◎】
【血統評価】黄金配合候補 × 因子連鎖あり
【将来性】仔に“爆発力50超”配合ルートあり
【注意】現状未勝利/放牧明け/早期引退の可能性:高
(……こいつだ)
蓮は、図鑑に表示された“爆発力”という数値を見つめる。
爆発力――
血統の相性・因子の重なり・成長型の噛み合いなど、
すべてが揃ったときに発生する“配合の火力”。
高ければ高いほど、出てくる産駒は“バケモノ”になり得る。
※50超は、現代基準でもトップクラス。
ただし、構築難度・牝系維持・資金力など高ハードル。
(史実じゃ消えてたこの馬を、俺が“繋げる”)
⸻
図鑑をさらに掘る。
将来的にこの馬が産むのは、
スピード・瞬発力・根性を併せ持つ“黄金配合型”の仔。
もしその仔に、さらに特定の種牡馬をかけ合わせれば――
■将来配合案例:
父:マルゼンスキー系
父母父:ノーザンダンサー系
【爆発力:52】/【黄金配合】/【SP因子3連鎖】
(このために、俺が馬主になる……そう言ってもいいくらいの血だ)
ただし――この牝馬が未勝利のまま引退すれば、
繁殖には上がらず、図鑑からも“非アクティブ化”されてしまう。
(……運命を、俺が拾う)
そのためにも、資金は必要だ。
⸻
再びノートに目を落とす。
資金ルートは馬券だけじゃない。
この時代にはまだ、制度としての一口馬主は普及していない。
だが――
(“共同出資”の形で、クラブ的に出資を集める牧場がある。
もしそこに、将来の大物が眠っていたら……?)
スキルで未来の素質を読み、他人より早く気づくことができる。
それはつまり――“馬券外”のリターンを得るもう一つの手段だ。
⸻
資金戦略の柱は3つになった。
1.馬券で生き残りつつ、ジャンプのタイミングを見極める
2.“競馬に関わる出資枠”を掴み、裏ルートで利益を狙う
3.消える未来の才能を救い、繁殖の起点を押さえる
すべては、「未来の血」を“自分だけの形”で育てるために。
蓮は静かにノートを閉じ、こう呟いた。
「――この世界で、俺が“血統の神話”を創る」