第9話:情報屋、詐欺師、そして光る眼――“競馬”の裏表
食費・交通費など生活費分差引するの忘れてました。
この話から反映とさせてください。
(数日分の生活費は差引させました)
1976年(昭和51年)4月23日(金)――
水島蓮が昭和へ転生してから11日目。
【現在のクエスト】
● JRA馬主資格を5年以内に取得せよ(残り:4年11ヶ月と18日)
● 所持金:63,200円
東京競馬場の外れは、週末開催を控えてじわりと熱を帯び始めていた。
出馬表を片手にしたおじさんたち、立ち話で声を荒げる自称“情報通”――
この時代の競馬場には、金と欲望の空気が色濃く漂っていた。
(やっぱ、昭和の競馬場って濃いな……)
情報がネットに載ることもなければ、映像で即確認できることもない。
だからこそ、“話術”と“顔”と“雰囲気”で信じさせる“情報屋”が跳梁跋扈する。
「兄ちゃん兄ちゃん、4レースの◎◎が絶対来るってよ」
またか、と蓮は軽く流す。
⸻
喫茶店「ウインズ」。
蓮はそこで、静かにコーヒーを啜りながら出馬表を睨んでいた。
スキルは使わない。“この時代の空気”を肌で感じるのが今日の目的だった。
そのとき、ふと後ろの席から――
「……あの馬、3角で詰まるぞ。手前戻しが早すぎる。
あの騎手、仕掛け遅れるからな。最後止まる」
(……!?)
蓮の集中が、一気にその声へと向けられた。
「しかも、追い切り3本目が軽すぎる。脚は仕上がってねぇよ。時計出ても中身スカスカだ」
聞き覚えのない声。けれどその言葉には、蓮の中の何かが引っかかった。
(あれ……ただの情報屋じゃない)
⸻
声の主は、レンズのない眼鏡にくたびれたハンチング帽、無精ひげの中年男。
カウンターで出馬表を見つめながら、淡々と話している。
熱も誇張もない。
ただ事実だけを語る口調――まるで、現場を知る者の“癖”だった。
男が席を立つ。
蓮も静かに後を追う。
声をかけようか迷っていたそのとき――
男が立ち止まり、こちらを振り返った。
「……ガキが、なにをコソコソ見てやがる」
睨みつけられた、というより、見透かされた気がした。
「騎手か?それとも学生記者か?」
「……馬が好きなだけです」
男は鼻で笑うと、つま先で足元の石を蹴った。
「“左手前”なんて単語、今の坊主が使うかよ。珍しい目をしてるな」
そう言うと、男は丸めた新聞の切れ端を足元に落とした。
『土曜6R 外枠の馬。雨で人気が落ちたら、それが狙い目』
そして、その裏に手書きの小さな一文。
「馬は、案外雨を気にしない」
蓮は、口元に苦笑を浮かべる。
(……見られてたのは、俺の方か)
「坊主。覚えとけ。馬を“見る”目と、馬を“育てる”目は、違うもんだ」
男はそう言い残して、場外の奥へと消えていった。
その背中に、蓮は目を奪われたままだった。
(あの人……何者だ?)