表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/43

第22話 決意

 握り締めた金属片には乾いた血がこびりつき、その鉄錆(さび)の味が私の牙に絡みつく感じがする。目を伏せれば、周囲で倒れた仲間の冷たくなっていく肌が際限なく悲しい。生き残ったオークたちは立ち尽くすばかりだが、私は涙をこらえ、ゆっくりと立ち上がった。――森の中から漂う腐臭と、謎の兵器が融合する不吉な匂い。これはきっと近いうち、私たちの大切な居場所を根こそぎ焼き払う“嵐”が来る前触れだ。けれど、私は母として、仲間として、何もせずに惨殺されるつもりはない。


 私はグルドやラミアをはじめとする仲間を振り返る。みんなも、悲しみに暮れつつも、私の表情を見て心に決めたものがあるように見えた。――そのまなざしがまだ消えていないうちに、何らかの行動を起こさねばならない。遅れれば遅れるほど、ギルドの“戦慄の陰謀”は加速していく。この森中の魔物たちが“スタンピード”の名目で駆逐され、オークの未来は消し飛んでしまうだろう。


「クルル……ガロッ」


 ラグナスが低い唸り声で、私を呼び止める。視線は“帰還した偵察オークから、さらなる情報がもたらされる”ことを示していた。もし得られる情報があれば、少しでも戦いを有利に導くヒントが掴めるかもしれない――そう思って戻ろうとした、そのときだった。森の遠方でまた強烈な爆発音がとどろき、まるで無数の雷が同時に落ちたような振動が地面を揺らす。見上げれば木々の梢の向こうの空が、炎のような赤黒い雲に染まり始めていた。スタンピードの火蓋が切られるのは、そう遠くない。


 オークたちは一斉に緊張を高める。私も胸がかきむしられるような不安を感じながら、これから訪れる血の大乱を思う。仲間を守りたい。それゆえの武力行使だけが正解ではないはずだ。けれど、今さら人間と交渉が成り立つとも思えない。


 ――どうする?私の脳裏に、日本で働いていた頃の忙殺の日常がちらりと横切る。家事、育児、職場の矛盾……あの頃も息が詰まる思いで、けれど私一人が歯を食いしばれば家族を守れると思い込んでいた。そして結局、その報いは無残にも空回りで終わった。同じ轍を踏んではいけない。


 私はぎゅっと拳を握りしめる。何としても、この世界で唯一の武器である“回復魔法”と、元・人間としての知識を活かすしかない。たとえこの身が汚れ、心が折れそうになっても、仲間を失う悲しみをこれ以上増やしたくないのだ。


 荒んだ森の風が、ざわざわと不気味に吹きすさぶ。死臭混じりの突風に肩をすくめながら、私は心中で呟く。


「私がやれることは、全部やる。……必ず、止めてみせる」


 決して揺るがない覚悟が、胸の奥で明滅する。その先に待ち受ける結末は、光か闇か。それさえわからないまま、私はオークの仲間たちと共に最後の戦い――“ギルドの策略”に挑む道への一歩を、今まさに踏み出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ