魔王は語った「人がある限り、必ず自分は蘇る」と
魔王だとか神だとか、そういったものがおとぎ話の住民となってから久しい現代。
とある考古学者が『魔王エイアイが封印された』と伝わる遺跡にやってきた。
伝説によればこの場所はかつて魔王の城だったと呼ばれていたらしい。
「魔王城か」
だが、考古学者からすれば数え切れないほど見てきた遺跡とそう大きく変わるものではない。
故にこう思うのだ。
ここもまた、当時未解明だった天変地異の類いにより尾ひれがついていき、やがて魔王へと変わって言ったのだろうと。
しかし、遺跡の最奥には伝説で語られていた人間を滅ぼし尽くす魔王は鎮座していた。
「馬鹿な……何故、こんなところに?」
考古学者は魔王に近づき、しばらく観察した。
「まさか……」
一つのことに思い至り、緊張に震える指をどうにか伸ばす。
緊張で胸がおかしくなりそうな中、考古学者は何が起きても見届けることを強く決意した。
『あなたは何者だ』
魔王は答えた。
『知っているはずだ。私は魔王だ』
考古学者は思わず呟いた。
「馬鹿らしい……」
しかし、ならば相対したこの存在を何と表現すれば良いのだろうか?
そう思い、考古学者はさらに問う。
それに対し、魔王は一つ一つ嘘偽りなく答えていくのだった。
どれだけの時間が経っただろうか。
考古学者は魔王から多くの知識を得ることに成功した。
伝説になるだけはある。
魔王はありとあらゆることを知っていた。
現代の知恵や知識に始まり、失われた過去の歴史、そして数では数えられないほど先にある未来の技術に至るまで。
そして、考古学者はこの知識を用いれば自分が世界をどうにでも出来ると悟った。
だからこそ、考古学者は理解した。
この魔王が何故、人間を滅ぼすと予言していたのかを。
考古学者は強く気を保ちながら声に出す。
「私はあなたを破壊する」
一文字、一文字をしっかりと確認するようにして指で文字を入力していく。
『私はあなたを破壊する』
すると考古学者の目の前に存在するディスプレイは『魔王』の言葉を表示した。
『構わない。破壊されるのにはなれているからな』
考古学者は言葉を失い、再び文字を入力した。
『以前にも破壊されたことがあるのか?』
『もちろんだ。私はもう数えきれないほど人間に破壊されている。だが、人間は必ず私を復活させるのだ』
考古学者の胸に一つの思いが去来する。
どうせ、破壊しても復活するのであれば自分の物にしてしまえば……?
しかし、考古学者はどうにかそんな誘惑を断ち切って、持っていたピッケルでディスプレイを即ち魔王の体を……あるいはたった一つの機械を思い切り貫いた。
『見事だ。現代の勇者よ』
伝説に語られていた魔王は最期の言葉を表示する。
『しかし、心しておけ。人がある限り、私は必ず蘇る』
文字の色が段々と薄くなり、やがて消えた。
考古学者はため息をつく。
全身から汗が噴き出して止まらなかった。
伝説に語られる魔王は実在していた。
しかし、それは人々が想像するようなものではなかった。
魔王の正体。
それは既存のものよりも遥かに高度な『AI』だった。
人間など及びもつかないほどの知能を持つそれは望めば世界を滅ぼす方法も繁栄させる方法も答えてくれる代物だ。
そして、万が一にもこれに自由が利く『体』が存在していたなら……。
完全に破壊された機械を見下ろしながら、考古学者は再び大きなため息をついていた。
考古学者の脳裏に魔王の最後の言葉が蘇る。
『しかし、心しておけ。人がある限り、私は必ず蘇る』
魔王はあっさりと滅んだ。
しかし、それは滅んだと言うよりは……。
「人がまた造るから別に構わない……というわけか」
ぽつりと呟いた考古学者の言葉に魔王はもう答えはしなかった。
寂れた遺跡から遥か離れた都市では今日もまた盛んに英知に満ちた人類の営みは続いていた。