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3.夕焼けチャイム(1)

あおいおつむりは、やはり、ぴか一だ。

ド・ジョーがいたら、そう褒めそやすだろう。

マダムチュウ(プラス)(スリー)(ナイ)()も、目がハート型になるに違いない。


一階エントランスホール。

電子案内板があるのは、白鳥像の横だ。

画面をタッチしていた碧は、すぐに目当ての情報に辿り着いた。


「あった。これだ。〇〇クリニック」

思った通りだ。外部の医療情報データベースとリンクしているらしい。


碧は、一緒に画面を見ていたメンバーに、分かっている情報を整理して伝えた。


加羅からみかげ

せいフロランタン学園の中学生

・〇〇クリニックの院長の娘

・西センターのオーロラ・バレエ・スクールに通っていた


「あとは、夢の世界についてだけど……。もう、ありのままに言うしかないかな……」

碧も、さんざん考えた。

だが、本当のことを隠そうとするには、膨大な嘘が必要になる。


その全てを、この四人で言い合わせておくのは、ほぼ不可能だ。

そもそも嘘が付けないようもいる。

さらに無理だ。


「うん。言うだけ言ってみてさ、それから考えようよ」

あかつきはシンプルだ。

こちゃこちゃ考えても、相手の反応なんて、やってみなくちゃ分からない。


碧は苦笑した。

そうだな。このくらいでいいのかもしれない。


もも、どうした?」

陽が、妹を見下ろした。

桃は、隣の銅像をじっと見ている。


「黒鳥さん、元気かな」

ぽつりと呟いた。

切れ長の目が、少しうるんでいる。


あのとき。右端で羽を広げている像に、自分は乗っかっていた。

だから、きっとこれが筋肉きんにく四郎しろう五郎ごろうマッスルもんだ。


「そうだな」

陽は相槌を打つと、銅像の前に近づいた。


『飛翔』

台座に彫られた文字は、ちゃんと本来のタイトルに戻っている。

よかった。『筋肉』のままじゃなくて。


暁も、それに気づいた。

すっと近寄ると、桃と碧に指で指し示す。


二人も寄ってきた。

桃が、くすりと笑う。

碧の顔もほころんだ。

くすくす。みんなで、像を囲んで、ひとしきり忍び笑いをする。


不思議なことばかりだ。


エントランスホールは、いつもと変わらない。

簡易ベンチに座って待つ、大人の利用客。

プレイコーナーで遊ぶ親子連れ。

自動ドアから雪崩なだれ込んできて、真っすぐに階段を上がっていく、数人の子ども。


みんな、知らないんだ。

ここが、夢の世界と繋がっていることを。


「そういえばさ、気付いたんだけど」

碧が真顔になった。

辺りをはばかって、ちょっと小声になる。


「あっちの世界にいるとき、トイレに行きたいって思った?」

いきなり変な質問だ。


でも……。そういえば、けっこう長い間なのに、一度もそんなことはなかった。

全員、首を横に振る。


「戻ってから、すごく行きたくなった」

桃が小さな声で言う。ちょっと恥ずかしい。


「あ! 私もだよ!」

はきはき、暁が同意する。

桃と違って、まったく恥じらいが無い。


「俺は、ものすごくハラが減ったなあ」

「お兄ちゃん、帰ってから凄い勢いでおやつ食べてた」

さらに、夕飯も普段の二倍平らげたため、父親用に取りのけたおかずが消滅し、炊飯器のお釜が空になったそうである。


碧は得たりと頷いた。

「これは、仮説なんだけど」

慎重に切り出す。確証はない。


「夢の世界にいる間は、肉体が影響を受けてしまうんじゃないかな」


どんなに長い間、あの世界にいても。

あそこではお腹は空かないし、トイレにも行きたくならない。


「だけど、人間だって生き物だろ? 生理現象も食欲も、無理やり抑え込まれた状態が延々と続いちゃったら、」


陽が後を引き取った。

「保たないなあ」


あれ以上長くいたら、自分は、帰るなりカラカラにしぼんでしまうことだろう。

そうだ。まるで、竜宮城から帰ってきて玉手箱を開けた、浦島太郎のように。


桃が呟いた。

「みかげも危険だけど、私たちもそうなのね」


桃源郷を訪れるリスクは、帰れなくなることだけではないのだ。


「うん。ご飯もそうなんだけど、トイレも深刻だと思ったんだ。不自然に排泄の機能がストップし続けていたら?」

確実に体を壊す。


「まずいなあ」

陽も納得して天を仰いだ。

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