表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/78

22.墓場(1)

マッチョ・スワンズが、そろって嫌がる場所。そして、巫女のピュティアが、あれほどまでに厭う「墓場」。


建物内だけど、本当にお墓があるのかな?


巨大な白鳥に乗りながら、あおいは周りを見渡した。

やっぱり、案内板の浮舟より、筋肉二郎の鞍に座っている方が、安心していられる。


ガルニエ宮の、豪奢な廊下だ。

ピュティアの帯が、川になって流れている。


巨大なスワンズは、一列に並んで泳いでいた。

『1』『2』『3』『4』の順だ。


先頭の筋肉一郎だけ、乗り手がいない。

空っぽの鞍の横に、ド・ジョーが水球を並べて、ふよふよと伴走している。


ぽうっ……

水球が、明かりを灯した。

カラフルな模様が、消えた。つるつるの大きな電球が浮かんでいるような眺めだ。


乗っている金色の魚体が、キラキラ反射して光っている。

碧は、後ろで見惚れつつ、気が付いた。


そうか。薄暗いんだ。


胡蝶たちが舞い踊っていた大階段は、まばゆいほどの光に満ちていた。

だが、どんどん進んで行くにつれて。

辺りは、まるで日が沈むように、徐々に明るさを失っていったのだ。


それに、なんだかさびれてきた。

豪華な内装には変わりない。でも、よく見ると、かなり汚れている。

飾られた調度品も、埃をかぶっていた。


手入れが行き届いていない。

ここら辺まで訪れる者は、あまりいないのか。


ずいぶん、遠いんだな……。

碧は、あくびを嚙み殺した。


眠い。

だめだ。そう思うのに、上半身がだんだん傾いでいく。

気付いたときには、白鳥の頸にもたれかかっていた。

わかっているけど、動けない。


疲れていた。

そこに、シャワーキューブですっきりした後、長い間、揺られて来たのだ。

睡魔という名の魔物が、にっこり笑って訪れる、絶好の条件が揃っていた。


寝てる場合じゃないだろ、俺……。


だが、どうにも目が開かない。

自分でも、理由は分かっていた。心の奥底では、安心しているせいだ。


なにかあったら、絶対に筋肉二郎が叩き起こしてくれる。

肩に乗っかっているマダム・チュウ+999も、実は頼もしかった。

何も言わずに、黙って周りに目を配ってくれている。


そして、後ろには陽だ。

危ないときには、すぐさま下乗して、駆けつけてくれるだろう。


うと うと……

ふわふわした真っ白な羽毛が、額と頬を包む。

あったかい。眠気倍増だ。


いつしか、意識が途切れていた。

どのくらい眠っていたのか。

まだ覚醒しない意識のなかで、碧は感じ取っていた。


なにか、嫌な臭いがする。

なんだろう?


「大丈夫か、碧? 着いたぞ」

ド・ジョーの低い声が、耳元で聞こえた。

いつのまにか、傍に来ていたらしい。


「ん……、ごめん寝てた」

謝りながら、碧はなんとか上体を起こした。

眠気が、ずっしりと体全体に伸しかかっている。

瞼も重い。のりでくっ付けられているみたいだ。


気合を総動員して、碧は目を開いた。

雑然とした室内の様子が、視界に入ってくる。


ここが墓場?


巨大白鳥の上で、碧は唖然とした。

台所じゃないか、ここ。


ただし、一昔前のしつらえだった。

ガスコンロなんかじゃない。えられているのは、かまどだ。古ぼけた鍋が掛かっている。


広い室内に置かれたテーブルは、かなり大きい。そして、椅子が一脚も無い。

食事用ではなくて、作業台なのだろう。

上に、様々な調理器具が、ばらばらに散らばっている。


整理整頓がされていない。。

しかも、汚い。

あちこちに、ゴミも散乱している。

箒で掃いたり、ふきんで拭き清めたことなど、ついぞなさそうだ。


いや、それより……なんなんだ、これは?


眠気にふらつきながら、碧は白鳥から降り立った。


床には、もう水の帯はなかった。

ピュティアは、ここまで送り届けると、さっさと帯を引っ込めた模様だ。


碧がもたもたしている間に、陽と桃は、とっくにスワンから降りていた。


二人とも、きょろきょろと部屋を見渡している。

どっちを向いても、目に入ってくるのだ。

いったい、いくつあるんだろう?


やっと来た碧に、二人して戸惑った顔を向けて来る。

陽の顔に書いてあることを、桃が言葉にした。

「なに、これ?」


碧だって、見たまんま答えるしかない。

「かぼちゃだ、ね……」


かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃ……。


なんて数だ。

テーブルの上。食器棚の中。竈の横っちょ。

床にも、雪だるまみたいに積まれている。


台所のはずなのに、他の野菜はなかった。

果物も、肉や魚も、一切ない。

かぼちゃだけが、恐れを抱かせるほど、この部屋に溢れていた。


そして、悪臭を放っている。

どれもこれも、ぐちゅぐちゅに腐って、茶色く歪んでいた。

そのまま水気が飛んで、カラカラに乾燥してしまったのもある。


ここにいる3名は、全員が都会生活を送る小学生だ。

腐った野菜の臭いをかぐ機会など、めったにない。

限界が訪れたのは、ほぼ同時だった。


ばっ

鼻と口を、両手で塞ぐ。

シンクロナイズドスイミングなみに、三人の所作が揃った。


「これが、囚人めしゅうどのなれの果てだ」

ド・ジョーが、ふよふよと碧達に近づいて、そう言った。

特に悪臭にこたえた様子はない。

慣れているのか。それとも、人と感覚が違うだけか。


「なれの果てって?」

桃が、鼻を押さえたまま、首を傾げた。


陽も分かっていない。

国語の問題で、まるっきり見当がつかない時の顔をしていた。

塞いだ手で顔半分が隠れているが、上半分だけ見れば、碧には分かる。


自分だけだった。ド・ジョーの言葉を、正確に読み取れているのは。

ああ。でも、まさか。

そんな、ひどいことが。


囚人めしゅうどは、かぼちゃになっちゃうんだね」

続きの(2)を、本日3/22㈯お昼12:10に投稿致します。

ぜひ、続きもご覧くださいね!


読んで頂いて、有難うございます。

感想を頂けたら嬉しいです。

ブックマーク・評価などして頂けたら本当に嬉しいです。とっても励みになりますので、ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ