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異世界転移、そしてギャル適応

「嘘だろ、ここどこだよ……?」


青い空がどこまでも続き、その下には異様に高い塔が遠くそびえ立っている。その光景に、俺――坂本優斗はただ立ち尽くすしかなかった。目の前の景色は、まるで夢か幻か、あるいはゲームやファンタジー小説でしか見たことがないような異世界だった。


「やば!マジで異世界じゃん!」


隣から突如響いた、少し甲高い、そしてテンションの高い声。俺は驚いて振り返る。そこにいたのは、同じクラスのギャル、佐藤陽菜だった。明るい色の髪をツインテールに結び、派手なメイクとファッション――まさに陽キャそのものの格好だ。そんな彼女は目を輝かせながら周りの光景を楽しんでいるように見えた。目を輝かせながらまるでこの異常事態を楽しんでいるように見えた。


「は?ちょっと待てよ。なんでお前まで――」


自分自身の混乱をよそに、さらに混乱する事実が目の前にあった。なぜ彼女、陽菜がここにいるのかが全く理解できない。放課後、教室に残っていた俺が突然謎の光に包まれ、この場所に転送されたことまでは覚えている。しかし、陽菜も一緒だったなんて夢にも思わなかった。


陽菜はいつもの調子で笑いながら、周囲の風景を見渡していた。その無邪気な様子に、状況の深刻さを感じているのが俺一人だけのようで、なんだかおかしくもあったが、同時に少し腹立たしかった。


「マジウケる!異世界とか、これ絶対冒険始まるでしょ?」


陽菜が俺に近づいてきて、軽快に肩を叩いた。その無遠慮さに、俺は小さく後ずさる。


「お、おい…こんな状況で何が楽しんだよ。どうするか考えないと…」


「えー?そんなの簡単じゃん!まずは冒険者ギルドとか行って登録しないと!」


「は?なんでそんなにノリノリなんだよ…」


俺の困惑を全く気にせず、陽菜はまるで何も心配していないかのように、さっさと歩き出した。その後ろ姿を呆然と見つめつつ、俺は何も言えないまま彼女を追いかけるしかなかった。


◇◇◇


「ここがギルドっぽいね!」


歩きながら俺がぼんやりと見ていたのは、街並みそのものだ。異世界の街だというのに、驚くほど活気に満ちていた。道端では屋台が立ち並び、様々な装備や道具を売る商人たちの声が響き渡っていた。服装も剣士や魔法使いのような恰好の人が大勢いて、リアルなファンタジー世界そのものだった。


「これ、本当にゲームみたいだな…」


そんなことを考えているうちに、俺は陽菜が指さす方向に目を向けた。そこには、木製の看板が掲げられた大きな建物があり、「ギルド」と書かれた文字が見える。


「ほら、さっさと行こうよ!冒険者登録しないと始まらないじゃん!」


陽菜が腕を引っ張ってくる。どうやら、もう彼女の頭の中では冒険者になって異世界を駆け巡る計画がすっかり出来上がっているらしい。その無邪気さに呆れつつも、俺は何も言わず彼女について行くしかなかった。


◇◇◇


ギルドの中は、思っていた以上に賑やかで活気が溢れていた。壁に掛けられた地図や、依頼が貼られた掲示板、そしてカウンターの前で列を作る冒険者たち。彼らはどれも、一目で強そうだと分かる屈強な姿をしていて、俺とはかけ離れた存在のように感じた。


「やば!本当にファンタジーだよ、これ!」


陽菜は興奮した様子でキラキラした目で周りを見回しながら、まっすぐカウンターへと向かっていく。その様子に少し不安を感じつつ、俺は彼女の後ろに従った。


「すみません!冒険者登録したいんですけど、どうしたらいいですか?」


ギルドのカウンターには、親しみやすそうな笑顔の受付嬢がいた。彼女は陽菜の言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐににこやかに返事をしてくれた。


「あら、冒険者登録ですね。まずはこちらにお名前とご希望の職業を書いてください。」


彼女は小さな紙とペンを差し出してくれた。陽菜がその紙を受け取りながら、受付嬢に何か質問しようとしているところだったが、突然受付嬢が陽菜をまじまじと見つめた。


「あの…もしかして、あなたは勇者の方でしょうか?」


「え、勇者?」陽菜がキョトンとした表情を浮かべる。


「はい、実は異世界から来られた方で、特別な力を持つ勇者様が時々いらっしゃるんです。その方々は特にカリスマ性が高くて、何かしらの伝説に関わる存在だと言われていて…」


陽菜はしばし考え込んだようにしていたが、すぐに笑いながら答えた。


「いやいや、あたしただのJKだし!でも勇者とかめっちゃ面白そうじゃん!」


受付嬢は少し驚いた様子だったが、陽菜の明るさに押されて微笑みを浮かべる。


「なるほど…そうでしたか。でも、異世界から来られた方にはやはり何か特別なものを感じます。こちらの世界では、そういった方々が英雄として数々の冒険を…」


「英雄?えー、それ超楽しそう!ユウトも一緒にやろうよ!」


突然名前を呼ばれ、俺ははっとして陽菜を見た。彼女はまるで当然のように俺も勇者の仲間入りをさせようとしているようだった。


「お、俺は…その…」


異世界の冒険、勇者、英雄…そんな話を耳にするだけで頭がぐるぐるしてしまう。こんなこと、ゲームやアニメの中の話でしかあり得ないだろうと思っていたが、目の前で陽菜がその一歩を踏み出そうとしているのを見ると、何も言えなくなってしまった。


「早くしなよ!登録しないと冒険始まらないってば!」


陽菜の勢いに押され、俺も渋々紙に名前を書き込むことになった。


◇◇◇


登録を終えると、陽菜は掲示板の前に駆け寄った。そこにはさまざまな依頼が掲示されており、モンスター討伐やダンジョン探索といった、まるでゲームのクエストのようなものがずらりと並んでいた。


「見て!モンスター討伐とか、ダンジョン探索とか、超エキサイティングじゃん!」


彼女が指さした先には、簡単なモンスター討伐の依頼が書かれていた。陽菜はその紙を指でなぞりながら、目を輝かせている。

陽菜に引っ張られ、俺は否応なく異世界冒険の第一歩を踏み出すことになった。こんな状況でも彼女が隣にいる限り、どうにかやっていけるかもしれないと、少しだけ思った。

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