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色んな過程をすっ飛ばし過ぎだろ

「……え、は? え??」



 しばらくは二人で、こんな感じで言葉にならない声をあげていた。何度見返しても書いてある言葉は変わらない。


 "結婚式、楽しみにしてるね!"


 俺の頭はなんの事だか分からず混乱を極めている。はて、一体全体なんの事だろうか?


「兄貴、婚約したの?」


 しばらく黙って考えているとリンが聞いてきた。その目には、嘘だろ? という疑惑の色が伺える。


「当たり前だろ! この前も水族館に行ったけど、そんな事一言も言ってなかったぞ?」


「え! あいりんと水族館行ったの?! 初耳なんだけど!!!」


 メッセージカードの文言以上に驚いた表情を見せるリン。確かにリンにはまだ話してなかったな……


「ごめん、言うの忘れてた……」


「兄貴、俺がショック受けるかも? って思って言わなかったとかじゃないよね?」


「そ、それはないよ! 単純に忘れてたというか……」


 俺が動揺してると、リンはふぅとひと呼吸おいて、俺の顔を改めてジッと見てきた。


「兄貴、俺があいりんに振られて、ちょっと気まずい感じになっちゃったけど、これから二人に何かあっても、俺に黙っているとかはやめてね? 気を使われてるのが一番やだ」


 珍しく真剣な表情のリン。今回の事に関しては、本当にリンにただ言っていなかっただけだが、確かにリンの言う通り、全く気を使っていなかったかと言えば嘘になる。でもリンは、失恋の痛みより俺に隠し事をされる方が嫌だとはっきりと伝えてきてくれた。

 色々あったけど、今は心から俺達の事を応援してくれているのだろう。それなのに俺ときたら……心の中でマウントを取っていい気になっているなんてな……。つくづく己の狭量さに嫌気が差した。だからこの歳までまともに人と付き合った事もないんだな。



「わかったよ。これからはちゃんとお前に言うから。あと、俺からのお願いだけど、いつかは乙成とちゃんと話してやってくれよ? リンの事、心配してたから」


「あいりんが……? うん、わかった! 少し落ち着いたら、またあいりんに連絡してみるよ。でも今の問題はこれだよ兄貴!! 結婚式ってどういう事?!」


 そうだ。今はなにより、乙成からの謎のメッセージについての方が優先だ。何度読み返しても謎のまま。なんで乙成は、これを俺に読んで欲しがっていたんだ?



「あいりんってまさか、一回デートしたらもう結婚するものだと思ってる……とか?」


「そんな筈ないだろ! 流石にそれならちょっとヤバくないか? あそこに置いてある髪の毛の人とおんなじ思考回路じゃん!」


 俺は部屋の隅で禍々しいオーラを放っている贈り物を指差した。見ただけで呪われそうなそれは、こういった事に疎い俺でも分かる程、送り主の情念がこもっているように感じられる。心なしか、あの髪の毛伸びてね? 俺の気のせいかな?


「やっぱりさ、()()もあいりんからなんじゃない? ほら、兄貴チョコ貰うの初めてで、気が動転して二つ貰った事に気が付かなかったとか!」


「それだけは断じてあり得ない」


 どうにかして、あの呪物を俺宛ての贈り物にしたかったのだろうが、こればっかりはなんとしても受け入れてはならない。あれをもう一度手に取ったら、確実に呪われる。


「てか思ったんだけど、これ本当に乙成が俺宛てに贈った物なのかな? 間違えたんじゃないか?」


「そうだとしたら、あいりんは他に結婚を誓った相手がいる事になるよ? そんなふしだらな子じゃないっしょ」


 確かにな……流石に婚約者がいて、俺にメッセージカード付きのチョコなんか送らないか……


 つまりこれは本当に俺宛てのもの……?



「兄貴、覚悟を決めるしかないよ」


 ポン、とリンが俺の肩に手を置いた。覚悟を決めろとはつまり……


「結婚するって事か?」


「そうだよ! どうせこの先、兄貴に他の女の子が現れる可能性なんてないんだからさ! それに、兄貴達はいつまでも先に進まないんだし、もう段階を踏むとかまどろっこしい事してないで籍入れちゃえばいいんだよ!!」


 妙案だ! と言わんばかりにいい表情をするリン。その前に色々とツッコミたい所があったが、だいたいリンの言う通りな所もあるので、黙って言葉を飲み込んだ。



 俺が……乙成と結婚……?



 それ、マジで言ってんの?


 


 

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