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アグレッシブな性癖

 イルカショーも終え、再び順路に戻る俺達。途中に展示してある、水族館が行う保全活動の写真や資料なんかを見ながら歩いた。

 子供の頃に来た時は、こういうものには目もくれずに魚やペンギンなんかを夢中になって見たものだけど、大人になってからしっかり読むと感心する事ばかりだなぁ。俺はまた一つ、海の環境美化について詳しくなったぞ。


「気が付いたらもうお昼まわってるんですね」


 歩きながら乙成がお腹が減ったと言わんばかりにヘロヘロ声で呟いた。


「なんか夢中で見てたら忘れてたよな、一回ご飯食べに行く? 確かレストランがあったよな?」


「んー……今の時間帯だとめちゃくちゃ混んでそうですよね……もう少しまわってから行ってみましょう!」


 時計を見ていた顔をあげて笑顔でこちらを向く乙成。キラキラと眩しい笑顔を向けられて、俺は照れて顔を背けてしまった。出来れば意識していなかった頃に戻りたい。人を好きになるってこんなにも真っ直ぐ顔を見れなくなるものなんだな。


「前田くん、僕はお腹が空きました」


「……ご飯行ってきていいですよ」


 俺達の後ろをくっつく様に歩きながら美作さんが言った。相変わらずでっかいシャチのぬいぐるみを抱きかかえながら。


「ところで、このぬいぐるみどうです? 麗香さんに買ってもらいました」


「それは良かったですね。ずっと気になってたんですけど、なんでシャチなんです? この水族館、シャチいないのに」


 丁度俺の目の高さにシャチの顔がある。この事が、俺と美作さんの身長差を顕著に表してしている様で少し腹立たしい。


「僕はシャチが好きなんです。海の殺し屋、シーウルフなどの異名を持つ、地球史上トップクラスの戦闘能力を持つ水生動物と言われています。学名がそもそも冥界からの魔物という意味ですから、なんともくすぐられる存在ですよね。知力も高いので、群れで獲物を襲ったり、失敗すれば戦略を変えたりもするそうですよ。ここの水族館にいないのが残念です。もしいたら……」


「どうせ俺を襲わせて亡き者にしたいとか言い出すんでしょ?!」


 美作さんの扱いが大体分かってきた気がする。この人は長々と何かを話した流れで、最終的には俺を亡き者したいという話の流れに持っていく。

 さては、この話をしたいが為にシャチのぬいぐるみを買ってもらったな? つくづく陰湿だ。そして、多少は失礼な態度を取っても、まるで意に返していない事も分かった。なので俺も遠慮せず美作さんにはツッコんでいく事にする。


「……そこまで直接的な事を言うつもりはなかったんですけど、前田くんがそこまでアグレッシブな性癖をお持ちとは驚きました。今度一緒にシャチ見に行きますか? シャチは捕食目的で人を襲う事はないと聞いていますが、前田くんの熱意にシャチも応えてくれるかもしれません。飼いならされた個体より、野生の方が良いでしょうから、北海道に行きましょう。片道分のチケットは手配します」


「なんでそうなる?!」


「前田さん、もうすっかり光太郎さんと仲良しですね!」


 俺達のやり取りを聞いていた乙成が楽しそうに笑顔で言ってきた。その隣で、麗香さんも乙成とそっくりのニコニコ顔でこちらを見ている。


「これの何処が仲良しに見えるの?!」


「前田くんと光ちゃんがいれば賑やかでいいわね♪」


「麗香さん、北海道に行ってくるのでお土産は何がいいですか? ()()()()()()()()()()()()ですので、なんでも買ってきますよ」


「待て待て待て! さっきチケット取るって言いましたよね?! 俺をどうやって連れて行く気?!」


 やばい……またしても美作さんのペースに嵌ってしまった。もしかして、この人俺が次に何を言うか分かってて言葉を発してる? シャチじゃん。めちゃくちゃ戦略家じゃん。



「光ちゃん、少し休みたいわ。喉が乾いちゃった」


「あ、はい。じゃあ、そこのベンチで少し休みましょう」



 しめた!!! この隙に二人から離れられる!


「あ、じゃあ僕達はもう少し見て来ますね!」



 そう言って、俺は乙成の肩を押して強引に次のエリアまで歩を進めた。


 



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