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美作マウント

 俺の顔を見ながら、美作さんは真顔で言い放つと再びかっぱ巻を食べ出した。一瞬にして静まり返るリビング。可愛らしいピンクを基調とした部屋が、色をなくして冷たく見える。


「そ、そんな顔してませんよ!」


「そうでしょうか? 僕には何か良からぬ事を考えていた様に見えましたよ。なのでダメです。二人が今後一緒にいる事を禁止します」


 めちゃくちゃ無理な事を言い出した美作さん。この流れは娘の交際を断固として認めない昭和のお父さんそのものじゃないか。美作さんは多分平成生まれだろうに、なんでこんなにも頑なな人なんだ?


「でもぉ、光ちゃんがそう言ってもあいりと前田くんは同じ会社で働いているのよ? 一緒にいるなって言っても無理じゃない?」


 麗香さんナイス! そうだよ! そもそも会社で毎日顔を合わせるんだ、そんな事まで取り締まれる権限はない筈……


「そしたら前田くんには転職をしてもらいましょう。前田くん、薬の治験のバイトとかどうですか? それかマグロ漁船とか……なるべく拘束時間の長い、暫く帰って来れない様な仕事を僕が全力で探しますので」


「嫌ですよ! 俺を遠くにやろうとしないで!!」


 その後も、素人が生半可な気持ちで登っちゃいけない山の住み込みバイトだの、過疎化が進む離島の役所が募集しているだの言って、俺をこの地から追放しようとしてくる美作さんの説得をなんとかかい潜って、初顔合わせとなった手巻き寿司パーティは最悪とも言える終わりを迎えた。


「じゃあ私、前田さんを駅まで送って行くね!」


 このままここに居続けても美作さんの執拗な口撃に遭うことを恐れた俺は、乙成達に挨拶をして早々に帰る事にした。


「え、いや駅までなんて悪いよ。乙成も病み上がりだし……」


「いいんです! さ、行きましょう!」


 遠慮する俺の背中を押して、無理矢理玄関へと向かう乙成。自分も行くと言い出し立ち上がった美作さんを、すかさず止めてくれる麗香さん。


「光ちゃん? 二人きりにさせてあげて?」


「でも……麗香さん……」


「光ちゃんは、私と二人でお留守番よ? いい?」


「……はい」


 素直に言う事を聞く美作さんに、少し背伸びをしながら頭を撫でてやっている麗香さん。その光景は、微笑ましくもあり、何処か狂気すら感じた。


「前田くん」


 玄関先まで見送りに来た美作さんと麗香さん。靴を履いて扉に手をかけた俺を、美作さんが呼び止めた。

 

 名前を呼んで、手を出してきた美作さん。一瞬、握手を求められたのかと思ったのだが、彼の手は握手を求めて差し出されたものというより、手のひらを上にした状態で、どちらかと言えば何かをくれと言っている様だ。しかも両手。


 俺はその仕草を不審に思いながらも、つい無意識で差し出された手のひらの上に自分の手をポンと置いてしまった。


 ………………


 …………………………



 …………………………………………にやり



「………………え?」



 俺のこの動作に、無言でにやりと笑う美作さん。この表情を見て、俺はようやく美作さんが何がしたかったのかを理解した。


「あら? 前田くん、光ちゃんに"お手"しちゃったのね♪ 光ちゃん、よくこうやって人にマウントを取るのよ。自分の方が上だぁって。ワンちゃんだったら、前田くんは今、光ちゃんに上に乗っかられて腰振られてる所よ♪」


「はぁ?!」


 ご丁寧に麗香さんが説明してくれた。なんかマウントの意味おかしくない? ガチの優劣つけにきてんじゃん。あと、腰振るとか言わないでもらえます? 想像してニヤニヤしちゃう人がいるから!


「前田くん、今日はとっても楽しかったです。また会いましょう」


「いや、俺はもう出来れば会いたくないっす……」



 序列的に俺が美作さんの下になった事を確信した美作さんは、とっても爽やかな笑顔で見送ってくれた。


 

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