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〜ドラマCD〜天網恢恢乙女綺譚 兜々良蟹麿と猿島祐天


 祐天「かーにまろっ!」


 蟹麿「なんだ騒々しい。僕はお前なんかと話している程暇じゃないんだ。見ろ、お前と違って僕は、日にこんなにも多くの書物に目を通さなければいけないんだぞ? 祐天、お前も少しは僕を見習って、本の一つでも読んだらどうなんだ」


 祐天「あーもう! そんな事は今どーだって良いんだよ! これ! 蟹麿に俺からプレゼント! 早く受け取って! 早く早く!」


 蟹麿「ん? やけに重いな……お前なんぞのプレゼントは受け取りたく無いのだが……」


 祐天「いいから! その箱さ、掲げて下から見ると、中が透けて見えるんだ! 何が入ってるか、当ててみろよ?」


 蟹麿「え? こ、こうか?」


 ミシ……ミシミシ……


 ザッパァーーーン!


 蟹麿「おい……これ……」ポタポタと水の落ちる音


 祐天「うひゃひゃひゃひゃ! 引っかかったな! その箱はな、時間が経つと中の水を吸って破裂するんだ! はぁー、可笑し! 蟹麿はいつも引っかかってくれるからやりがいがあんだよなー」去って行く靴音


 蟹麿「……殺す」


 蟹麿「それから、僕はありとあらゆる手段をこうじて、祐天を罠に嵌めようと画策した。あの薄汚い猿に、何としても目に物見せてやる」


 祐天「はぁーあ、なんか腹減ったなぁ。おっ、こんなとこに茶屋なんてあったっけ? うひゃぁ、すげぇ旨そうな匂いだ! あれは団子か? 丁度いい! せっかくだし、入ってみるか!」


 蟹麿「きた! 祐天の団子好きは相当なものだからな。絶対にここに寄ると思って張っていた甲斐があった。第一の罠、名付けて針の謀殺(スティングマーダー)、あの落し穴に落ちたら最後、針の(むしろ)の餌食になるのだ!」


 祐天「はぁ〜、腹減り過ぎて、もう一歩も動けないぜぇ……よっし! じゃあこーゆう時は! ほらよっと」ガサガサと木をつたう音


 蟹麿「なっ?!」


 祐天「シュタッ! とうちゃーく。さすが俺! おいちゃん、団子ちょーだーい」


 蟹麿「あいつの身軽さを甘く見ていた……クソッ次の手だ!」


 祐天「食ったら眠くなってきたなー。お、こんな所に丁度いい昼寝スポットが! しかも人をダメにするクッションまで置いてある! ふわぁ……天気も良い事だし、ちょっと寝てくか」


 蟹麿「かかったな! 第二の罠、地獄の暗殺者(インフェルノアサシン)、クッションの横に設置した巨大虫眼鏡で光を集め、呑気に寝ている祐天ごと燃やしてしまうという、実に巧妙かつ、斬新な罠! くくく、祐天よ。闇の炎に抱かれて消えろ!!!」


 祐天「なんだこのクソデカ虫眼鏡、昼寝の邪魔だっての。」クイッ


 ジリジリジリ……ボゥッ


 蟹麿「えっ? は? え? 馬鹿なっ! あっっつ! あっっつ!! 服に火が!! 水! 水!」


 祐天「ぐごぉーがー」


 蟹麿「くそ……なんて悪運の強いやつなんだ……。こうなったら最後の手段だ!」


 祐天「よーっく寝たぁー! 冷えてきたな……そろそろ帰るとするかぁ」


 蟹麿「ハァハァ……最後は……坂からこの特大鉄球を転がして奴にぶつける! 名前は……えっと、殲滅の追走曲(カノン)! 祐天よ、今度こそ終わりだあぁあ!!」


 ツルッ


 蟹麿「え?」


 グラ……


 蟹麿「まずい! 鉄球が?!」


 ゴロゴロゴロゴロ……


 祐天「ん?」


 蟹麿「うわああああ!!!!!」


 祐天「うえ?! 蟹麿何やって……なんだあのデッカイ鉄球……! 蟹麿まで一緒になって転がってるし! ってぇ、こっち来んじゃん!」


 蟹麿「助けてくれええええ」ゴロゴロゴロ


 祐天「ヒョイっとな」


 ゴロゴロゴロ……ドン!!!


 祐天「お〜い、蟹麿。大丈夫かぁ? すっごい勢いよく木にぶつかったけど」


 蟹麿「祐天……お前……自分だけ避けたな……」バタッ


 祐天「うひゃひゃ、ごめんつい避けちった! あーぁ、蟹麿ボロボロじゃん。ったくしょーがねぇなぁ。あ、そだ!」ガサゴソ


 蟹麿「ん? これは……チョコレート……か?」


 祐天「そ! 今日茶屋のおいちゃんに貰ったんだ! 蟹麿今日は散々だったみたいだし、俺の一個やるよ! だから元気だせっ」


 蟹麿「うぅ……祐天……僕は……僕はお前に酷い事を……」


 祐天「何言ってんだ? なぁ、いいから食べてみろよ? めちゃくちゃ美味いから!」


 蟹麿「そ、そうか、じゃあ早速………………ん?……フゴッ!? ゲホゲホゲホッ!!!! ウエッ! カ、カカカッ辛いーーーー!」


 祐天「うひゃひゃひゃひゃ!! そのチョコレートはな、お前に食わせようとして俺が夕べ徹夜して作ったジョロキアとハバネロミックスチョコレートだ! 俺様を出し抜こうなんて百年早いぜ蟹麿! あばよ〜」


 蟹麿「……ゲホッ……くそぅ、祐天め……! 気付いていてわざと……! 次は、次こそは必ず!」


 ******


 ……


 ……


 ……


 俺はベッドに寝そべりながら、スマホに表示された停止ボタンを押してアプリを閉じた。そのまましばらく呆然と、天井の壁紙の凹凸をジッと見つめる。



 これが虚無という感情なのか。俺の心は残り少ない最後の灯し火を消し去って、がらんどうとしている。


 乙成に勉強をしろと言われたので試しに聞いてみたドラマCD。頭のてっぺんからつま先まで、全身の毛穴からワサワサと何かが這う感覚。むず痒い羞恥心の先にあったのは、こんな何もない世界だったんだね……。


 部屋に散乱する、蟹麿に関する本やDVD。俺の大事な休日は、ここにある蟹麿に全て食い尽くされてしまった。

 


「……俺は、とんでもない事を引き受けてしまったな」



 また一つ、天井の凹凸をなぞる様に見つめる。そして、俺の日曜は、静かに終わっていった。


 


 


 

  

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