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モヤモヤ

 「前田さーん、さっき朝霧さんが飛び出して行きましたけど、何かあったんですか?」


 乙成が両手に大量の菓子パンを持って追い出し部屋の扉を開けた。こちらはこちらで俺のモヤモヤの種だ。先日のリンによるカミングアウトの事は、乙成はもちろん知らない。相変わらずのニコニコ顔で、両手に抱えた菓子パンを、ドサドサと机の上に置いていく。


「いや、なんか俺が火をつけてしまったというか……」


「? なんかよく分からないですけど、なんだか朝霧さん、いい顔してましたよ!」


 多分俺のせいで余計ややこしくしてしまった感が否めないが、とりあえず今の所は静観していよう。前にも言ったけど、あの人達もいい大人だからな。


「そういえば、今日は弁当じゃないんだな珍しい」


「そうなんですよ! 昨日遅くまでリンちゃんと電話してて! だから今日はコンビニです! 今ってこんなに美味しそうなパンいっぱいあるんですねー。気になったやつ全部買ってきました!」


 やっぱりリンか……。この前の事といい、まさかとは思うが、もう告白なんてされてないよな?


「にしてもパン買い込みすぎだろ……こんな食べられるの?」


「後でおやつにも食べるので平気です! あ、前田さんも良かったらどうぞ!」


「いや、俺はさっきランチパック食べてもう腹いっぱい……リンとは何話してたの?」


 乙成は買って来た菓子パンを吟味している。チョコがたっぷりかかったクロワッサンに、もち食感の何か。どれも甘い系のパンばっかりで、さっきランチパックを二つ食べた俺は見ているだけで胃もたれした。間にしょっぱいの挟めよ。


「リンちゃんとは、いつものお喋りですねー。ゲームの話とか、リンちゃんの配信の話とか!」


「へ、へぇ〜そうなんだ。よく電話すんの?」


「最近は多いですね! 朝からメッセージも来ますし! 時間があればやり取りをしてる事が多いです!」


「ふ、ふぅ〜〜ん? そっかそっか。本当、二人って仲良いんだな〜次はいつ会うとか、もう決まってたりすんの?」


 やばい。俺もしかして今、めちゃくちゃかっこ悪い探り入れてる? あくまでさり気なく、綺麗な会話の流れを気にするほど変な声で話しかけてしまう。

 

 でも気になるんだもん。こうしている間にも、いつリンの奴がオスの部分を出して乙成に向かって行くか分かったもんじゃない。

 あれは俺の予想では、めちゃくちゃグイグイ行くタイプだと思うからな。こんな所まで俺達兄弟は、正反対なんだ。ここまで来ると、俺の問題というより、俺達をこんな風に育てた両親を責めたくなってくる。


「うーん……今週末も誘われてたんですけど、ちょっと用事があって断っちゃったんです。リンちゃんがっかりしてたけど」


 ホッ、良かった。じゃあ今週は会わないんだな、あんなテンションで毎回毎回ベタベタくっつかれたら、多分俺でも好きになるもんな、本当に勘弁してほしい。なんでよりにもよって乙成なんだ……。


 聞けば、乙成は今週末、朝霧さんと遊びに行くらしい。なんでも都内のお洒落スポットを巡るのだそうだ。ゾンビの女の子と、私服は銀座ホステス風のファッションの朝霧さん……想像しただけで意外過ぎる組み合わせだ。

 流石にその中にリンを誘うわけにも行かなかったのだろうという事が分かって、俺は心底安心した。


 乙成は相変わらず美味そうな顔してパンを貪り食っている。毎度の事ながら、本当にいい食べっぷりだ。


「前田さんもどうぞ! これ凄い美味しいですよ!」


「お、じゃあもらおうかな。腹いっぱいだけど」


 なんとなく胸のモヤモヤが少しだけ晴れた気がした。まぁなんだかんだ言って、俺の方が乙成と一緒にいる機会は多い。


 それに、リンは何かとうつり気な所があったから、きっと乙成への熱も一過性のものだろうと鷹を括っていた。





 それが甘かった。


 


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