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聖なる夜?

 じゃあやっぱり、今感じた匂いは……


「まさか朝霧さんとヤ……」


「断じてそれはない!!!!!!!!」


 俺が言い終わる前に、食い気味で滝口さんは否定した。


「前田、いくらなんでもオレだってそのくらいの理性はある。昨日朝霧さん、めちゃくちゃ酔ってたろ? 送って行くって言って外出た後がヤバかったんだよ」


 あ、それくらいの理性はあるんだ……俺はてっきり……まぁいいか。そして滝口さんは、乙成の家を出た後の出来事を話し出した。


「マジであの後キツくてさ、大声出すわ道で吐き出すわ……深夜ならまだしも祝日の夕方だろ? 道行く家族連れに白い目で見られるし、このままだととても電車乗って帰れる感じじゃなかったからタクシーでオレんち連れてったんだよ」


「でもそれってラブコメでよくある展開じゃないすか、いい感じになる様な事なかったんですか?」


 やばい。他人のこういうのちょっと楽しい。しかも相手が朝霧さんとなると余計にだ。口元がニヤけてしまうのを抑えながら、俺は出来るだけ真剣なフリをして滝口さんの話を聞くことにした。


「なるかよ……オレの部屋に来てからも服か汚れたとか言って急に脱ぎだすし、とりあえずなんか着せようって思って服貸したらぶん殴られるし……散々部屋を荒らされて、挙げ句にはオレのベッドで大の字になって寝ちまって……お前か想像するような素敵な展開は一切ない。ただただ殴られた顔が痛いし、冷たい床で朝を迎えて全身が痛いだけだった」


「……なんか、大変だったんですね」


 気の毒だな、ちょっと面白いけど。俺と乙成が気まずい感じになっていた裏で、そんな事があったとは……。


「え、てかそれなら、今朝も朝霧さんと一緒だったんじゃないんですか?」


「朝霧さんは今日午前休取るって。なぁ前田、オレどうしたらいい?」


「何がっすか?」


「深く考えもしないで朝霧さんを泊めたけど、これってやっぱマズいよな? なんかオレ、今朝から気分が悪くて……朝霧さんというオッサンに貞操を奪われた気分だ……今まで通り普通に生きていける気がしない」


 そう言って滝口さんは深くうなだれた。随分な言いようだなと思ったが、それほど夕べはエラい目にあったんだろう。


「もう責任取って結婚するしかないんじゃないですか?」


「なんでそうなる!!! 嫌だ、オレは絶対に嫌だ……あんなのが四六時中傍にいたら、オレの中の何かが壊れる……マジで獣かと思ったんだもん……」


「あぁ、もう滝口さん泣かないで! 冗談ですって! とりあえず何にもなかったなら良かったじゃないですか! 朝霧さんが午後出社してきたら、昨日のお詫びとかあるかもですよ?」


 俺はなんだかよく分からないアドバイスをしながら、笑いを堪らえるのに必死だった。こんな弱っている滝口さんを見るのも初めてだし、二人の話を聞いて少しだけ、乙成との事を忘れられた気がした。

 

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