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一夜明けて


 翌日。


 やってしまった……。俺の言葉が足りないばかりに、乙成を傷つけ、更に追い打ちをかけるかの如く乙成一人残してさっさと帰ってしまった……。


 いや、だってあの場合仕方なくない? 取り付く島もないって言うか、全然聞き入れてくれる様子もなかったし……。

 こんな時女の子慣れしていているキラキラ男子達なら泣いている乙成を後ろから抱きしめたりするんだろうけれど、俺は素人童貞だぞ?

 そもそも素人童貞と呼べるのかも怪しい。何故って、俺の風俗初体験は、適切なサービスを受ける前の段階で暴発し、色んな期待とか夢とか全て一瞬で消し去ってしまったんだ。その後50分間、女の子となんか気まずい感じになるっていう最悪の最悪とも言える初体験だったんだぞ? なんか知らないけど女の子にも慰められるし、終わって合流した滝口さんには笑顔で「良かったっす!」なんて、しょーもない嘘をつかないといけないしで、こんなヘタレチキン野郎の俺が、泣いている女の子に優しく声をかけるなんて出来ると思うか?! 出来ないだろ?! どうだ?! なんか悲しくなってきた……。なんで俺は朝から満員電車に揺られて、風俗初体験の苦い思い出を思い出さにゃならんのだ。誠に遺憾だ。


 つい長くなってしまったが今言える事は、あの時60分コースなんかにした滝口さんを俺は一生許さないという事と、それと同時に、滝口さんのお金が一瞬で塵と化した事実を俺は生涯あの人に言えないまま、一人抱えて生きていかないといけないという枷を負ってしまったという事実だけだ。本当にすまない。


 俺って本当にダメだよなぁ……。あ、もう風俗の話じゃなくて乙成の事で。ちょっと気になってって言葉のチョイスが間違っていたな、あれじゃ面白半分で転生の理由を聞いてきたと捉えてもおかしくない。


 いつもより足取りが重い。幸いと言っていいのか分からないが、今日乙成は有給だ。月曜日まで会う事はない。それまでに誤解を解かないと、今後の付き合い諸々に影響が出る事必至だ。ただ、なんて声をかけたらいいのか分からない。


「「はぁ〜〜〜〜」」


 俺が歩きながら絵に描いた様なクソデカため息をついた時、全く同じタイミングで横からため息が聞こえた。滝口さんだ。この年中お花畑能天気男が、ちょっと深刻な顔をしていつの間にか俺の隣にいる。 


「滝口さんいつから居たんすか! てか、その顔どうしたんです?!」


 よく見ると滝口さんの顔には誰かに殴られた様な痣が出来ていた。


「……なぁ、前田。オレはとんでもない事をしでかしたかもしれん」


「は? 滝口さん何を……って道の真ん中で何やってんすか?! みんな見てますよ! ほら、立って! 跪かないで!!」


「ぐおおおおおお前田ァアア! オレは……オレはなんて事を……!」


「と、とにかく立って! もうすぐ会社ですから!」


「うう……もう歩けん。前田、オレの手をとってくれ……」


 すっかり意気消沈している滝口さんの手をとって、俺達は会社の入口にあるベンチに腰掛けた。


「で? どうしたんです滝口さん……ん? あれ?」


 外では感じなかったが、ベンチに座った瞬間に滝口さんから一瞬、ふわっと女性物の香水の香りがした。


 この匂い……確か……


「オレは昨日、()()朝霧さんを家に泊めた」


「え!!!!!!」


 

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