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本気度を証明するにはやっぱり土下座よね

「おと……お父さん……?」


 ブツブツとお父さんを連呼する美作さんの横で華麗にターンを決める乙成。満足そうにキャピ☆ っと笑うその姿に、なんか気が抜けて笑ってしまった。


「ハッハッハ! 流石は俺の娘! いや、今のは麗香そっくりだったな!」


 手を叩いて笑うアカツキさんもなんだか嬉しそう。いや、落ち着いてる場合じゃない! アカツキさんも止めないといけないんだから!


 でも……何が出来る? 美作さんの様にはいかないし……。クソ! うかうかしてたら乙成を連れて行かれちまう! こ、こうなったら……!


「アカツキさん!!!」


「うぉ?! なんだ廉太郎、急に大っきい声を出すな!」


 俺はその場にビターンと膝をついて土下座の姿勢になった。こうなったらなる様になれ、だ! 本気でお願いしてハイチ行きを諦めてもらおう!!!


「前田さん?!」


「アカツキさん……! お願いです。乙成を連れて行かないでください! 俺にはこの子が必要なんです!!! ゾンビを治さなきゃいけないってのは分かってます! でも嫌なんです! 彼女が居なくなっちゃうなんて考えらんないんです! お願いします! お願いします!」


 カッコ悪いとかそんなもん最早どうだっていい。どれだけ無様に見えていようが俺の気持ちを分かってもらえるには、これしかないんだ……!


 結婚式場のロビーにて。ザワつく声も人の目も気にしないで土下座でお願いする事数秒間。永遠にも感じる沈黙を破ったのは、アカツキさんの笑い声だった。


「ハッハッハ! おいおい廉太郎、急にどうしたんだよ?! おい、顔あげろ。流石にそれは恥ずかしいわ」


 笑いながらポンポンと肩を叩かれて我にかえる俺。え? 今恥ずかしいって言った? さっきまでトリカブト根っこごと持ってたよりも?


「前田さん……」


 トトトと俺に駆け寄る乙成。寄り添う様にして俺の手を取る。


「お父さん! 私も……私もハイチになんか行きたくない! だって今すごく楽しいんだもの! こんなに楽しいのは、前田さんがいてくれたからなの! 離れたくなんかない! だから私、お父さんについて行かないから!!!」


 乙成も一緒になってアカツキさんを説得してくれている。そうか、乙成って、俺といて楽しいって思ってくれてたんだな。今そんな事しみじみ考えてる場合じゃないと思うけど、なんか嬉しいな。そうか、楽しいんだ。俺と同じで。



「おいおい二人してなんだよ……」


「もう〜! なんの騒ぎ?」


 いい加減騒ぎになってきたロビーに、純白のドレスを纏った麗香さんが登場した。麗香さんはなんの事か分からず困惑している。


「麗香さん……僕、あいりのお父さんになったんですよ……お父さん……あいりがお父さんって……お父さん……」


「光ちゃんったら、どうしたの? マリッジブルー?」


 まだ放心状態でブツブツ言っている美作さんに、背伸びをしながらその頭を優しく撫でてやる麗香さん。微笑ましい光景にも見えるが、ぶっ壊れたおもちゃみたいになってる美作さんがちょっと怖い。


「おい麗香、なんなんだこりゃ……俺が来るなりみんなして……」


「あら暁さん。ハイチから戻ってたのね? あいりも前田くんも、床に座るのはやめなさい?」


 朗らかな笑顔て優しく諭してくる麗香さん。注意された事でとりあえず落ち着いた俺達は、先程まで座っていたベンチに改めて座らされた。


 ******


「あらそんな事があったのねー♪ 全然知らなかった」


「全く……どいつもこいつも早とちりしやがって……普通に話をしに来ただけだっての」


 事情を聞いてもなおコロコロと笑うだけの麗香さんに、ため息をついて面倒くさそうにするアカツキさん。美作さんは壊れちゃってるし、俺と乙成はまだ状況が読み込めずに困惑している。


「で、でもアカツキさんが言ったんですよ?! 乙成をハイチに連れて行くって!」


「言いはしたが、強制じゃない。前にあいりにも話したとは思うが、今日来たのは単純にハイチ行きの返事を聞きに来ただけだ」


「え?! 前にこれは決定事項だ〜とか言ってませんでした?!」


「……俺、そんな事言ったっけ? 悪い、覚えてないわ」




 …………………………え?


 

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