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乙成の誕生日 その3

「前田くんはプレゼントあげないの?」


「え……」


 朝霧さんに振られて、俺は我に返った。顔を上げると、乙成がこっちを見ている。


「あぁ……俺は後でって事で……」


「もぉーーー照れちゃって!! あんた達本当に学生みたいね!」


 いや、照れている訳ではないんだが、何となくこの場で渡すのは違う……ていうか、嫌だ。


 俺の余計な心配事のせいで、今日は乙成と上手く話せないでいる。と言っても、複数人いる場では俺達はあまり話さない。どちらかと言えば二人とも聞き役に徹してしまう。滝口さんと朝霧さんに挟まれた場合は特にだ。


 今もそうだ。乙成の料理をつまみながら、手を休める事なく酒を飲み続ける先輩達二人。滝口さんは酔っ払ってもシラフでも変わらずアホなんでそんなに問題ではないが、


 問題は朝霧さんである。


「まーったくやんなっちゃうわよ! なぁーにが、年収800万都内住みよ?! 会ってみたら超マザコンで靴下もママに履かせてもらってる様な奴だったわよ!!」


 これは先日登録した結婚相談所で紹介された人の話らしい。朝霧さんは酔うと、こうやって婚活で起きた色んな出来事を事細かに共有してくるのだ。


「うひゃひゃ、ヤベー奴じゃんそれ! 朝霧さんってそんな奴ばっか当たってません?!」


 そしてこの話を面白がって聞く滝口さん。酔っ払ってるからか、いつもより笑い声が高い……あれ? 今ちょっと猿島祐天みがあったような……


「本当よ! この前なんて、マッチングアプリで出会った、35歳都内シェアハウス住みの男に、千葉ってだいぶ田舎じゃん? 千葉住みだと会うの大変だからって言われて会う前に断られたわよ! 学生でもないくせに他人と同居してる奴に言われたくないっての!!! 何なのあいつ? 都内住みでマウント取りたいからって女も満足に呼べない様な部屋に住んでるとかあり得ない! 千葉の何処がいけないってのよおおおお」


 注釈。これは朝霧さんの個人的な意見であり、実際の個人を攻撃しているものではありません。あくまで、朝霧さんがそう言っているだけです。


「まァ、そんないい歳して若者に混ざって暮らしてる奴なんて大抵碌な奴じゃないっすよ」


「滝口さん! 本当にそういう人がいるんだから、あんまり悪く言っちゃいけないっすよ!」


 とまぁ、すかさず滝口さんに注意をしてみたが、こんな感じで酒を飲む度に朝霧さんが出会った地雷男コレクションが更新されていくわけだ。しかし、よくこんな変わり種ばかりと出会うな。朝霧さんが引き寄せているのでは……?


「朝霧さんて、本当変なのばっか捕まりますよね! 綺麗なのに勿体ないっすね!」


 あれ? 今、滝口さんの言葉に、一瞬だが朝霧さんが反応した様な……? 顔が赤く見えたのも酔っているせいか……?


「ふ、ふん! アンタだって、30代になったら無事地雷男の仲間入りよ!」


「? 朝霧さん何で怒ってんすか?」


 滝口さんの言葉を無視して、朝霧さんは缶チューハイをガンガン流し込む。乙成が気を効かせて持って来ていたコップに注ぐ事も忘れて。なんだ? なんかあるのか?

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