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初めて利害関係が一致したな?

 乙成が居なくなる……そんな、そんな事って……


「待ってください。いきなり何を言い出すかと思えば……あいりをハイチに連れて行くなんて僕が許しません」


 俺がアカツキさんの言葉に呆然としていた時、至って冷静な様子の美作さんが口を挟んできた。いや、冷静ではない? 冷静そうに見えるけど、なんか禍々しいオーラ放ってない? 美作さん、めっちゃ怒ってんな。


「お前が許さなくても俺が決めた事だ。俺だってあいりを連れて行くのは本意じゃない。こっちで楽しくやってるんだからな」


「だ、だったらなんで……」


 口をついて出た言葉が震えている。俺はグッと唾を飲み込んでアカツキさんの言葉を待った。変わらずアカツキさんは真面目な表情のままだ、今までの様にヘラヘラした様子は何処にもない。その顔から、アカツキさんが冗談で言っているのではないと分かった。


「それはな、廉太郎。お前だよ」


「俺?」


「そうだ。最初にお前さんから声でゾンビ化を抑えているなんて突拍子もない話を聞いた時、にわかに信じられないと思いながらも、もしかしたらそれがゾンビ化を解く鍵になるんじゃないかと思ったんだ。半ば思いつきではあるが、好感度うんぬんの話だって冗談で言っていたわけじゃない」


 そうだったんだ……まさか本気で俺の言う事を信じてくれてたなんてな……思えば、アカツキさんは俺をパシリに使いながらも、決して無下にはしなかったな。それも、俺が乙成のゾンビ化を解くきっかけになるかもって信じてくれてたからなのか。


「だが、どうだ? お前さんに任せて暫く様子を伺っていたが、ごちゃごちゃと御託を並べるばかりでなんにも進歩しない。番外編なんてやって時間稼ぎしやがって。そんないつまでもグズグズやってる様な奴に、大事なひとり娘を任せておけるか。俺はあいりを、ハイチに連れて行く。これはもう、決定事項という事だ」


 ******


 帰り道。結局あの後、俺と美作さんはアカツキさんに追い出される様な形でプレハブ小屋を後にした。

 正直、番外編の事は俺には全く関係ないので、番外編にうつつを抜かしていたなんて思われるのは実に心外である。


 でも実際、グズグズしていたのは本当だ。俺がもう少し早く、乙成のゾンビ化を治そうと動いていたら……


「もう既に諦めている様子ですね」


「……え?」


 俺達の間に流れていた重々しい空気を振り払うかの様に、それまで真剣な顔で熟考していた様子の美作さんが不意に言葉を発した。


「前田くんは僕と同じで、もう少ししつこいと思っていましたよ。こんなあっさりと、あいりを諦めてしまっていいのですか? あの男に連れていかれたら、場合によっては二度と会う事が叶わないのですよ?」


「そ、そんなの……! 俺だって諦めたくないですよ! でも、だからと言ってどうしたら……」


「例え前田くんが怖気付いてあいりの元を離れるのなら、僕は止めません。僕の見込み違いだったと言う事ですから。でも僕は乙成暁を止めますよ? 僕の夢である麗香さんとあいり、そして新たに加わった新しい家族であるアイリとの幸せな結婚生活を、あんな薄汚く薄情な男に奪わせはしません」


 いつもと同じ、淡々とした口調の美作さんの目に、轟々と決意に満ちた炎が見えた。美作さんは、例え一人でも止めるつもりだ。幸せな結婚生活の部分はなんか気持ち悪いけど。


「止めるって……何か策があるんですか?」


「今はまだ。しかし、どんな手を使ってでも止めます。元々いけ好かないと思ってた所です。向こうからその機会を与えてくれた事を、もっと喜ぶべきですね」


「俺もいけ好かないとは思ってます」


「おや、初めて意見が一致しましたね。前田くんが乗るというのなら、今だけ協力関係になってもいいですよ?」


 美作さんと協力関係……。この人の事だから、本当に犯罪レベルの事をしかねない。アカツキさんは確かにどうしようもなくて嫌なオヤジだったけど、流石に殺しまでは望んでいない。少し迷ったが、俺は差し出された美作さんの手をギュッを握り返した。


「殺しはなしですよ?」


「それは相手の出方次第です。乙成暁が妙な真似をする様な事があれば、その時は容赦しません」



 ここに、俺と美作さんの同盟が誕生した。


 全ては乙成を、アカツキさんに渡さない為。なんとしてでも止めてみせる……! 

 

 

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