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前田くんは詐欺に引っかかるタイプっぽい

「何よ、そんな大きな声を出すな。家が壊れる」


「これしきの事で壊れたりなんかしませんよ!」


「んで? どうするの? ぷれみあむシュークリーム、買ってきてくれないの? 買ってきてくれないならいいんだよ? お茶だけ飲んで帰ってくれても。彼女、治したいんじゃないの?」


「く……!」


 またしてもアカツキさんのお使いに走らされる事になった俺。シュークリームだけでは飽き足らず、追加で激辛カップ麺やらポテトチップスやらまで頼まれてしまった。普段なるべく自炊して、無駄遣いしない様に気を使ってるのに……


「か、買ってきました……」


「おぉ~ありがとさん。疲れたろ? お茶いるか?」


「いえ、結構です……」


 ドサドサと目の前に置かれた品々を見て満足そうなアカツキさん。我儘を聞くのもこれで最後だからな!


「それで、さっきの話なんですけど……」


「なんだっけ? あぁ! そうそう忘れてたわ! 君の彼女ね、あれ放って置くとじきに危ないよ」


「や、やっぱり……!」


 やはりだ。なんでこの人がそれを知っているのかは謎だが、俺が心配していた通り、早いとこなんとかしないといけないみたいだ。


「それで……その方法って……」


「その前に一つ聞きたいんだが、あの子がゾンビになったのはいつ頃だ?」


「え……確か去年の秋頃です」


「ふむ……なるほど。それにしては、随分と進行が緩やかだと思うのだが、何か特別な事は?」


「あ、それなら……」


 そう言って、俺はアカツキさんにゾンビ化の進行を抑える為に彼女の好きなゲームのキャラの声を演じている事を伝えた。普通、こんな話をしたら驚かれるか引かれるかすると思うのだが、アカツキさんは黙って頷きながら話を聞いてくれる。


「なるほどな……じゃあお前さんのその声で、あの子はまだ正気を保っている、と……」


「う、うぇ? しょ、正気?」


「なんだ、わからんのか? ゾンビといえば普通、理性をなくした化け物だぞ? 誰彼かまわず人を襲い、その肉を喰らう。恐らくだが、お前さんに出会っていなかったら、あの子はもっと早く、完全体のゾンビになってしまっていただろうに。完全体となった者は、もはや人ではない。その命も永遠ではないから、どんどん身体が腐り落ち、じきに死ぬ」


 そんな……淡々と説明するアカツキさんの言葉に、俺は声を失ってしまった。


 乙成が……乙成が死んじゃうなんて……


「まぁお前さんに出会えたのが不幸中の幸いと言った所か。なんで声で進行を遅らせられるのかは分からんが、この分野は過去にもほとんど報告があがっていない。何があってもおかしくはないだろう」


「アカツキさん……あなたは一体……」


 こんな突拍子もない話を真面目に聞き、さらにゾンビ化への知見もある。ただの浮浪者だとばかり思っていたこの老人は、一体何者なのか。


「ん? まぁ俺の事はいいだろう。とにかく、このまま放って置くのは非常に危険だと言う事だ。分かったか?」


「は、はい……それで、これからどうすれば……」


 こんな話を聞いて、落ち着いてなどいられない。一刻も早く乙成のゾンビ化を解くべく、俺はアカツキさんにその方法を尋ねた。

 

「え? あー……うーん……方法ねぇ……」


 それまで饒舌にゾンビの話をしていたアカツキさんが突然口籠りだした。何かを考えているような……?


「まさかまたなんか買って来いとか言うんじゃないですよね?」


「言わない言わない! 流石に三回目はしつこいからな。ゾンビ化を治す方法ねぇ……ない事もないけど、君にそれが出来るのかなぁって思ってよ」


「俺に?」


 そう言って、俺を品定めするかの様にジッと見てくるアカツキさん。ただの浮浪者にしては、意外と端正な顔立ちをしている……と思う。なんせヒゲやら髪やらがボサボサ過ぎてよく見えないからな。きっと若い頃は、格好良い感じだったのではないかと思う。なんでこんな生活をしているのかは謎だが。



 


「そうだ、廉太郎。あの子、乙成あいりのゾンビ化を解く鍵……それは、あの子の好感度をマックスにする事だ」



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