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はじめまして

「お、乙成!」


 ぼーっと足元を見ながら時間を潰していた俺の前に、ピンクのフワフワなスカートをなびかせながら笑顔の乙成がやって来た。ずっと他の参加者とお喋りしているとばかり思っていた俺は、突然やって来た乙成に、ちょっと驚いてしまった。


「何してるの? 四月一日さんは?」


「あれ、見て下さい!」


 そう言って乙成が指差す先には、なんと男性とたどたどしく会話をする四月一日さんの姿があった。


「さっきお手洗いに行って戻ってきたらお話してて。多分あの人、四月一日殿に話しかけたかったけど私がいたから話しかけ辛かったんじゃないですかね?」


 嬉しそうに話す乙成。四月一日さんと話している男性は、今日これまで見てきた参加者の男性達の中でもダントツで四月一日さんの雰囲気に合う、心根の優しそうな男性だった。真面目で誠実、派手さはないけど優しそうな人である。二人してペコペコお辞儀をしながら恥ずかしそうに話している所を見るに、向こうも社交的な場は苦手だけど勇気を出して参加した感じか? なんか、見てるこっちまで微笑ましい気持ちになる光景だった。


「さて、私ももうお役御免ですね!」


「だな」


 やり切ったとばかりに腰に手をあてて得意になる乙成。確かに、今日一番の功労者だ。


「一生懸命話してたもんな?」


「あ、見てました? こういう場って初めてだから緊張しましたけど、四月一日殿の為です! それに、怖い人もいなかったから話しやすかったですし!」


 なんか、乙成変わったよな……前はもっと引っ込み思案な雰囲気があったのに。今は知らない人とも楽しそうに話が出来る、ちょっと大人な女性になった気がする。乙成が前向きに変わってくれて、嬉しい反面、ちょっとさみしくも感じてしまった。


「……あ! そうだ!」


「え? 何?」


 俺がちょっと沈んでいるのを察したのか、思いついた様に何やらガサゴソと鞄を漁る乙成。取り出したのは、今日のパーティで最初に書かされたプロフィールカードだった。


「はい! ここではこれを渡して自己紹介するのがルールですもんね? はじめまして! 私、あいりんって言います!」


 そう言って、笑顔でプロフィールカードを差し出してくる乙成。ちょっといたずらっぽく笑うその笑顔を見て、俺の心にあった澱が溶けていく様だった。


「はじめまして()()()()()()僕はレンレンです」


「レンレンさん! レンレンさんはイベント企画会社にお勤めで! 奇遇ですね、実は私もなんですよ!」


「あ! 本当だ! こんな偶然ってあるんですね? 折角なんでこの後ご飯でも行きませんか?」


「ふふ……! 前田さん、それちょっと急過ぎませんか? 真面目にやってくださいよ!」


 そう言って堪えきれなかったのか笑い出す乙成。それにつられて、俺まで吹き出してしまった。みんな初対面である筈のパーティ会場で、よく知っているのに改めて自己紹介し合う事が、なんだかおかしかったけど、ちょっとむず痒くて嬉しかった。


「ちょっとちょっと……! 久しぶりに戻ってきてみたら! あれ本当に四月一日ちゃん? 男と喋ってるじゃないの!」


 しばらく行方知れずになっていた滝口さんと朝霧さんが二人して戻ってきた。二人とも、しこたま飲んできたのか、既に顔が赤い。


「あ! 朝霧さん! そうなんですよ、私達の手助けなんていらなかったみたいで!」


「やるわねぇ四月一日ちゃん。あの彼、地味な雰囲気だけど凄く姿勢が良いし、所作も丁寧よ? あれ、多分良いとこの坊っちゃんじゃないかしら?」


 朝霧さんの見立てが合っているのか分からないけど、確かに遠目で見ていても申し分ない男性に見えた。良かったな、四月一日さん。


「もうオレらの仕事終わりっすか?」


「ええそうね、なんだか気が抜けちゃったわあ~。滝口、飲み直しよ! ここ結構会費高かったんだから! もと取らないと!!」


「お伴するっす!」


 今日ここに来てから、そこら辺の女性に話しかけて酒を飲んでいるだけで何もしていない滝口さんを引き連れて、朝霧さんはズンズンと人垣の中に消えて行った。多分、ここの中で一番高そうな酒を時間まで飲みまくるつもりなのだろう。それにしても、彼らは本当に付き合っているのか? なんか、どんどん滝口さんが朝霧さんの舎弟みたいになっている気がする……



 こうして、成り行きで参加した婚活パーティは、四月一日さんにとって良い収穫を残して終了した。俺にとってもこのパーティは、乙成との仲を再確認出来た気がしてまんざらでもなかった。


 これで万事上手く行った。











 と、思っていたのだが……。



 

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