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魔法少女の夜  作者: 蜂
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第5話 勇気

この作品には残酷な描写を含みます。苦手な方はブラウザバックをおすすめします。


「こら、史乃。いつまで寝ているの?」


シャッと部屋のカーテンが開けられて、眩しい光が顔に当たる。俺は苦しそうに呻いて目を開けた。


「なんだよ……今日休みじゃん……」


「休みの日でも、ちゃんといつも通り起きないと!生活リズムが崩れるわよ。はい、起きて」


「………ふわぁ……ったく、母さんは元気だなぁ」


大きく伸びをしてベッドから起き上がり、リビングへと下りていく。すると、丁度家を出るところだったのか廊下で父親とバッタリ出会った。


「あ、父さん。おはよう」


「お、史乃は早起きだな」


「母さんに叩き起されたんだよ」


俺が不満そうに頭を搔くと、後ろから軽く頭を小突かれた。どうやら聞かれていたらしい。母さんがムッとした顔で背後に立っていた。


「ちょっと、叩き起すなんて人聞き悪いじゃない」


「うへへ、ちょっとした冗談だって」


「ほら、さっさと朝ご飯食べちゃいなさい」


「はーい」


俺は返事をし、朝食の並べられたテーブルの席に腰掛ける。今日は白米と味噌汁、卵焼きにほうれん草のおひたしだ。そういえば母さんは和食が得意だったな。


俺は箸を卵焼きに伸ばそうとして手を止める。それを見た母さんが不思議そうな顔でこちらを向いた。


「あら、どうしたの史乃?卵焼き、好きでしょ?」


ぷすりと卵焼きを箸でつつくと、中身が割れてドロッとした黒い液体が流れててくる。


「………母さん、これ」


「史乃、これ好きでしょ?」


白米が濁り、たちまち音を立てて腐り始めた。味噌汁はよく分からない物体がゴポポという音とともに表面に浮かぶ。おひたしには蝿が集り、黒い液体が滲み出ていた。


「…………なに、…これ」


「史乃の好きなものを作ったのよ」


母さんの方に顔を向けると、そこには優しい母さんではなく血まみれで包帯を巻かれた人が、あの日、事故で、集中治療室に、機械で繋がれて、あの日、あの日、あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日あの日。



母さんが死んだ日の、姿。

























――――


「うわっ!?」


はあ、はあ、と大きく呼吸を繰り返し、目を覚ます。自分の部屋とは違うことに気づき、視線を落とすと花音が小さい寝息をたてて寝ていた。


どうやら昨日は花音を寝かしつけたまま自分も寝てしまったらしい。


「…………母さん…」


目を瞑り、自分の両腕を抱えながら俺は蹲る。


夢に現れた母さんは笑って生きていた。父親……父さんも笑っていて、普通に俺と話してくれていた。


「は、はは……昨日あんなことがあったせいだな」


ロベリアが言っていたキセキ。

絶対に起こりえない不可能な希望。


俺はブンブンと頭を振り、部屋のカーテンを開ける。すると、光を浴びた花音が眠そうな声で呻いて目を開いた。


「……んぅ……、お兄……たん……?」


「おはよ、花音」


「…………お兄たん……怖い夢……見たの?」


「え、?」


むくりと起き上がり、心配そうにこちらの顔を覗き込む花音にドキリと胸が鳴る。俺は慌てて誤魔化すように笑い、シーツを整えた。


「どうしたんだ急に?変な顔でもしてたかー?」


「お兄たん、汗いっぱい出てるから」


そう言われて自分の服を見てみると花音の言う通り、汗で服の色が変わっていた。寝ながら冷や汗でもかいていたのだろうか。


「あはは、これは…暑くて汗かいちゃっただけだよ」


俺は複雑な表情を浮かべる花音をベッドから下ろし、顔を洗ってくるように伝える。素直に頷いて走り去っていく花音の後ろ姿を見て、なぜか俺は安堵していた。



――――


第5話「勇気」


――――



朝が怖くなった。目を覚ますと、ひとりぼっちであることを思い出すから。


亡くなった母と同じくらいの歳の女性が怖くなった。彼女たちの笑い声が、呪いのように聞こえるから。


父と目を合わせることが怖くなった。母がいなくなったあの日、一人にしてくれと言った父の目が遠くを見ているように感じたから。


誰かと会話をする度、可哀想にと言われるから周りを疎ましく感じた。そんな俺の態度が周囲を不快にさせて、結局自分が孤立する。


そんなの分かっている。ずっと前から、分かっている。


「……の、……し……の、……!」


そんなに悪いことなのだろうか。

苦しんで、悩んで、それさえ自分の中にねじ込んでいるのに。苦しいと声に出すのは、そんなに悪いことなのか。


「し……の!……しの……!……史乃っ!」


「はいっ!?」


ハッとして目を開ける。いつもの教室。

周りには俺を見てクスクス笑うクラスメイト達の姿と、教卓に立ってこちらを睨む教師の姿。


隣の席を見ると、さっきから声を掛けてくれていたのだろう。友人の要人が苦い顔をして俺を見ていた。


「浅井史乃くん、私の授業はそんなにつまらないのかな?」


低い声でトントンと教卓を叩く教師の顔は見るまでもなく、怒りに満ちている。この教師は自分の授業中に寝られることが大嫌いだったはず…。


「いや、あの、……すみません」


「………はあ、授業後に職員室に来なさい」


「はい……」


くるりと背を向ける教師。俺は自分の失態を後悔しながら、ノートを確認する。……全然書けてない。


要人の方をちらりと見ると、笑いを堪えるようにして机に伏せていた。


こいつ……。もっと早く起こしてくれよ……!

…………まあ、要人に怒っても仕方ない。


俺はしぶしぶとノートを書き始めた。


――――



「いや、マジで起きないから死んだのかと思ったわ〜」


「お前な………」


昼食時間、俺は要人と教室で珍しく共に昼食をとっていた。


その理由は先ほどの居眠り事件に関する。

……そう、寝ていてノートのとれていなかった部分を要人に見せてもらっているのだ。


その代わりにジュースを一杯奢る羽目になったが。


「てか、史乃が授業中に寝るなんて珍しいね〜?」


自分の机に腰をのせ、缶ジュースを飲む要人。特別こちらの事情に興味があるわけではなさそうだったが、隠す理由もなかったので話すことにした。


「まあ……ちょっと家のことで問題があった感じかな」


その他にも色々あったが、アレは夢だと信じたい。


俺の話に興味がなさそうに「ふーん」と言った要人はスマホを取り出し、すいすいと忙しそうに弄り始めた。


「そんなに毎日何を見てんだよ」


「んー?インフタとフイッター、あとはミックトックとか」


流行りのSNSなのだろうか。

流行ものに疎い俺にはよく分からない。


「マジメな史乃ちゃんには分かんない世界だよね〜」


「別に真面目じゃない」


「えー?嘘だぁ、この前も女の子振ってたじゃん」


「………それは」


情報通の要人には全てお見通しというようだ。

流行りものが好きで、クラスの中でもちょっと浮いている存在の要人。


なぜ俺と要人が友人関係であるのかと言うと、家がご近所だったからだ。要人は去年越してきた転校生であり、彼の家も……まあまあ事情があるらしい。


似た者同士というのだろうか。いや、性格は全然似ていないが。


似たような境遇の人間は惹かれ合うと聞いたことがあるが、まさか本当だったとは。………惹かれ合うは少し言いすぎたかもしれない。


とにかく、要人とは奇妙な付き合いをしているというわけだ。


「史乃さ、勉強よりも青春大事にしようよ?女の子と付き合って、恋愛することも経験なんだよ〜?」


「………経験、ね」


楽しそうにスマホを見る要人の横顔は嫌いじゃない。似たような境遇とはいえ、彼の方がよっぽど自由に生きている。


少し羨ましくなって、俺は不貞腐れたように頬杖をついた。


「はあ………ノート終わんねぇ〜……」


「頑張れ史乃ちゃん!」


「うるせー……」





――――









「ままぁ…………」


ママがお部屋にずっといる。きっと花音が悪いことしちゃったんだ。だからママは怒ってるんだ。


「ママ、ごめんなしゃい……」


花音が呼んでもママは出てこない。お兄ちゃんにママのこと聞いても教えてくれない。なんで花音に内緒にするの?


「………お兄たん……おしょい……」


お空がだいだい色なのにお兄ちゃんが帰ってこない。お兄ちゃんも花音に怒っているのかな?


「…………お兄たん」


花音が昨日すぐに寝なかったから、お兄ちゃんは怒って帰ってこないのかも。そう思うと花音は悲しくなって、涙がぽろぽろ出てきた。


「……おにい……たぁん……」


ぽろぽろ、ぽろぽろ。玄関で泣いているとドアがぎぃって勝手に開いた。花音はびっくりして、ドアの外を見てみる。


「……………お兄たん?」


お兄ちゃんはいない。

でも、ドアが勝手に開くなんておかしいよ。


花音は不思議に思ったけど……もしかしたら、お外でお兄ちゃんが待っているのかも。


「お兄たん………」


花音は勇気を出してドアの外に出る。

おにぎりメンが言ってた。勇気を出すことは、とってもいいことなんだって。


「……よぉし!花音、ゆーきだしゅ!」


花音は力いっぱい一歩を踏み出した。






































「があぁっ!?マジかよふざけんなよ!くっそ、このガキが飛び出してくるから悪いんだ!!お、俺は知らねーからなクソが!!」


「………ぁ、う」


痛い、痛いのに何にも言えない。

転んだ時、血が出ていっぱい泣いたのに、今は泣いてるのか分かんない。


苦しい、痛い、寒い、怖い、なんで?

花音、勇気出したのに。


「………ぉ…、に………た…」




たすけて。お兄ちゃん。

友達がたくさんいる史乃くんが羨ましいですね。ついでに、要人はカナメと読みます。カナトくんじゃないですよ。


最近は胃が痛いので薬を飲むことにハマっています。

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