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9.いったい何処に行ったんだ!



~現在~



ハートリー伯爵家のタウンハウスは大きいわけでは無いが、内装から家具までロココ様式で豪勢に統一してあった。

壁に飾られた絵画からテーブルに並ぶティーカップまで全て繊細で美しい。

そう言えば母からハートリー伯爵家は芸術の才に秀でた一族だと教えられた気がする。




「本当に、なんて美味しいのかしら」


切り分けられたケーキは既に2つ目だ。

何と言ってもジゼルが用意してくれていたのは私の大好物のコーヒーウォルナッツケーキだったのだから仕方がない。

ジゼルが焼き菓子に合わせて選んでくれた紅茶も絶品だった。

どうやら彼女は紅茶が好きらしい。



「喜んでいただけたようで嬉しいです。 きっと料理長のモートンも大層喜ぶ筈ですわ。“オフィーリア・ラルーにケーキの腕を認められた”と触れて回るかも」


「まぁ! それならモートンさんには定期的に私にケーキを作って貰わなくちゃ」




それからはジゼルの選んでくれた紅茶の美味しさを楽しみながら二人で他愛の無い話をした。






社交界での噂話や、



「先日の夜会でアルフォンス卿にダンスに誘われたわ」


「まぁ……あのとてもハンサムな…? きっと夢のような時間を過ごせたでしょうね」


「そうとも言えないわ。 アルフォンス卿は何よりも自分の事を愛しているみたい。きっと自惚れ屋なのね。

踊っている時も自慢話ばかりで退屈だったわ。

その後に話したミスター・イームズはユーモアがあって楽しかったわ」


「確かに人当たりは優しそうですよね。

けれど鼻が少し大きすぎる気がしませんか?」


「そうね。でも歯並びは綺麗だと思うわ」





最近読んで面白いと思った本の話



「先日は『失楽園』を読みました」


「そんなに難しい本を? ジゼル、貴女ったら知識が豊富なのね! 」


「そんな事は御座いませんよ。確かに少し難しくても面白いと思います。

オフィーリアはどんな本がお好きですか?」


「そうね……『ジェーン・エア』や『分別と多感』は好きだわ。 恋愛や冒険が描かれた物語が大好きなの!」


「私も恋愛を描いた小説は好きですわ。

今度はそういった物語を図書館で借りようと……、あら…」


「どうしたの?」


「図書館に本を返しに行くのを忘れていました…。

オフィーリアに会えて嬉しくて…」


「それなら今から一緒に図書館に行きましょうよ。

もちろん、この後ジゼルの予定が空いていればだけれど」




こうしてジゼルと一緒に王立図書館まで出掛ける事が決まった。

私の友人は一緒に社交界デビューした令嬢達やラルー家の威光にあやかりたい野心家ばかりなので、ジゼルのように優しくて穏やかな友達は初めてで嬉しい。


私は最近のドレスの流行や社交界でのゴシップばかり話すよりも、こうして他愛の無い事を話す方が好きみたいだ。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「いや、見てないな。 そんな娘が乗ってたとすれば忘れたりするもんか。忘れるどころか声を掛けたさ」



町の宿屋の前に止めた乗合馬車の御者に声を掛け、人を探している事とオフィーリアの特徴を伝えるが、返ってくる言葉はこの数時間嫌になる程聞いた返事だった。


その後念の為乗合馬車に乗っていた乗客が休憩している宿屋の食堂で乗客に聞き込みしてみたが、案の定先程の御者と同じ言葉が返ってきた。




ラルー邸で衝撃的な事実を突き付けられたすぐその後、アラステアと共に厩舎を見に行ったが馬は全てきちんと繋がれていた。

勿論ラルー家の馬車は全て屋敷に残っている。馬が一頭も欠けていないので当然だが。


では残るのは辻馬車か、あるいは乗合馬車となる。

もし辻馬車を使おうものなら探すのは困難になってしまう。

オフィーリアが少しでも正気を取り戻して乗合馬車を選んでいる事を祈る他ない。



アラステアと議論した結果、国の中枢であるこの地から乗合馬車が通っている周辺の町や村を片っ端から手分けして探す事にした。


ライサム伯爵家で一番速い馬を駆って既に幾つかの町で探してみたもののオフィーリアの影どころか、彼女のような女性を見た者も居なかった。


アラステアはオフィーリアを見つけただろうか?

ぜひ無事に連れ戻してくれていると良いのだが。




しかし途中の町でアラステアと落ち合ってみると、彼の方も芳しくなかった。


「乗合馬車の乗客から住人にまで様々な人に聞いてみましたが、誰も姉らしき人には覚えが無いようです」



「こちらも同じようなものだ。どの店にも立ち寄った様子は無い」



「あぁもう…! こんな事になるなら、あの時姉上を一人にすべきじゃ無かった!」



「君が見張っていた所でオフィーリアが気を変えたとは思えないな」



彼女と出会った当初だったら、僕が傍に居たならこうなっていない自信もあっただろう。

でも今は違う、 オフィーリアを止める事は誰にも不可能だ。



「流石にこれ以上の距離を乗合馬車で進むのは不可能だ。 残る選択肢は何処かで見落としたか、あるいは………辻馬車を使ってもっと先へ進んだかしかない」



「船を使ったという可能性はどうでしょう?

姉はよく僕に留学先の国の話を聞きに来ていたので」



船を使って他国に逃げられたら見つけ出すのは不可能だ。

しかし船ならばすぐに出航する訳ではない。まだ今日の出航には時間がある筈だ。



「確かに船を使う可能性はあるな。 僕は一度街へ戻って港へ行ってみようと思う。君はもう少し周辺を探しつつ戻って欲しい」



「わかりました」



アラステアが自分の馬に乗って道を駆けて行くのを見送り、此方も馬を飛ばして来た道を戻る。



このままではオフィーリアを永遠に失うかもしれない。

僕の人生に彼女が居ないなんて事は考えられない。光を失った屍のようになってしまう。




彼女の傍に居る為ならば僕は何でもしよう。





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