6.出会った瞬間に
オフィーリアと出会った瞬間に彼女と結婚するだろうと感じた。
彼女の蕩けた蜂蜜のような琥珀色の瞳と目があった時、自分はずっと昔から彼女を知っていた気がした。
挨拶の為に彼女の手の甲に口付けた途端、自分はずっとオフィーリアと出会うのを待っていたのだと気付いた。
普段の自分はもっと冷静に物事を考えられる男だし、運命やらロマンスなど信じていなかったにも関わらず。
幸いオフィーリアは貴族のレディでこそないが資産家の娘だから、ライサム伯爵夫人となっても申し分無い。
彼女の両親も貴族との縁を欲しがっていると噂だった。
だからその後のパーティーでもオフィーリアの傍を離れずに彼女のユーモアのある会話を楽しみ、翌日は街の一等地にあるラルー邸に花束とプレゼントを贈った。
当初は順序を踏んで彼女に求愛していくつもりだったが、資産家の娘な上に一際目を惹く美貌を持つ彼女を妻にと望む貴族や紳士が多いと知るや否や、まだ知り合って間もないというのに結婚を申し込んでしまった。
これは普段何事も冷静に判断し、慎重物事を進める事を美徳とする僕には考えられない行いだ。
どうやらオフィーリアには関わった人をも衝動的な行動に走らせる才能があるらしい
僕が求婚した時の彼女の嬉しそうな眩い笑みを思い出すと焦燥感が薄れ、苛立たしげに引き結んでいた口元が僅かに緩んだ‥‥‥と、同時にある事に思い当たった。
オフィーリアはとても美しく、国内でも有数の資産家の娘で、彼女を我が妻にと望む紳士は多い。
僕との婚約が破棄されたと噂になれば、今度こそ彼女の夫の座を得ようと紳士達がこぞってオフィーリアに求婚しようとするだろう。
すでに噂は広まり、ラルーの屋敷に男どもが押し寄せているかもしれない。
突然血相を変えて部屋のドアへと向かう背中に、愉快そうに茶化すリチャードの声が飛んできた。
「どうやらミス・ラルーに謝罪する気になったようだね。 懸命な判断だと思うよ」
ドアノブに手を掛けたものの、リチャードの言葉が気に入らない。
一度振り返って訳知り顔の友人を睨み付ける。
「‥‥僕は謝罪をする気はない。そもそも僕は彼女に正しい事しか言った覚えはないからな。
オフィーリアに考えを変えるよう説得しに行くんだ」
「あぁ、そう言う事にしておくよ」
肩を竦めるリチャードに非常に腹立たしいが、これ以上友人と押し問答をしている時間はない。
狼を思わせる鋭く冷たい眼光でもう一度リチャードを睨み付けてから、ドアを開けて部屋を後にした。