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9.逆ハー推しは難しい

本日二話目の投稿です。

よろしくお願いします。

 クラスメイトの反応は相変わらずだが、第一王子の発言のおかげで面と向かって嫌味を言ってくる者は減った。まぁ、ソアセラナに対する陰口は尽きないが、ナディエールが睨みを利かせているので耳には入りにくくなっている。

 当初ソアセラナが予想していた以上に快適な学校生活が送れているのは、やっぱりナディエールのフォローがあってこそだ。


 黒い噂が尽きないナディエールだけど、完璧な淑女としても有名だ。共に生活をしているソアセラナは、日々美しい所作を実感している。一方ソアセラナは侯爵令嬢とは名ばかりで、マナーなんて一切身につけていない。毎日ナディエールから淑女の特訓を受けているような有様だ。

「卒業したら村に戻るから、行儀作法は意味がないよ!」

 ソアセラナがそう言っても、「身に付けたものは裏切らない。勉強や魔法と一緒よ」とナディエールに一蹴されてしまう。


 そんな風に日々お世話になっているのだから、やっぱりナディエールに恩返しがしたい。

 ナディエールへの一番の恩返しは、当然斬首刑回避に決まっている。そのためには、有り得ない逆ハーを実現させるしかないのだ!

 そう気合を込めたソアセラナは、もはや天敵と認定されているデリシアの下に向かった。本当にもう、一人で戦地に赴く気持ちで……。


 相変わらずデリシアは、ソアセラナが声をかけるより前に振り返る。他の人にはニッコリ微笑むところしか見たことがない丸い新緑色の瞳を細めて、睨みを利かせてくる。もう、逃げ帰りたい……。


「……何か用?」


(他の人に聞かせる、きゃぴきゃぴした声で対応願いたい。そんな可愛い顔から、そこまで低い声出るの? ダンジョンの奥深くから聞こえてくる声みたいだよ?)


「何なのよ? 用があっても側に寄って欲しくないんだけど? 貴方が側にいると、魔力がなくなりそうで怖いわ」


(わぁ、すごい敵意。ごめん、ナディ、心が折れそうです……。いやいや、目指せ! 斬首刑回避、魔力復活! 怯むな、私!)


 ナディエールは両拳に気合を込める。

「第二王子とオーベル先生とグレイと私の兄なんだけど……」


 ゲーム上であれば今頃は全員と仲を深めているはずだが、現実では第二王子以外は誰もデリシアとの接点がない。残念ながらオーベルもグレイソンもオスカーも、デリシアに興味を抱いていない。

 しかし可愛らしく魔力の大きいグレシアに好意を寄せる令息は学年を問わず多い。特別クラスの男子生徒などは、グレイソン以外はデリシアの言いなりだ。


 しかし、貴族令嬢からしたら考えられない男性との距離感に、眉を顰める女生徒も少なくない。そんな状態だから、ソアセラナが釘を刺しに来たと勘違いしたデリシアは早くも臨戦態勢だ。視線にさえ魔力が込められている気がする。身体中に穴が空きそう……。


 「目指せ! 斬首刑回避!」そう言い聞かせて再度両拳に気合を込めるから、爪が食い込んで手のひらから血が出そうに痛い。

 痛みと共に、結論から責める! 

「いっそ、……全員と付き合ってみたらどうかしら?」


 予想外過ぎるソアセラナの発言に、デリシアは穴が空いたみたいにパックリと口を開いて驚いている。すぐに気を取り直すと、どんな罠なのか? と疑り深く睨んでくる。

「貴方馬鹿なの? 本当は、近づくなと釘を刺しに来たのでしょう? 遠回しじゃなく、はっきり言いなさいよ。良い人の振りをするのは止めて!」

「近づくななんて、とんでもない。もっと近づいて欲しいなと思っています!」

 前代未聞のお願いだから、ソアセラナは必死に身振り手振りで気持ちを伝える。とにかく本人は必死だが、傍から見たら怪しさしか感じられない……。


 呆れた表情しか見せないデリシアは、ため息交じりに「ヘカティアは全人類に平等に魔力与えた」と呟いた。

 今度はソアセラナが困ってしまう。デリシアが何を言いたいのか、さっぱり分からない。


(こういう意味分かんないことを言うなってこと? もしかして私、身をもって体験させられてるの?)


「でもヘカティアに見限られた私達人間はどうなっている? 貴族だけが権力を持って私腹を肥やし、平民は貴族のために働かされている。私の魔力は私のものなのに、貴族のために使えと貴族に搾取されようとしている。そんなおかしいことある? 私の能力をどう使うかは、私が決めるべきなのよ!」


(確かにその通りだと思います! 私みたいに周りの言いなりにならずに、はっきりと自分の意思を持ち続けて欲しい! 応援してる! でもその話は、私の話と何か関係があるかな? 四人とお付き合いをする話をしたいんだけど……。どうすれば、話題を元に戻せる?)


「そうだね、国や貴族の言葉は、とても聞こえがいい詭弁が多いから気を付けて! ちゃんと見極めてデリシアさんの意志で決めるべきだと思うよ」

 ソアセラナの言葉に、デリシアの瞳がカッと見開かれる。目を見たら石になる光線でも出ていそうな雰囲気だ。


「それを邪魔するのが、あんた達貴族でしょう? やれ宮廷魔道士になれ、魔法薬師もあるぞってうるっさいのよ!」

「宮廷魔道士も魔法薬師も憧れの職業でしょう? 給料もいいし自立して生きていけ……」

 ソアセラナの言葉を遮る、デリシアの視線が痛い……。もう、石になりたい気分だ……。


(ヒロインは可憐な乙女ってナディが言ってたけど、嘘じゃん。薄々というか、もうずっと気がついてたけど……。ダンジョンに潜る冒険者だってもう少し穏やかな目をしているよ?)


「宮廷魔道士も魔法薬師も所詮は国に雇われているのよ! 働きの大部分は国に搾取されるし、国益や貴族の思惑が優先されて仕事も選べない。死ぬ思いして働くのは私なのだから、誰に操られることなく、自分一人でやりたいの。そうすれば依頼料だって全て自分の物でしょう?」

「なら自分で治療院を作って個人で活動すればいいんじゃない? デリシアさんの癒しの力は有名だから、お客さんも集まると思うわ」

 ソアセラナとしては、至極まともなことを言ったつもりだ。だが、デリシアは馬鹿にしたようにため息をついた。

「それでは国から一目置かれているという名誉が得られないじゃない。ちょっと力のある街の治療院で終わってしまったら、大きな魔力を持って産まれてきた意味がないでしょう?」


(……。えっ? 何? どんだけ欲張りなの……? それに、話が全然戻らない。もしかしなくても、文句をつけたいだけ?)


「えっと、それは……。宮廷魔道士のように国のお墨付きと後ろ盾を得て地位と名誉を獲得したいけど、国に雇われるしがらみからは逃れて自分のしたいように自由に仕事をしたいということ?」

「まぁ、簡単に言えば、そうね」


(難しく言えば、どうなんだよ? 貴族と同じで権力が欲しくて、私腹を肥やしたいだけじゃん! でもまぁ、貴族なら誰もが望むことだけど、平民であれば富裕層だってお金は手に入っても権力は難しい。せっかく能力を手に産まれてきたんだから、と思う気持ちは理解できなくはないけど……)


「確かに一部の貴族にはデリシアさんの言う通りの人間もいるけど、多くの人は自分の持っている権力に見合った責任を果たそうと……」

「あー、そういうの要らないから! お貴族様の正論なんて反吐が出るわ! 結局あんた達は自分の都合だけだもの! カークライルのことだってそうよ。あっちが友人になろうと言うから友人になっただけよ。それを『婚約者がいるのに距離が近い』とか、カークライルが呼び捨てにしろと言っているのに『馴れ馴れしい』とかうんざりなのよ。私ではなく、カークライルに言えばいい話じゃない。本当に貴族って面倒だわ!」


(確かに貴族は面倒だ。同意する。でも、自分の都合だけなのは、貴方も同じでは?)


「貴族も一括りではなく、色々な人がいるわ。オーベル先生とかグレイとか私の兄とか、是非とも話をして面倒なだけかどうか確かめてみるべきだと思う!」

「貴方だけで面倒なことは分かったから充分よ。さっきから同じ名前しか挙げないけど、何なのよ? 自分の自慢でもしたいの?」


(自慢? 何の話? いや、それより、不味いわ! 今日一番の胡散臭そうな目で睨まれてる……)


「じ、実は、占いが趣味なの……。第二王子殿下とオーベル先生とグレイと私の兄は、デリシアさんと相性が抜群なの! それも、四人全員と同時に仲良くなると、最高に運勢が増すわ!」

 デリシアは胡散臭いを通り越して、完全に確信を持って疑いの目をソアセラナに向ける。

「魔力を失って、頭までおかしいのね」

 白い目でソアセラナを見ると、デリシアはそう言い残して走り去った……。


 お互いに身勝手な意見の応酬は、ソアセラナの体力も気力も奪い去った。スライムのようにぐったりと机に突っ伏したソアセラナの隣に、笑いを堪えて震えるナディエールが座る。

 疲れ切ってしまったソアセラナは、早くも隈でも浮き出してきそうな顔だ。

 何とか逆ハーに持っていこうと、ソアセラナなりに奮闘したのだ。完全に怪しい人認定を受けたけど、あれ以上どうすればよかったのだろうか?


「ヒロインが全然、人の話聞いてくれない……」

「そうね、自分が正しいと信じて揺るがないタイプね」

「私の会話の内容も、酷すぎた……」

「そうね、どストレートだったわ」

「どうすれば、四人と付き合うのを自然と推奨できる会話が生み出せるのか分からない……」

「そうね……。普通に考えれば推奨すべき行動じゃないのだから、仕方がないわ。それとなく、四人と仲良くなるように仕向けるしかないわね……」


 それを口でいうのは簡単だ。でも現実はゲームのようにはいかない。

 登山初心者が装備ゼロで、クライミングが必要な険しい山に登るようなものだ。それもその山頂付近には雪が積もり、登山者に余計な試練を与えている。そんな高くそびえ立つ山を見上げて、二人は深いため息をついた。

 教室からは夕焼けが鮮やかに見え、裏山が茜色に染まっていく。重い腰を上げた二人は、とりあえず山を登るのは次回に持ち越して、寮に帰ることにした。

読んでいただき、ありがとうございました。

まだ続きますので、よろしくお願いします。

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