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7.オスカーの裏切り

本日二話目の投稿です。

よろしくお願いします。

 ナディエール曰く、ソアセラナの性格も全く違うらしい。

「ラナはロードレーヌ侯爵にいいように操られていた。出世を狙ったロードレーヌ侯爵の手駒として、第二王子派の重鎮達の言いなりになって暗殺や謀略の片棒を担がされるの。そんなこととは知らない貴方は、両親に褒めてもらいたい一心で言われた通りに指令をこなしていくのよ」


(えっ? 何そのどうしようもない私は?)


「自分のしていることが人を殺め人を貶めていると知った時、優しい妹の心が壊れてしまうとオスカーは確信していた。一生懸命に大好きな魔法を学ぶ妹の笑顔を守りたくて、オスカーはソアセラナの盾となり、第二王子派や両親を近寄らせないの……。って、そんな気持ち悪いものでも見るような視線を、わたくしに向けないでもらいたいわ」

「……いや、だって……。私も兄も、両方とも誰それ? って感じで……」


 六年前にソアセラナは家族に捨てられた。その時に家族の縁は切れたとばかり思っていた。それなのに父親は、ハーディンソン家のお茶会に行けと勝手に引き摺って行くし。兄は蔑んだ冷たい視線を送ってくる。

 だが、ソアセラナの中では、六年前に家族の縁は断ち切っているのだ。


(あの日のことは一生忘れられない)




 第一王子を助けるまでのソアセラナとオスカーは、非常に仲の良い兄妹だった。それこそ、シナリオの話もうなずけるような信頼関係があったとソアセラナは思っていた。

 ソアセラナの強大な魔力を狙った敵に攫われないためと、逃亡を防止するため、屋敷の中でソアセラナは常に監視されていた。

 親が娘を道具としか思って軽んじているせいで、使用人達も主人夫婦と同じようにソアセラナを扱う。唯一ソアセラナを人として扱い、大切にしてくれたのが兄であるオスカーだ。

 だからソアセラナもオスカーだけには心を開いていたし、兄の存在があったから心を壊さず生きてこれたと思う。

 

 そんなこの世で唯一信頼していた兄が、ソアセラナを裏切っていた……。


 第一王子を助けてからソアセラナは、屋敷ではなく地下牢に監禁されていた。第一王子との面会が終わり城から戻った後も、当然のように寒く黴臭い地下牢に放り込まれた。

 暗闇の中だと時間の感覚が失われるが、父親の悲鳴に近い大声が聞こえてきたのは深夜だったと思う。


「全てソアセラナが悪いのだ! 勝手に第一王子なんか助けて、おまけに魔力まで失うなんて。全てが水の泡だ! あいつが馬鹿な真似をしなければ、地位も名誉も大金も手にできるはずだったのに! 第二王子派に疑われる根源であるソアセラナを殺して、己の身の潔白を証明するしかない!」

 娘が引き起こした突然の事態に、ロードレーヌ侯爵は全く対応ができていなかった。第二王子派に追い詰められ、全く上手く立ち回れないし周りも見えていない。状況は悪くなる一方で、その苛立ちをソアセラナにぶつけることしかできないのだ。


 その夜も父親が一人で文句を並べ立てているのかと思ったが、別の声が聞こえてきた。

「父上、ソアセラナを殺すのは、まだ早いかと」

 背筋に冷たい汗が伝うほど冷酷なオスカーの声だった。普段ソアセラナと話している時には、耳にしたことがない恐ろしい声だ。


 オスカーの冷静な声に対して、侯爵は判断能力があるのか疑わしい態度で怒鳴りつける。

「お前の意見など聞く気もないわ! 子供が口を出すことではない! 魔力を失い役に立たないソアセラナなど、生きている価値もないのだ!」

「確かに魔力のないソアセラナは、我が家にとってはゴミ以下です。ですが、第一王子だけでなく、第一王子派の面々はソアセラナに感謝しているはずです」

「その通りだから、第二王子派は私が寝返ったと思っているのだ! ソアセラナを殺して、第一王子との繋がりを断ち切るしか生き残る道はない」

 ソアセラナが死んだところで、第一王子を救った事実は消えない。そんなことさえも分からないほど、ロードレーヌ侯爵の精神状態は追い込まれていた。


「それを、逆手に取りましょう、父上」

 胸の奥が不安でぞわぞわする、気味が悪いほど冷え切った声だった。元より冷え冷えとした地下牢が、さっと凍りつく。

 怒り狂っていたロードレーヌ侯爵だって、ゴクリと唾を飲み込んだほどだ。


「第一王子派に寝返った振りをして、第二王子派に情報を流すのです。そうすれば、父上の第二王子派での立場も上がりますよ」

「……簡単にできるのなら、とっくにやっておるわ。第一王子派は王妃がまとめ上げている。王妃は国王に代わって執務をこなしているぐらい優秀で慎重な人間だ。一度命を救ったぐらいで、そう簡単に第一王子派の懐に入り込めるはずがない!」

「私ならできます! 私は第一王子の側近に指名されました。他の者を出し抜き必ずや右腕となり、第一王子派の情報を流します」

「……」

 ロードレーヌ侯爵は黙り込んだ。ソアセラナを殺すか、オスカーをスパイにするか、一体どちらが自分にとって有益か天秤にかけているのだ。


「私が第一王子派に入り込むためには、恩人であるソアセラナが生きている方が都合がいい。父上が目障りに感じるのなら、隣国の親戚にでも預けてはどうですか?」

「……そうだな。死んでしまっては、恩を忘れられてしまうな」

 天秤はオスカーの方に振れたようだ。父親はニヤニヤと厭らしい笑顔を浮かべた。

「では、ソアセラナはアーベン国に預けましょう。あそこは魔力のない国です。『魔力を失ったソアセラナはスペンサイド国では暮らし辛いから預けた』と言えば、余計に第一王子の罪悪感を引き出せます。ソアセラを殺す時期は、今後の状況を見極めて決めましょう」


 オスカー達の持つ光が消え、地下牢には真っ暗闇と静寂が戻った。

 ソアセラナの心には、地下牢以上に暗く深い穴が空いた。その穴に引き摺り込まれそうで、ソアセラナは暗闇の中たった一人で怯えていた。

 

(死ぬことさえ父と兄の出世に利用されるの? 私の存在も死も、そんなに軽いものなんだ……)


 涼しい顔で妹さえも騙したオスカーが父親とちがうところは、すこぶる優秀ということだろう。予告通り第一王子の側近という役割をしっかりとこなし、第一王子の右腕として第二王子派のスパイとして大活躍中だ。




「とまぁ、こんな事情だから、兄が私を守るなんて有り得ない。ましてや私が兄のために怒るなんて、もっとあり得ない」

 不快で歪んだソアセラナの顔をまじまじと見ていたナディエールが、がっくりと肩を落とした。あまりの落胆ぶりに、ソアセラナも焦る。

「えっ? 嘘偽りない事実だけど?」

「その嘘偽りのなさに困っているのよ……」

 言葉の意味が分からなくて、ソアセラナは首を傾げる。

「何なのよ? 何でそんなに苦労しているのよ! 知っていたら、助けられたのに! ゲームが始まる前だからと、気を抜いていたわ! ごめんね、ごめんなさいね、ラナ」

 気の強そうな赤い瞳に涙を溜めて、ナディエールが何度も謝ってくる……。


(ナディは全然関係ないのに? 私を助けられなかったと泣いてくれるの?)


「それにしても、許せないわ、ロードレーヌ家! ラナが魔力を取り戻して復讐したい気持ちが分かるわ! 私も使えるものは全て使って協力する!」


(いや、魔力が欲しいのはロードレーヌ家に復讐するためではないのだけど……。物凄く盛り上がっているしな……。まぁ、いっか)


「でも、困ったわね……。ラナが魔力を取り戻すのためには、誰よりも大事な兄がその他大勢にされたことが許せず怒りを爆発させる必要があるの。今のラナが持っているのは、オスカーへの怒りかしら?」

 六年前は父親よりオスカーに対する激しい怒りがあったが、この激動の六年の間にどうでも良くなってしまった。ソアセラナには他にするべきことがるから、ロードレーヌ家なんかに構っている暇はないのだ。

「ラナのオスカーへの激しい感情が爆発することで、魔力が覚醒するのよ。それって、恨みや憎しみでも可なのかしら……?」


(困った……。怒りも憎しみもないよ。兄に対して何の感情も湧かないのに、爆発しようがない……!)


「少しでも興味を持てるよう、努力します……」

「そ、そうね……、何だか申し訳ない気がするけど……。後、逆ハーに持って行くためにも、四人の攻略対象やヒロインとは積極的に関わった方がいいわね」

 実はゲームでは、逆ハーに持って行くのが一番簡単だった。そのあまりのチョロさに、ナディエールは逆ハーに持ち込むのは簡単だと楽観視していたのだ……。しかし、ソアセラナとオスカー兄妹が、ここまでシナリオと違っていたとは想定外。


「悩んでも仕方がないわ。現時点でシナリオとの相違点が多いんだもの。わたくし達は自分達の出来ることをやり切りましょう!」

「頑張ります! 目指せ! 斬首刑回避と魔力回復!」

 ソアセラナの掛け声に、ナディエールは首がヒヤリとした。

読んでいただき、ありがとうございました。

まだ続きますので、よろしくお願いします。

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