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17.側妃

本日一話目の投稿です。

よろしくお願いします。

 ソアセラナと話をしてから、デリシアは人が変わったように学業に取り組んだ。デリシアのことを見下しながらも、大きな魔力に群がってくる生徒を都合よく利用することも止めた。

 気づけばソアセラナに絡んでくるようになり、ナディエールが接点を持たないように必死に避けている。

 そんなデリシアに惚れ直したのが、第二王子であるカークライルだ。デリシアの心は自分にあると勘違いしている第二王子は、母親である側妃に熱い想いを何度も何度も訴えていた。


「俺の運命の相手はデリシアです! 類まれなる癒しの力を持っているだけでなく、王太子妃としての自覚が出てきたのか最近は勉強にも真面目に取り組んでいます。ナディエールなんて家の力しかない無能な女より、デリシアの方がよっぽど優秀です! 俺の妻に相応しいのは、デリシアなのです! ナディエールとはさっさと婚約破棄をして、新たにデリシアと婚約を結ばせてください!」

 デリシアへの想いが堰を切って流れ出している愚かな息子に、側妃は頭を抱えるしかない。下手に抑え込むと何をしでかすか分からない息子バカなだけに、適当に聞き流して部屋に戻らせるだけで一苦労だ。


 第二王子が出て行き、やっと一息ついた側妃の私室に、ノックの音が響いた。まさかまたあの馬鹿話を聞かされるのか? と側妃が青くなる。

 しかし、部屋に入ってきたのは第二王子ではなく、オーベルだった。今一番腹の立つ男の登場に、側妃は怒りを抑えて嫌味を投げつけた。

「あら? もう監視が解けたの?」

「側妃様のお陰で、職も失わず監視も短期間で済みましたよ?」

 相変わらずのもじゃもじゃ頭をガシガシかきながら、オーベルはヘラヘラと答えた。

 まさかの密室殺人事件を起こしかけたせいで、オーベルの身柄は魔法省に拘束され、たっぷりと聴取されていたのだ。

 それを取り成して、何とか学院に戻らせるため根回ししたのが、側妃と側妃の父である宰相だ。


 その苦労を嘲笑うようなオーベルの態度は、側妃の怒りや苛立ちを逆なでする。かつて妖精姫と呼ばれた愛らしい顔を歪ませて、声を荒げて不満をぶつける。

「監視を早く終わらせてやったのに、どうして勝手な真似をしたのよ!」

 側妃の怒鳴り声など気にもせず、オーベルは相変わらずヘラヘラしながらで「えー? 勝手な真似? 何かなぁ?」ととぼける。

 怒りで側妃の魔力が暴走し、部屋中の引出しがガタガタと揺れている。


「私が気づかないとでも思っているの? 私達に何の報告もなく、どうしてケルベロスを召喚したのよ! 第一王子だって殺せていないし、もしカークライルに何かあったらどうするつもりだったの?」

「何も持たない愚かなカークライルが唯一誇れるのは、逃げ足の速さでしょう? だから何があっても安全ですよ!」

 変わらずヘラヘラと馬鹿にした態度で答えるオーベルに、側妃の怒りが爆発する。


「第一王子はケルベロスを倒した英雄として評判を上げているのよ! それに引き換えカークライルは……」

 目尻を吊り上げて口ごもる側妃に、大笑いしたオーベルが世間での評価を口にする。

「ははは、『役立たずの臆病者』って呼ばれているそうですねぇ?」

「貴方が勝手な真似をしたからじゃない! ケルベロスを召喚すると分かっていたら、カークライルは近寄らせなかった!」


 オーベルの自分勝手な行動で、第二王子は評判を落とした。それに引き換え第一王子の評判は上がっているのだから、側妃としては我慢ならない。

「第一王子は無表情で冷徹非情だと、貴族や国民からの評判を落とすことに成功していたのに……。ケルベロスが王都に入るのを防いだ英雄として評価が急上昇しているじゃない! どうしてくれるのよ!」

 勝手であろうとなかろうと、ケルベロスを召還したオーベルの行為は許されるものではない。だが、第二王子の評判が下がったのは、第二王子のせいであってオーベルのせいではない。

 そもそも、下がるほど評判はよくなかった……。それを認めず王太子に相応しいと思っている時点で、側妃も全く周りが見えていない。




 妖精姫と呼ばれた抜群の容姿を誇る側妃は、ヘイル侯爵家という代々宰相を担う国内屈指の有力貴族の家に産まれた。だが、それだけだった。

 容姿とプライドの高さ以外は飛び抜けたところがなく、努力することも嫌った。人の上に立てないと分かり切っている勉強や教養は、学ぶことを拒否した。高位貴族の令嬢が無学無教養とはあり得ないが、父親であるヘイル侯爵は娘を猫かわいがりしていてまかり通ってしまった。


 その教養の欠片もない妖精姫はプライドが高く、国で最高位の女性の称号である王妃になることを望んだ。

 だが、能力のない王太子を支える役目には、王の執務を代行できるような必要以上の頭脳と教養が求められる。とてもではないが、側妃は王太子妃の候補に名を連ねる能力は持ち合わせていない。娘に甘いヘイル侯爵も、さすがに王太子妃になるのは無理だと分かっていたが、娘の望みは叶えてあげたい。

 そこで考えついたのが、側妃だ。本来なら愛妾の立場だが、そこは金と権力を使って側妃に仕立て上げた。

「王太子妃になる勉強も、煩わしい公務もしなくていいのに、王太子から愛されて、王太子妃以上の権力を手にできる」

 ヘイル侯爵は娘にそう言い含めた。何も知らない知ろうともしない娘は、その言葉が真実だと受け止めた。


 当時王太子だった現国王は、賢く厳しい王太子妃を持て余し気味で、容姿だけの愚かな側妃を気に入った。その上ヘイル侯爵家に運が味方したのか、王妃の母国が滅ぼされ後ろ盾を失ってしまった。だから本当に、側妃は王族としての義務を負わずに権力を手にすることができてしまった。

 そうなるとヘイル侯爵にも欲が出てくる。自分の孫である第二王子を王太子にしようと、そう思うようになった。

 そのために邪魔なのは第一王子だ。


 厳しい王妃に育てられた努力家の天才と、自身も楽して生きてきた側妃に育てられた努力嫌いの凡人。当然のことだが、幼少期から力の差が歴然としていた。

「成長して今以上に能力の差が浮き彫りになる前に、殺してしまおう」

 そう思ったヘイル侯爵はすぐに行動した。

 六年前の第一王子暗殺未遂の黒幕は、もちろんヘイル侯爵だ。ソアセラナが見たロードレーヌ侯爵と話していた紳士は、ヘイル侯爵だった。

 この六年の間にも何度も第一王子の暗殺を企てているが、六年前に事件で用心深くなった第一王子派はことごとく阻止している。それもあって、ヘイル侯爵家の求心力も下がってきている。




「ヘイル侯爵家も、昔ほどの勢いは失われた。カークライルが王太子になるには、ハーディンソン公爵家という大きな後ろ盾が必須なのよ! なのにあの子は平民にうつつを抜かして!」

 側妃の怒りに呼応して、テーブルに置かれていたティーカップが砕け散った。ここまで粉々になると、魔法での修復も難しい。

 側妃は砕けたカップには見向きもせず、かつての美貌を欲で歪ませた。欲まみれの瞳をオーベルに向けると、面倒くさそうに吐き捨てた。

「カークライルにまとわりつく、デリシアとかいう平民を殺しなさい」


 人殺しを命じられたのにオーベルは顔色一つ変えず、相変わらずヘラヘラと薄ら笑いを浮かべている。

「あれ? 私はオスカーが第一王子暗殺に失敗した時の保険じゃなかったかな? 別の依頼を受けるの、面倒なんですけど?」

「つべこべ言わないのよ! 脱出の授業での失態を助けたのは私よ? 貴方が学院に戻りたいと言うから、裏で手を回したのよ。貴方が勝手にケルベロスを召還したことだって知られないよう手を回している。 貴方は私に借りだらけなのだから、どれか一つくらい返しなさいよ!」


 魔法に関してもろくに学んでいない側妃は、魔力のコントロールができない。厄介なことに平均以上の魔力を持っているから、側妃が興奮し始めると周りは手が付けられない。

 部屋中の様々なものが割れたり、飛び出してくるのを器用に避けたオーベルは扉の前に立つと、「依頼お受けしましたぁ」と手をひらひら振って出て行った。閉じた扉にガツンガツンと何かが大量に当たっているが、もちろん気にしない。

 面倒な側妃との会談で疲労を感じたオーベルは、一番癒される場所に帰りたいと思い、転移魔法で自宅兼研究室に向かった。


読んでいただき、ありがとうございました。

まだ続きますので、よろしくお願いします。

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