13.逆ハー大作戦、再び
本日二話目の投稿です。
よろしくお願いします。
ナディエールの首を繋げるためには、逆ハーが必須だ。
「四人は無理でも、せめて二人いれば何とかならない?」
ソアセラナは、根拠のない期待を持って一人で地味に活動中。
今日も無理な逆ハー大作戦を、強い意志で実行に移す!
生徒会室が見渡せる中庭に立って、部屋の中の様子をこっそり窺っていたソアセラナは空を仰いだ。そして、空の青さに癒されない心で確信した……。
(あー、やっぱり逆ハー以外の方法を考えないと、ナディの首は守れない……)
目の前に広がる殺伐とした光景を見れば、ソアセラナがそう結論を下すのも無理はない。生徒会室にいる普通の神経を持った方々は、もはや息も絶え絶えだ。それが自分のせいだと思うと、ソラセラナは本当にお詫びして回りたいくらいだ。
グレイソンには恐怖を感じるほど拒否され、オーベルは行方不明。となれば残るのはオスカーのみ。
何とかオスカーだけでもデリシアを近づけようと、ソアセラナはあの手この手を考えた。
だが、ソアセラナとオスカーには名目上の家族という以外の接点はない。ロードレーヌ家において『家族』なんて、利用できるかできないかだ。利用価値無しのソアセラナは、他人以下という訳だ。いや、オスカーにとって、ソアセラナは人でもない。ゴミ以下で且つ、恨まれる存在だ……。
とまぁ、色々考えた結果、ある書類をオスカーに渡して欲しいとデリシアにお願いすることにした。
二人が知り合うきっかけを作れば、シナリオの強制力とやらが働いて何とかなるのではないか? 神頼みに近いが、オスカーにもデリシアにも嫌われているソアセラナができるのは、こんなところだろう。
もちろんデリシアには「はぁ? 何で私が貴方の召使みたいな真似しないといけないの?」とものすごい勢いで凄まれたけど、そこは「身内からの用事となれば、必ず部屋に入れてもらえるはずです」の一言が勝利した!
そう、デリシアがソアセラナのお願いを聞いてくれたのには、理由がある。
生徒会役員は第一王子を頂点に、高位貴族や魔力や学力の高い者が集まっている。要は将来的に国の要職に就く者ばかりという訳だ。その人達に近づきたいデリシアは、何度も生徒会室に行っては門前払いを喰らっている……。
部屋に入れる切符を得られるならと、大嫌いなソアセラナの願いだって聞いてくれたのだ。
「強制力、強制力!」
そうリズミカルに呟きながら、ドキドキしながら身体揺らすソアセラナ。
上手くいくと信じて中庭から生徒会室を覗くも、オスカーからは明らかな拒否が見て取れた。その態度は外から見ているソアセラナでさえ、居心地が悪くなってしまうほどだ。
もし二人が仲の良い兄妹だとしたら、ソアセラナは間違いなく窓から乗り込んででも注意に行っている。あの藍色の頭をひっぱたいている。
それでも怯まずにオスカー立ち向かうデリシアの折れない心には、ソアセラナは尊敬の念しか抱けない。
だって、こんな目にあってもめげずにいられますか?
生徒会室への入室が許可されると、当然オスカーの下に向かったデリシア。
ソアセラナに向けるのは嫌悪の色に染まった目なのに、オスカーに対しては若草色が輝いている。
「こんにちは、オスカー様」
小首をかしげる仕草も完璧で愛らしいが、オスカーは作業に集中しているのか顔も上げない。
自分に振り向かないはずがないと思っているデリシアは、変わらず可憐な微笑みを湛えている。さすがだ。
「妹さんから、この書類を預かってきました」
「……」
「妹さん、ソアセラナ・ロードレーヌさんからの預かってきました」
相変わらず書類に目を落としたまま、デリシアに藍色の髪しか見せないオスカー。
無視されてもめげずに微笑むデリシアに対して、オスカーは顔も上げずに吐き捨てる。
「あの出来損ないを妹と思ったことはない。何も受け取る気もない。仕事の邪魔だから、さっさと失せてくれ」
デリシアは笑顔で「そうですか」と言うと、書類をゴミ箱に投げ捨てた。
(えー? 私に返してくれないの? 貴族籍から抜ける申請書なのに……)
デリシアはスタスタと生徒会長である第一王子の前に立ち、「せっかく来たのですから、何かお手伝いさせてください」と小首をかしげて微笑んだ。
が、相手は微動だにしない。
折れない心を持った彼女は全く相手にされていなくても、もう一度チャレンジできるスキルがある。
だが、結果は同じで、第一王子にとっては存在すらしていない模様。誰をも魅了する微笑みも、相手が見なければ意味がない……。
大地が干からび砂漠と化す部屋を見ているのが辛いソアセラナは、デリシアや生徒会のみんなに「勝手なことをしてごめんなさい」と詫びながら、そっとその場から去った。
尚も果敢に第一王子に取り入ろうとしたデリシアは、屈強な生徒会の役員二人によって部屋からつまみ出されてしまった。
入れ替わりに入ってきたグレイソンは、「遂には生徒会にまで送り込んできたんだ。あの二人は一体何がしたいんだか……?」と独り言を呟いて訝し気に首を傾げた。
のんびりとしたグレイソンの声に、デリシアには一切反応しなかった第一王子が顔を上げた。
「二人とは、ソアセラナとナディエール嬢か?」
「そうですよ? ラナとナディの二人」
グレイソンがわざとらしく愛称で呼ぶので、第一王子の眉がピクリと揺れる。
一触即発の雰囲気に、疲れ切っている他の生徒会役員達はもう誰も顔を上げようとしない。だが、グレイソンに退室を求める者もいない。なぜなら、グレイソンが生徒会役員だからだ。
第一王子は無表情のまま、人差し指で机を叩いて苛立ちを表す。
そんな第一王子を見ながら、グレイソンはクスリと笑う。しかし、すぐに顎に手を置いて、琥珀色の丸い瞳をくるくるさせて考えこんだ。
「理由は良く分からないですけどね……。俺やオスカーやオーベル先生と、さっきの自分のことしか考えてない女を恋人同士にしたいみたいなんですよねぇ?」
デリシアが捨てた封筒を拾い上げたオスカーが、紫色の目の間に深い皺を刻んだ物騒な顔をグレイソンに向けた。
「俺だって被害者なんだから、そんな顔向けないで欲しいよ」
憮然とした顔でオスカーにそう言ったグレイソンは、再び第一王子を見ると「殿下はホッとしているみたいだけど、それはラナに興味を持たれていないってことですよ?」と笑った。
言われた第一王子は無表情だが、何か言いたそうに口だけがもごもごと動いている。デリシアをいない者として扱い無反応だったさっきとは明らかに違い、無表情の中にも焦りが見える。
完全に第一王子を翻弄しているグレイソンは、いつの間にか音も無く第一王子の横に立っている。そのまま少し腰をかがめると、他の人には聞こえな小声だが低い厳しい声を出す。
「ラナはね、魔力を失って絶望したっていうのに、強い意志で魔法を使えるようになったんです。殿下は魔力のないラナが暮らしやすいように寮の部屋やら淑女科を作ったりと準備を整えたみたいだけど、そんな特別扱いを喜ぶような子じゃない。ラナのこと、分かってないですね?」
第一王子は変わらず無表情でだが、机の上で握りしめられた拳が震えている。
「お前は分かっていると言いたいのか?」
青空の様な瞳から闇でも滲み出そうな第一王子は、恐ろしく低い声でそう唸った。
グレイソンはあざとさ満開の童顔でニッコリと微笑むと、「殿下よりは」そう堂々と言い放つ。
「二年前にラナを守った殿下に敵わないと思ったから、俺は指示に従っているんです。あんまりガッカリさせるようなら、俺にも考えがありますよ?」
琥珀色のくるくるさせ、やっぱりあざとく笑うグレイソンは、第一王子の耳元でそう囁いた……。
読んでいただき、ありがとうございました。
まだ続きますので、よろしくお願いします。