11.新しい出会い
本日二話目の投稿です。
青い空が茜色に染まり、少し藍色が増した空に浮かぶ雲がオレンジとピンクの中間色を見せている。穏やかな夕暮れ。この美しい光景で、今日の出来事など忘れてしまえたらどんなに幸せか……。
あの後オーベルは第一王子に首根っこを掴まれて、教室から引きずり出された。その間もずっと絡みつくような視線が、ソアセラナに向けられていたが……。
それは本当に身体が震えるほど、気持ちが悪かった。まるで滑り気のある大きな蛇が全身に纏わりついているみたいで、不快感と恐怖しか感じられない。オーベルは一時間も満たない間に、ロードレーヌ家の面々を抑えて、ソアセラナの二度と会いたくない人第一位に登りつめた。
この問題は、これだけでは済まなかった。それも仕方がない。国の要職に就く者も多い高位貴族の子供を殺しかけたのだから……。
元からオーバルを問題視していた教師や各省の関係者が学院に集まり、何やら緊急会議らしきものが始まった。
被害者である生徒達も帰らせてもらえず、嫌な予感がしたが案の定だ。
肉体的にも精神的にも疲労困憊した十二人の生徒は寮に戻れず、当時の状況を説明させられることになった。一番最後に聞き取りされたソアセラナが戻ってきたのが、この夕暮れ時だ。
「お疲れ様。一番の被害者だけあって、随分長かったわね」
茜色から藍色に変わろうとしている空が見える教室では、ナディエールとグレイソンが笑顔で迎えてくれる。
「あー、昔私に魔法を教えてくれた宮廷魔術師が、私が使った魔法が気になったみたいでね……」
「あの人は、魔法省の長官よ。オーベル先生の所属は魔法省だから、上司として来ない訳にはいかなかったのよ。私の時は『だから教師に何て向かないと言ったのに』って言ったまま仏頂面で、一言も発していなかったけど」
(六年前から出世したんだ。当時も偉そうだったけど、今日も随分とでかい態度だったな。でも、まぁ、魔力がなくなって見捨てた相手に「どんな魔法を使ったんだ?」と尋ねるなんて、高いプライドが傷ついてたみたいだけど。そのおかげで追及を回避できたから良かったけど)
疲れたソアセラナが机に突っ伏して座ると、机の前にしゃがみ込んだグレイソンが顔を見上げてくる。
「大丈夫だった? 魔法のせいで、村とかドゥレイルさんのことを聞かれたんじゃない?」
グレイソンの予想は的中だった。話をごまかすのに多くの労力を割かれ、疲労に疲労を重ねたのが今のソアセラナだ。
「聞かれたけど、村に来た正体不明の老人に気まぐれで教えてもらった魔法ですって言っといた」
「それで信じてもらえたか?」
「うーん? 何とも言えないけど、アーベン国は魔力も魔法もない国だからね。流しの魔法使いってことで納得するしかないよね?」
まさかそんな魔法と係わりのない国で、ソアセラナが魔法についての知識を磨いてきたとは誰も思わない。
今日集まった人達なら、誰もが知っている。魔力を失ったソアセラナはスペンサイド国では生きられないため、魔法のないアーベン国に追放されたのだと……。
二人の会話を不思議そうに聞いているナディエールに話をするべきか? ソアセラナは動かいな頭で考える。
それじゃなくても命の危機を抱えているナディエールに、これ以上危機を増やしていいものなのか?
ナディエールを巻き込んでいいのか、ソアセラナには難しい選択だ。
しかし、生き残るためとはいえ、ドゥレイルから教わった特殊な魔法を使ってしまった。そのせいでオーベルには異常に執着されてしまったし、魔法省だって今後も誤魔化し続けられるか分からない。
今までとは状況が変わり、ソアセラナを取り巻く環境は危険度が増した。
(できれば私の事情に、ナディは巻き込みたくない。だって、斬首刑と変わらない未来が待っているから……。逆ハーの協力も全然できてないし、私は全く役に立っていない。もうこれでナディから離れた方がいいに決まってる)
ソアセラナにとってナディエールは協力者ではなく、大切な友達だ。ナディエールと離れるのは辛いが、それがナディエールを守るのであれば、辛いけど仕方がない……。
「ナディ、私が魔力を欲する理由は、ロードレーヌ家への復讐なんかじゃない。もっと別のことをするためなの。それは私にとっては正しいことだけど、スペンサイド国から見たら犯罪になる。今までも全然協力できてなくて中途半端で申し訳ないけど、私とは決別した方が……」
そう言ったソアセラナは、悲しそうに眉を下げてナディエールを見る。ナディエールはそんなソアセラナの暗く沈んだ瞳を、強い意志を持った赤い瞳で見返した。
「最初にラナを巻き込んだのはわたくしよ! わたくし達は運命共同体なのよ? 今更何を言われたって、今世では絶対に逃げたりしないわ! わたくし達ならなんだって乗り切れる! そうでしょう?」
怒りを机に叩きつけたナディエールに本心をぶつけられ、ソアセラナは驚くと同時に嬉しくなった。家族にさえ捨てられた魔力のない自分の手を離さないでくれる。こんなに嬉しいことはない。
泣き出しそうなソアセラナに、ナディエールは「わたくし達は親友でしょ? 簡単に関係を断ち切らないでもらいたいわ! わたくしのためなんでしょうけど、すごく辛いわ」と強気な瞳から涙がこぼれた。
「このまま私と一緒にいてくれるなら、話しておきたいことがある。少し長くなるのだけど、全ての始まりは六年前なの。聞いていくれる?」
力強くうなずいたナディエールを見て、ソアセラナは長い過去を語る勇気をもらった。
「六年前に家から叩き出された私は、アーベン国の親戚の家に預けられることになったの。親戚にとって迷惑な話なのに。こともあろうに父親は、魔力のある娘を送ると嘘をついていたの。私に魔力がないと知った親戚は、当然怒ったわ。今度は怒った親戚が、私を辺境の村に労働力として売ったの。ここでもまた、私に魔力があると偽ってね……」
スペンサイド国からだって一カ月以上馬車に揺られてアーバン国に着いたのに、荷を解くことなくそのまま別の馬車に押し込まれた。初めて会った親戚に罵られ、馬車に揺られること更に一カ月。その馬車から荷物ごと放り投げられ、たった今自分が売られたことを知った。
目の前の女性がソアセラナを買い取った人物で、遠慮なく値踏みするように見られている。開いているのか分からない糸目から、黒い瞳がチラリと見えた。
「本当に、全く魔力がないね。大きな魔力があると聞いたから、買ったのに。これじゃ、詐欺だよ。どういうことか、説明しな」
苛立ちと怒りを隠さない低い声でそう言われても、ソアセラにもさっぱり分からない。ここまで連れて来てくれた仲介者らしき人も、こうなることを予想してさっさと帰っている。
この場に残されたのは、ソアセラナだけだ。
ソアセラナの荷物は、スーツケース一つだけだ。スーツケースとソアセラナ、たった二つの荷物が地面に転がされて、三十代位の目つきの悪い女性に見下ろされている。
人の命を助けた代償に魔力を失い、信じていた兄に裏切られ、家族に捨てられた。それだけでも十分辛いのに、行く先々で罵られ、また捨てられる。ソアセラナの心は擦り切れる寸前だ。
(魔力がない私は、価値がなくて売れない。だから、魔力があると偽って売られた。ってことは、売れる見込みのない私は、このまま放り出される可能性が高い。魔力のない私は、何もできない。何の役にも立たない。放り出されたら、生きていけない……。そもそも、魔力を失った私に、生きる意味などあるのだろうか?)
ソアセラナがのろのろとうつむいていた顔を上げると、うんざりした女の顔と、赤茶色の壁に赤い三角屋根がついた家と、その後ろに広がる深い緑の森が目に入った。
(もう何カ月も馬車の中でしか暮らしていない。揺れない家でゆっくりさせて欲しい)
そう思っても、引っ込み思案なソアセラナは何も言えない。
元々は大きな魔力を持ち、将来を有望視されていた。ソアセラナ自身も宮廷魔術師か魔法薬師になって、自分を閉じ込める両親から逃れることが唯一の希望だった。
家族に捨てられたことで家から出る希望は叶ったが……。魔力のない自分は、もう何の役にも立たないことを知った。
一人では何もできない、何も価値のない人間が自分だ。それなのに、この森の中に一人で放り出されて野垂れ死ぬのは怖い。怖いなら助けを求めればいいのに、何も持たない自分が、人に助けを求めるなんて、そんなことは許されないとソアセラナは思っている。
「……騙してしまって、ごめんなさい。数カ月前までは魔力があったのですが、使いすぎて魔力を失いました。魔力を失った私には利用価値がなく、両親に家を追い出されてアーベン国の親戚に預けられる予定でした。ですが、両親は親戚に魔力があると嘘をついていたのです。怒った親戚が今度は貴方に私を売りました」
「魔力があると偽ってな!」
女性にしては低い苛立った声を恐れたソアセラナは、またうつむいてこくんとうなずいた。
そんなソアセラナを見て、女はため息をついた。ソアセラナにとってのため息は、相手を失望させてしまった合図だ。
ため息は、ソアセラナに絶望を与える。
(ここで、放り出されるんだ……。この人は私に魔力があると思ったから買ったのに、実際に来た私は魔力がないのだもの。騙されたのは事実だし、この人が怒るのも無理もない。私を助ける義理だってない。私はどこに行っても荷物にもなれない。兄様の言う通りで、ゴミ以下なんだ)
赤い三角屋根の家を囲む緑の森が、ソアセラナには恐ろしい闇のように見えてくる。この闇の中で、一人で生きていけるのだろうか? そう考えるのでさえ、何だかもう、どうでもよくなってしまった。
いつまでも自分の家の前にゴミが落ちていても不愉快だろうと、ソアセラナはスーツケースを引き寄せてのろのろと立ち上がった。頭を下げてその場から立ち去ろうとしたソアセラナに、女は「こっちだ」と声をかけた。驚いたソアセラナが顔を上げると、女が茶色い木の扉を開けて待っている。
「早くしろ!」
ソアセラナは駆け出した。
ここは多分、薬草屋か何かなのだろう。
玄関の前はカウンターになっており、大小いくつもの瓶が並んでいる。その後ろにある大きな机には薬草が積み上げられている。その奥は調合室らしく壁で仕切られているが、少し見える机の上には乳鉢が置かれている。道具だけでなく、部屋にも薬特有の匂いが染みついていた。ソアセラナにとっては懐かしい香りだ。
「おい! 聞いているのか? 何で魔力を失ったのか、ちゃんと分かるように説明しろと言っているんだよ!」
この薬草屋の主らしき女性が、男性のように野太い声を荒げる。
男性と勘違いするくらい背が高いが、大きな胸とお尻が女性であることを主張している。腰まで伸びた真っ黒な髪は艶やかだが、黒いワンピースのせいなのか重苦しい印象だ。いや、服だけではなく、糸目の黒い瞳がそう思わせるのだ。
開いているのか? 見えているのか? という感じなのに、眼光鋭く感じてしまう不思議な瞳だ。この目で見られたら、誰もが委縮してしまう。
この人をこれ以上怒らせたらまずいと感じたソアセラナは、自分の名前と魔力を失った経緯を説明した。
「あぁ、うわさは聞いているよ。スペンサイドの第一王子を助けた金の魔法使いがお前か。でも、まぁ、それで魔力を枯渇させてたらどうしようもないね。アーベンは魔法のない国だ。自分でできる仕事を探して生きていきな」
「……金の、魔法使い?」
そんな風に呼ばれる未来もあったのかと未練がましく呟いてみて、もう二度と呼ばれることのない名前なのだと思うと胸が痛む。
「ここは魔法薬師の店だ。魔力のない奴には用はないが、今日だけは泊めてやる。村に行けばお前でもできる仕事があるだろうから、明日掛け合ってやるよ」
見た目に反して、店主はいい人なのかもしれない。ソアセラナが路頭に迷わないように、仕事まで探してくれるのだから。
だが、魔法を目の前にしたソアセラナの心中は複雑だ。
(私にはもう魔力がないのだから、魔法は使えない。だから、魔法は諦めないといけない……。今まで魔力のせいで利用され、酷い目にあって来た。魔力も魔法もないアーベン国でなら、ゴミ以下だなんて言われずに人として暮らせるのかもしれない。魔法なんてない方が幸せなのかもしれない……)
店主の言葉に従うべきだと頭では分かっているのに、ソアセラナは店主の足にしがみついていた。
「嫌です! お願いです、私をここに置いて下さい!」
店主は掴まれた足をブンブンと振って振り落とそうとするが、ソアセラナも必死にしがみついて離れない。
「魔力がないなら要らないと言っているんだよ! 魔力のないお前では、役に立たない!」
「確かに私に魔力はありません。ですが、知識はあります! 将来は宮廷魔術師か魔法薬師になって自立するために、必死に勉強していました。必ず役に立ちます!」
どんなに振り回されようと、ソアセラナは必死で頼み込んだ。こんなにも自分の願いを口にしたのは、生まれて初めてだ。
(魔力がないのだから、もう魔法は使えない。使えなくても、せめて魔法の側で暮らしたい。そうすれば、魔力なくても魔法を使える方法を見つけられるかもしれない。私は魔法を諦めたくない!)
「子供の知識なんて、何の役にも立たないんだよ」
呆れ果てた店主に、ソアセラナは必死に縋る。
魔法を学ぶ時と兄と話をする時以外は、閉じられた世界で暮らしていた。人との会話で大きな声を出すのも、頼み事をするのもこれが初めてだ。まさか自分がこんなにも大胆な真似ができるとは、ソアセラナ自身だって思ってもいなかった。それも、吊り上がった糸目がきつい、見るからに怖そうな初対面の女性相手に。
「『オウスト』も『ガミラ』も調合できます。魔力が込められないだけです」
ソアセラナの言葉に、店主が足を振り回すのを止めた。
「かつては、作れたということか?」
ソアセラナが「もちろんだ」と自信ありげにうなずく。
オウストもガミラも上級魔法が必要な魔法薬だ。九歳の子供が名前を知っているのもおかしいくらいの代物だ。しかし、店主が工程を訪ねると、淀みない答えが返ってくる。それどころか、効果を高める工夫までしている。
「その方法は自分で考えたのか?」
「先々代ロードレーヌ家の当主の弟が宮廷魔道士でした。その人が書いた書物にあることを基に、自分で考えて工夫を加えました」
店主は右眉を上げると、「確かに、ロードレーヌ家には魔力の高い奴がいたな」と呟いた。
「なら、その本を買ってやる。お前が何年か暮らしていける位で買ってやるから、その間に身の振り方を考えな」
(確かに書き写した本はある。でも、ここでそれを売ってしまっては、完全に魔法との縁が切れてしまう。そんなのは嫌だ。ここで、この店で、魔法に携わる仕事をしたい。まだ魔法を諦めたくない! 今まで散々踏み躙られてきたんだから、今更何を言われたって怖いものはないはず。それよりも魔法への夢を繋ぎたい!)
「本は持ち出し不可なので手元にはありません。私の頭の中にだけあります」
そう自分の頭を指差すと、店主は苦々しい顔でソアセラナの頭を睨みつける。
「魔法薬の他に、あぁ、呪いの解呪ができるのだな。後は何ができる?」
「知識としては詰まっていますが、実際に使ったことがあるのは、他には……。転移魔法です」
「は? 九歳が転移魔法? どのくらいの距離だ? 隣の部屋か?」
「第一王子を助けた時に初めて使ったのです。ロードレーヌ家から、黒の森まで転移しました。距離はちょっと分からないです。歩いていける距離ではないと思うのですが……」
店主は細い目を見開いた。
ロードレーヌ家の場所は分からないが、王都から黒の森まで馬車で丸一日はかかる。それを九歳の少女が転移魔法で移動した。その上で、上級魔法の解呪をして、相手を退けたのだ……。
「スペンサイドの第一王子こそ、死刑に値するな」
「えっ?」
「お前の能力を奪ったのだ。当然だろう? これだけの魔法使いの未来を奪っておいて、自分はのうのうと王位を継ぐつもりか? 笑わせるな……」
店主はスペンサイド国がある方に、ゾッとするような冷たい視線を送る。
店主はソアセラのプラチナブロンドの上に、優しく手を置いた。それだけで強張っていた心が解けていく気がする。
「私はドゥレイル。この緑の森の魔法薬師で、この店の店主だ。お前のことを置いてやるのは、お前の知識に興味があるからだ。お前は魔力がないのだから、店の手伝いだけでなく、家のことも私の身の回りのこともやってもらう。いいな」
ドゥレイルの細い目が開いて、冷たい黒目がソアセラナに命令する。だが、新たな目標を見つけたソアセラナは、その厳しい目を見返した。
「はい! もちろんです。家のことも頑張ります。ですが、私にも魔法を教えて下さい」
ドゥレイルは眉を顰める。
「お前に魔法を教えても、使えないのだから仕方がないだろう?」
「確かに魔力を失った私は、魔法を使えません。ですが、何か方法があるかもしれませんよね? 魔法ってこんなにも素晴らしいのだから、私がまた魔法を使える方法が見つかるかもしれない!」
「気持ちは分かるが、魔法だって万能ではない。諦めることも必要だ」
ソアセラの蜂蜜色の瞳がドゥレイルを見上げる。
「今まで散々諦めてきました! 家族から愛されること。友達を作ること。木登りすること。お人形遊びすること。家の外に出ること。監視されずに生活すること。宮廷魔道師になること。魔法薬師になること。みんなみんな諦めた! もうこれ以上何も諦めたくない。無理だと思っても、諦めずに信じたい。これからは、希望を持って生きたい!」
父親の出世の道具としてだけ存在していたソアセラナは、魔法書以外は何も与えられなかった。唯一心を許した兄も、自分を道具としてしか見ていなかった。
(望むことを諦めてまで優先した魔力を失った今、希望くらい持って何が悪いの?)
「好きにしな……」
そう言ったドゥレイルは、ソアセラの真っ直ぐなプラチナブロンドを掻きまわし鳥の巣のようにした。黒のワンピースから伸びたその白い手は、想像以上に温かかく心地が良く、また泣きそうになってしまう。
ドゥレイルはそのままソアセラのトランクを持つと、「ついてきな」と言って部屋の奥に進んでいく。
ドゥレイルが開けた扉の先にあったのは、ベッドと机で一杯になる狭い部屋だ。備え付けの小さいクローゼット、カーテンもベッドのリネンもベージュで可愛らしさの欠片もない部屋。
その部屋に、ソアセラは笑顔で飛び込んだ。
「窓があるんですね。嬉しい!」
ベッドの上にトランクを放り投げたドゥレイルが「ロードレーヌ家には窓がなかったのか?」と、ギョッとした。
「はい。あ、いえ。その、屋敷自体には窓はあります……。ですが、私の入れる部屋は決められていて、そのどこにも窓はありませんでした」
窓を開けながら嬉しそうにソアセラが言った。
ロードレーヌ家の屋敷の全てに窓がない訳ではない。ソアセラの居住区だけ、窓を無くしたのだ。大きな魔力を持ったソアセラナが誘拐される危険と、ソアセラナ自身の逃亡を防ぐために。
読んでいただき、ありがとうございました。
まだ続きますので、よろしくお願いします。