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罰ゲームで学年一の美少女に告白したけど何故かOKされました

作者: 向井数人

(はー、憂鬱だ……)

 金曜日の放課後、体育館裏に一人でいた佐藤一輝さとうかずきは心の内でそう言って、小さくため息を付いた。

 彼は今から学年一の美少女と言われている同級生の女子に告白することになっているのだが。

 自分は別にイケメンでもないし、何か特別な才能を持っているわけでもない、何処にでもいる平凡な高校生だと自覚している一輝としては、告白したところで振られると分かり切っているので、一輝は正直、今すぐにでもこの場所から逃げ出したかったのだが。

(でも、こっちから言い出したことだし、そういう訳にもいかないよな……第一、立花さんには手紙の主が僕であることは伝わっているし、逃げても意味ないか……よし、言うだけ言って今日は潔く振られよう!!)

 一輝はそう思い、自分なりに決意を固めると。

「……あの、佐藤くん?」

「え!? あっ、はい!?」

 唐突に背後からそう声を掛けられて、一輝が慌てて振り返ると、そこには彼が今から告白することになる相手である、立花綾香たちばなあやかの姿があった。

 日本人らしい黒色のストレートなロングヘアに加え、少し幼さが残るが、TVで見る芸能人に負けないほどに綺麗に整った顔立ち、細身でスタイルもよく、出る所は出て引き締まる所はしっかり引き締まっていると制服の上からでも分かる程の抜群のプロモーションを持っていて。

 その上、勉強も運動も出来ると全く欠点らしい欠点が見当たらないのだが、本人は割と謙虚な性格で、そんな自分を無意味に誇ることもなく、誰に対しても笑顔で礼儀正しく接してくれるという、神の慈愛を一身に受けたと言わんばかりの完璧な美少女、それか、今彼の眼の前に居る、立花綾香という女性だった。

 当然、そんな彼女が他の生徒たちから注目されない訳はなく、男子生徒の中には女神様と呼ぶほど彼女のことを神聖視している人もいるという噂も聞くし、今まで何度も告白されてきたが、その全てを断って来たという色々と凄い噂が絶えない女子生徒だった。

 そして、一輝がそんなことを思いながら、少しの時間黙っていると。

「えっと……それで佐藤くん、お話というのは一体何ですか?」

 そう言って、立花綾香は上目遣いで一輝のことを見つめて来た。しかし、

(うわっ、凄く可愛い)

 その姿を見ただけで、一輝は思わず彼女に見惚れてしまい、暫く言葉を失ってしまったのだが。

「佐藤くん、どうかしましたか?」

「あ、いえ、何でもないです!!」

 立花綾香にそう言われ、一輝は少し声を大きくしてそう答えた。そして、

(落ち着け、相手はあの立花さんだ、振られたって仕方がないんだ……よし!!)

 一輝は心の内でそう言うと、自分なりに決意を固め彼女の瞳をしっかりと見た。そして、

「えっと、その……立花さん!!」

「えっ、あっ、はい!!」

 一輝がそう言うと、立花綾香は一輝の声に押される様に少し声を大きくしてそう返事をした。すると、

「好きです!! もしよかったら、僕と付き合って下さい!!」

 一輝は大きな声でそう言うと、頭を下げて立花綾香に告白をした。

「……」

 しかし、一輝の告白を聞き終えても彼女は何も言わず、暫くの間、少し居心地の悪い空気が流れた。

 そして、この感じだと予想通り振られるんだろうなと、一輝が思っていると。

「えっと……こんな私でもよかったら、よろしくお願いします」

 彼女はポツリと、そんな言葉を呟いた。なので、

「あー、そうですよね、やっぱり僕なんかじゃ駄目ですよね……え?」

 そこまで言って、一輝は自分たちの会話がかみ合っていないことに気付いた。なので、

「えっと、立花さん、今なんと言いましたか?」

 顔を上げて、一輝が立花綾香にそう聞き返すと。

「もう、恥ずかしいので後一度しか言いませんよ」

 彼女は何故か頬を少し赤くしながらそう言った。そして、

「……えっと、こんな私でよかったら、これからよろしくお願いします、佐藤くん」

 立花綾香は少し照れ笑いを浮かべながら、それでも嬉しそうな表情でそう言った。しかし、

「え? あの、えっと……」

 当然、振られると思っていた一輝は、そんな彼女の言葉を受け入れられず、少し狼狽えた様子でそう言った。すると、

「? どうかしましたか、佐藤くん」

 彼女は少し首を傾けながら一輝にそんなことを聞いて来た。そして、そんな仕草もいちいち可愛いなと、一輝が思いつつも。

「えっと、それはつまり、僕の彼女になってくれるということですか?」

 一輝が改めてそう聞くと。

「はい、私はそういうつもりで答えましたが、もしかして、今から一緒に買い物に行くのに付き合って欲しいとか、そういったお話でしたか?」

 彼女はそんなことを言ったので。

「あ、いえ、違います!! 俺の彼女になって欲しいという、そういう話です……その、立花さん」

「はい、何ですか?」

 立花綾香がそう聞き返すと。

「その……今から僕の頬を思いっきりビンタしてくれませんか?」

 一輝は唐突に彼女にそんなことを言った。そして、その言葉を聞いた立花綾香は、

「えっと……佐藤くんにはそういった趣味があるのですか?」

 少し困惑した表情を浮かべながら、彼女はそんなことを言った。なので、

「あ、いえ、違います!! 僕にそんな変わった趣味は無いです!! ただ、これが夢なら強い衝撃を与えたら、目が覚めると思ったので」

 一輝が少し慌てながらそう言った。すると、

「成程、そういうことですか。ただ、残念ながらこれは現実なのですが、今の佐藤くんには何を言っても信じてもらえそうにないですね……あ、そうです」

 そう言うと、彼女は自分のスカートのポケットからメモ帳とペンを取り出すとメモ帳を開いてから、そのページに何かを書き込んで、そのページを破ると。

「えっと、佐藤くん、これをどうぞ」

 そう言って、彼女はメモの切れ端を一輝に渡して来たので、一輝はそれを受け取った。

 そして、そのページを見てみると、そこには、立花綾香と綺麗な文字で書かれた名前の下に11桁の数字の列が書かれていた。なので、

「えっと、何の数字ですか、これは?」

 一輝が彼女にそう聞くと。

「私のスマートフォンの電話番号です、家族以外の人には誰にも教えていませんが、彼氏である佐藤くんになら教えても問題ないと思いました。なので、もし佐藤くんが家にいる時、私とお話をしたくなったら、遠慮せずこの番号に電話を掛けて下さい」

 彼女はそんなことを言ったので。

「え、あ、はい……分かりました」

 一輝がそう返事をすると、綾香はその答えに満足したのか。

「それじゃあそろそろ私は帰りますが、これからは恋人としてよろしくお願います、佐藤くん」

 綾香は可愛らしい笑顔を浮かべてそう言ったので。

「え、あ、はい、よろしくお願いします」

 一輝はそう答えを返した。すると、綾香は一輝に背を向けて、その場を後にしようとしたのだが。

「あ、そうだ、佐藤くん」

「あ、はい、何ですか?」

「その、出来れば私たちが付き合っているということは、他の人には内緒にしておいてもらえませんか? 他の人に知られるのは少し恥ずかしいので」

 彼女は一輝に背を向けたまま、そんなことを言ったので。

「あ、はい、分かりました。ただ、そんな心配しなくても僕なんかが立花さんと付き合っていると言っても、誰も信じないと思いますよ」

 一輝が少し自虐気味にそう言うと。

「そんなことはないと思いますが……とにかく、これからよろしくお願いします、佐藤くん……電話、待っていますから」

 立花綾香はそう告げると、一輝を置いて一人、体育館裏を後にした。



 その後、佐藤一輝はいつも通り、自転車に乗って学校から自分の家に戻り、今は自室にあるベッドの上に寝転がっているのだが。

「……夢じゃないんだよな」

 一輝はそう呟くと、ポケットから一枚のメモのページを取り出した。すると、そこには確かに、綺麗な字で書かれた立花綾香という名前と、その下には彼女のスマートフォンの電話番号であるだろう、11桁の数字が並んでいた。そして、

「何でOKしてくれたんだろう」

 メモを見ながら一輝はそう呟いた。普通の男子高校生なら、学年一の美少女と付き合えることになるとなれば、それだけでその場で小躍りを始める程に喜ぶべきなのだろうが。

 一輝からすれば、付き合えた喜びより、何で自分なんかの告白にOKしてくれたのかという疑問の方が大きく、喜びよりも、何とも言えないモヤモヤとした気分で覆い尽くされていた。

 そして、一輝はそんな複雑な気分のまま、電話番号が書かれたメモを眺めていると。

「トルルルルル……」

 ベッドの上に置いてあった彼のスマートフォンが突然、着信音を鳴らし始めた。なので、一輝は誰からだろうと思って、画面写っている相手の名前を確認してみると。

「……やっぱり掛けて来たか」

 そこには、今日、一輝が立花綾香に告白することになる原因を作った男の名前が表示されていた。なので、

「……もしもし」

 仕方なく、一輝がそう言って電話に出ると。

「おっす、一輝、約束通りちゃんと立花さんに告白したか?」

 無駄に明るくて元気な声で、彼と同じクラスの斎藤颯太さいとうそうたがそう言って、一輝に電話越しから話しかけて来た。なので、

「ああ、今日の放課後、体育館裏で立花さんに告白して、今さっき家に帰ってきたところだよ」

 一輝は正直に今日の出来事を颯太に報告した。すると、

「そうか、ちゃんと逃げずに告白出来たのは良かったよ。それで、結果はどうだった?」

 颯太は興味津々と言った様子で、少し興奮した口調でそんなことを聞いて来た。なので、

「ああ、実は……」

 何故か分からないけどOKされたよ、そう言おうとして、一輝は一度口を閉じた。何故なら、一輝は彼女からはこのことは他の人には内緒にしておいて欲しいと言われたからだ。なので、

「……いや、当たり前だけど振られたよ、佐藤くんには私以外に似合う人が居ると思うよと、そう言われたよ」

 一輝がそう答えると。

「……そうか」

 何故か颯太は少しテンションを下げてそんなことを言った。なので、

「どうしてそんなに残念そうなんだ、僕が振れる姿を見たかったんじゃないのか?」

 一輝がそう質問をすると。

「お前なあ、俺が親友の不幸を喜ぶようなそんなに性格が悪い人間に見えていたのか?」

 颯太がそんなことを言ったので。

「いや、だって、罰ゲームで今までどんな人が告白しても駄目だった立花さんに告白しろなんて、そんなの僕が振られる姿を見て笑いものにしたいと、そう思うのが普通じゃないか?」

 一輝がそんなまっとうな意見を口にした。すると、

「まあ確かに、他の人に同じ罰ゲームを言ったら、そう思われても仕方がないよな。でも、俺は正直この告白は成功すると思っていたから、お前にこんな罰ゲームを提案したんだぜ」

 颯太はまるで今日の結果を予想していたような言葉を口にしたので、一輝は内心かなり驚いた。そして、

「……どうして、そう思ったんだ?」

 一輝がそう質問すると。

「俺とお前と立花さんは、去年同じクラスだっただろ?」

 颯太が唐突にそんなことを言ったので。

「そうだな、ただ、僕は一度も立花さんとはまともに会話をしたことは無かったけどな」

 一輝がそう答えると。

「まあ、それはお前だけに限らず、俺も他の男子もそうだろうからな。ただ、そんな立花さんだけど、教室では何故か時々、何かを気にするようにお前のことを見ていることがあったんだよ」

 颯太は突然そんな驚きの内容を口にした。しかし、

「えっ、冗談だよな? 僕は一度もそんな風に感じたことは無かったよ」

 一輝は驚いてその言葉を否定したが。

「いや、マジだぜ、でも、気付かないのも仕方ねえと思うぞ。多分クラスでも俺以外で気付いている人なんて誰一人居ないだろうからな。それくらいさりげなく、立花さんはお前のことを一瞬だけ見ていたからな。そして多分、立花さんは何か好意的な感情でお前のことを見ていると俺の感が告げていたから、告白すればお前には学年一の美少女という素敵な彼女が出来ると、俺はそう思っていたんだけど……」

 そこまで言うと、颯太は一度言葉を切り。

「すまなかった!! 俺が適当なことを言ったばかりに、お前の初めての告白を苦い思い出にしてしまった!!」

 颯太は大声でそう言って謝って来た。なので、一輝はスマートフォンから少し耳を離しつつ。

「別にいいよ、僕だって颯太には結構無茶な罰ゲームを言ったこともあるからお互い様だろう。それに、元々振られる覚悟で告白したから、そんなにダメージは受けてないよ」

 一輝は冷静にそう言った。すると、

「そうか……でも、さすがに罰ゲームとはいえ、今回は少しやり過ぎたかもしれない。だから、今度飯でも奢らせてくれ、せめてもの詫びってことでさ」

 颯太はそんなことを言ったのだが、さすがに友人に嘘を付いた上にご飯を奢らせるというのは、一輝の良心が許さなかった。なので、

「本当に気にしてないから大丈夫だよ。ただ、それだと颯太の気が済まないというのなら、一つだけ僕の質問に答えてくれ」

 一輝がそう言うと。

「……まあ、お前がそれで納得するのならそれでいいけどよ、それで、質問っていうのはなんだ」

 颯太は渋々といった様子でそう聞いて来た。なので、

「颯太は去年、教室で立花さんが僕のことを時々見ていたと言っていたけど、その理由は何なのか、何か心当たりはあるのか?」

 一輝は今日の颯太の話の中で一番気になっていたことを質問した。しかし、

「いや、悪いけどその理由が何なのかは俺にはさっぱり見当がつかねえよ。お前の言う通り、教室じゃあ一切、一輝と立花さんの接点はなかったからな。寧ろお前こそ、何か心当たりはないのか?」

 颯太はそう言って、一輝にそう聞き返して来た。なので、

「悪いけど、僕にもその理由はさっぱり分からないよ。それより、答えてくれてありがとう、これでこの話は終わりということにしよう」

 一輝がそう言って、この話題に一区切りをつけると。

「そうか、お前がそれで納得したのなら、俺もこれ以上この話はしないよ……また月曜にな」

「ああ、また今度」

 そう言って、二人は通話を終えて、一輝はスマートフォンをベッドの脇に置いた。そして、

「相変わらず颯太の感は凄いな、まさかこの無謀な告白が成功するのを読めていたなんて」

 一輝は感心したようにそう言った。しかし、

「でも、これで余計に立花さんの気持ちが分からなくなったな。去年、僕のことを時々見ていたなんて」

 一輝はそう言って、再び立花綾香が自分の告白をOKしてくれた理由を考えてみたが、幾ら考えた所でそれらしい理由は一切浮かばなかった。なので、

「……いっそのこと、立花さんに直接聞いてみようかな」

 一輝は再び立花綾香から渡された電話番号が書かれたメモを取り出してそう言った。しかし、

「……いや、彼女との初めての電話の内容がそんなので本当にいいのか? というか、そもそも付き合いたての恋人同士ってどんな会話をすればいいんだ?」

 一輝はそう思った。いつでも電話を掛けていいとは言われたモノの、今まで誰とも付き合った経験がない一輝には、恋人とはどういった会話をすればいいのか全く分からなかった。いや、寧ろそれどころか。

「……正直、恋人どころか女子とも殆ど会話をしたことがないから、今時の高校生がどんな話をしたら喜ぶのか全く分からないんだよな……こんな状況で電話を掛けて、話題が無くて微妙な雰囲気になるのは嫌だし、今電話するのは止めておいた方がいいな」

 一輝はそう言って、彼女にその疑問をぶつけることは諦めた。しかし、

「でも本当、僕は立花さんの彼氏として、これからどう行動すればいいのだろうか? こういう時、颯太に相談出来ればいいのだけど、立花さんにああ言われた以上、立花さんの許可もなく、颯太にこのことを話すわけにはいかないからな。でも、他に相談出来そうな人なんて……あ」

 そこまで言って、一輝の頭の中には一人の女性の姿が思い浮かんだ。なので、

「……居るか分からないけど、明日本屋に行って、山下さんが居たら相談してみよう。彼女は学校も違うだろうから、ぼかして言えば多分大丈夫だろう」

 一輝はそう言って、今日はもう立花綾香のことは考えるのは止めて、学生鞄の中から途中まで読んでいたライトノベルを取り出して、その続きを読み始めた。



 そして、一晩経って次の日の十二時になる少し前、一輝は自転車に乗って家から数十分の所にある某全国チェーン店の本屋へと訪れた。

 そして、一輝は店内に入りライトノベルが置かれているコーナーに訪れると。

「あ、やっぱり今日も居ましたね」

 そこには、一輝に背を向けて、新刊の棚に置かれているライトノベルのタイトルを見ている一人の女性の姿があった。

 しかし、その姿を見た途端、何故か一瞬、一輝の眼の前に居る女性と、昨日体育館裏を後にしている、立花綾香の背後が重なって見えたのだが。

(……いや、幾ら初めて出来た彼女だからって、立花さんのことを意識しすぎだろ)

 一輝は心の内でそう呟くと、ゆっくりとした足取りで彼女の背後へと歩いて行った。そして、

「山下さん」

 そう言って、一輝は彼女に声を掛けた。すると、

「ひゃあっ!?」

 突然背後から声を掛けられて驚いたのか、彼女はそんな風に可愛らしい悲鳴を上げた。そして、彼女は恐る恐るといった様子で背後を振り返ると。

「あっ、こんにちは、佐藤くん」

 そう言って彼女、山下夏月やましたなつきは一輝に向けて挨拶を返してきた。

 長い黒髪をポニーテールに結び、黒縁の眼鏡を掛けていて、キャップデニムの帽子を被りっている彼女は、肌の露出が殆どない長袖長ズボンという地味な格好でライトノベルのタイトルを見比べていた。なので、

「こんにちは、山下さん、何か面白そうな作品はありましたか?」

 一輝はいつも通り、彼女にそう質問をしてみた。すると、

「そうですね……今月に新しく販売された作品は一通り確認してみましたが、その中だとこれが面白そうでした」

 彼女はそう言って、本棚から一冊の小説を手に取った。そして、そのライトノベルのタイトルを見た一輝は、

「ああ、その作品は知っていますよ」

 そう答えた。すると、

「あ、そうなんですか。もしかして、もう読まれましたか?」

 山下夏月はそう聞いて来た。なので、

「ええ、今月の頭に買って、少し前に読み終わりました」

 一輝はそう答えた。すると、

「そうですか、因みに面白かったですか?」

 山下夏月はそんな質問をして来たので。

「ええ、面白かったですよ。このライトノベルはタイトルを見れば分かる通り、フランス人の美少女が時々フランス語でデレてくるという話なのですが、そのヒロインがとても可愛くて、個人的には割とお勧めなのですが、話が滅茶苦茶面白いというよりは、主人公とヒロインの甘酸っぱいやり取りを見るのがメインで、話自体は割と平和な日常モノなので、人によっては少し退屈に感じるかもしれませんので、山下さんの好みに合うかどうかは分かりませんが」

 一輝は普段よりも少し早口でそう言って説明をした。そして、一輝の説明を聞き終えた山下夏月は、

「それなら多分大丈夫です、私はまったりとした日常モノの作品も可愛い女の子が出て来る作品も大好きですから。それに、佐藤くんの評価は結構当てになるので、私はこの作品を買って読んでみることにします!!」

 そのラノベを手に持ったまま、山下夏月は一輝に笑顔を向けてそう言った。

 その後も二人はのんびりとラノベコーナーで話をしながら、一輝は三冊、夏月は二冊のラノベを手に取って、レジへと向かった。

 そして、二人は会計を終えて店の外へ出ると。

「佐藤くんのお陰で今日も面白そうな作品を買うことが出来ました。ありがとうございました」

 山下夏月は一輝にそうお礼を言ったので。

「いえ、僕の方こそ山下さんと一緒に買い物が出来て楽しかったです……あの、山下さん」

「はい、何ですか?」

 そう言って、山下夏月は聞き返して来たので。

「この後、良かったら何処かに昼ご飯を食べに行きませんか?」

 一輝は彼女にそう提案した。すると、

「ええ、いいですよ。もしかして、もう少しライトノベルのお話をしたかったのですか?」

 山下夏月は一輝にそう言った。一輝は時々、本屋を出た後に彼女を昼ご飯に誘うことがあり、その時は大抵、ライトノベルに関する話をもっとしたいと思った時であり、彼女はそう思って一輝にそう質問をしたのだが。

「いえ、違います……実は最近になって一つ悩み事が出来てしまって、山下さんさえ良ければ相談に乗ってもらえないかなと、そう思ったのですが」

 一輝がそこまで言うと。

「……悩み事ですか」

 山下夏月は何を思ったのか、先程までの楽しそうな表情から一変して、何か困ったような、複雑そうな顔をした。なので、

「あ、すみません、突然無茶なお願いをしてしまって、もし気分が乗らないのなら断って貰って大丈夫ですよ!!」

 一輝は少し慌ててそう言った。しかし、

「いえ、そんなことは無いです!! 力になれるかは分かりませんが、私なんかで良かったら佐藤くんの悩み事を聞かせて下さい!!」

 そんな一輝の不安を吹き飛ばすかのように、彼女は力強くそう言った。なので、

「……本当にいいのですか?」

 一輝が改めてそう聞くと。

「はい、佐藤くんには私のことを助けてもらったり、面白いライトノベルのことを色々教えてもらったりと、一年間ずっとお世話になりっぱなしでしたから。なので、私なんかでも佐藤くんの力になれるようなことがあるのなら、是非やらせて下さい!!」

 彼女はそう言った。なので、

「……分かりました、それなら申し訳ありませんが、少しだけ俺の悩み相談に付き合って下さい」

 一輝はそう言って、その場で彼女に頭を下げた。



 その後、二人は自転車を少しの時間漕いで、今日は珍しく山下夏月が希望した場所へと移動した。そして、

「カランカラン」

 そんな鈴の音と共に、二人が店内に入ると。

「いらっしゃいませ、二名様でよろしいですか?」

 恐らくアルバイトである、大学生くらいの綺麗な女性にそう言われたので。

「はい、そうです」

 一輝がそう答えた。すると、

「こちらの席へどうぞ」

 女性店員にそう言われ、二人は大きな窓際にある店の奥の席に着いた。そして、メニューを見て、二人が注文を済ませると。

「佐藤くんは、始めてここに来た時のことを覚えていますか?」

 唐突に、彼女は一輝にそんなことを聞いて来た。なので、

「ええ、勿論、僕と山下さんが初めて会った日に山下さんが連れて来てくれましたよね」

 一輝がそう答えると。

「ええ、そうです、今から丁度一年くらい前に、ナンパされて困っていた私を偶々傍にいた佐藤君が助けてくれて、そのお礼にと、私が佐藤くんをこの喫茶店に連れて来ました」

 彼女はそう言ったので。

「ええ、そうでしたね。でも、山下さんにライトノベルという僕と共通の趣味があってよかったです、恥ずかしながら、僕には親しい女友達が居たことがなかったので、同い年の女の人とどういった話をすればいいのか分かりませんでしたから」

 一輝がそう答えると。

「それは私も同じです、私もあまり歳の近い男性とお話をしたことはありませんでしたから。それに、同じライトノベル好きということもあって、佐藤くんみたいな素敵な方と仲良くなれて、私は良かったと思っていますよ」

 彼女は笑顔でそう言った。なので、

「僕はそんなに大層な人間ではないですよ。でも、そう思ってもらえたのなら嬉しいです」

 一輝はそう返事をした。そして、

「それで、本題の悩み相談なのですが……」

 一輝がそこまで言うと。

「ええ、何ですか?」

 彼女はそう言って、ガラスのグラスに入っている水をゆっくりと飲み始めた。なので、

「……実は、僕は昨日ある女性に告白して、そして彼女が出来たんです」

 一輝は変に誤魔化さず、そう正直に彼女に告げた。すると、

「ごはっつ!?」

 急にそんなことを言われて彼女はとても驚いたのか、水を喉に詰まらせて、思いっきり咳き込んだ。なので、

「山下さん!? 大丈夫ですか!?」

 一輝は驚いてそう言うと。

「ごほっ……ええ、すみません、突然そんなことを言われて少し驚いてしまいました」

 彼女は咳き込みながらも、少しずつ落ち着きを取り戻しながらそう言った。そして、

「でも、おめでとうございます佐藤くん、告白が成功して良かったですね」

 彼女はそう言ったので。

「ええ……ありがとうございます」

 一輝はそう返事をした。すると、

「……あれ、えっと……」

 彼女は少し困惑した様子でそう言った。なので、

「あの、どうかしましたか?」

 一輝がそう聞くと。

「……ええ、折角告白が成功したのでしたら、普通はもっと喜ぶと思うのですが、佐藤くんは何だかそんなに嬉しそうではないので……もしかして、その女性に告白したことを後悔しているのですか?」

 彼女は何故か少し不安そうな表情を浮かべてそう言った。なので、

「あ、いえ、決してそんなことはないです!! 寧ろ彼女は僕なんかじゃ釣り合わないような、とてつもない美少女で、あの人と付き合える男の人は世界一の幸せ者だと僕は思います!!」

 一輝は慌ててそう言った。すると、

「えっ、そんな……さすがにそこまで言われると、照れてしまいますよ」

 何故か彼女は少し頬を赤くしてそう言った。なので、

「えっと……何で山下さんが照れているのですか?」

 一輝が少し困惑した様子でそう言うと。

「あっ、すみません、何でもないです!!」

 彼女は慌ててそう言った。そして、

「こほん、ただ、もしその彼女さんがそんなに素敵な方なのなら、佐藤くんは一体どんな悩みがあるのですか?」

 彼女は一輝に対してそう質問をして来た。なので、

「僕の悩みは大きく分けて二つあります、一つ目は……」

 一輝がそこまで言うと。

「お待たせしました、パスタ定食です」

 女性店員がそう言って、二人が注文していた昼ご飯を持ってきたので。

「あ、こっちです」

 山下夏月はそう言ったので、彼女の眼の前にパスタ定食が置かれ、その後直ぐに、一輝が頼んでいたハンバーグ定食がやって来た。そして、

「えっと……取りあえず、折角ご飯が来たので、食べながらお話をしませんか? 折角の美味しい食事が冷めてしまったら勿体ないので」

 彼女はそう言ったので。

「分かりました、そうしましょう」

 そう言って、二人は昼ご飯を食べ始めた。そして、二人は暫くの間、静かに食事を続けると。

「それで佐藤くん、そろそろ悩みの内容を聞かせてもらってもいいですか?」

 パスタを4分の1くらい食べ終えたところで、山下夏月は一輝に向けてそう言った。なので、

「ああ、そうですね」

 一輝はそう言うと、フォークを机の上に置いて。

「僕の一つ目の悩み、それは彼女がどうして僕の告白をOKしてくれたのか、分からないことです」

 一輝はそう言った。すると、

「……成程、そういうことですか」

 彼女は何故か納得した様子でそう言った。そして、

「因みにですが、佐藤くんは何故その彼女さんが告白をOKしたのか、心当たりはあるのですか?」

 彼女はそんなことを聞いて来た。なので、

「いえ、それが全くないのです、僕は去年、彼女と同じクラスだったのですが、殆どまともに話をしたこともなかったので……それに、彼女はとてもモテていて、僕以外の男子から何度も告白されていたのにも関わらず、それらを全て断っていたので、どうして僕の告白だけはOKしてくれたのか、正直、自分でも全く心当たりがなくて、今は嬉しいというよりも困惑した気分の方が強いんです」

 一輝は正直にそう答えた。そして、

「だから、同じ女性の山下さんなら、その女性がどう思って僕の告白に答えてくれたのか、何か分かるかもしれないと思ったのですが……この話を聞いて、山下さんはどう思いましたか?」

 一輝は彼女にそう質問をした。すると、

「……そうですね、正直、その話を聞いただけだと、どうしてその女性が佐藤くんの告白をOKしたのかは、正直よく分かりませんが……もしかたら、佐藤くんが過去にその女の人を助けて、そのことをずっと恩に感じていたとか、そういった可能性はありませんか? 佐藤くんはとても優しいので」

 彼女はそんなことを言った。しかし、

「いえ、さすがにそれは無いと思いますが……あんなに綺麗な人を助けたら、どんなに些細な出来事でも間違いなく記憶に残ると思うので」

 一輝はそう言って、彼女の言葉を否定した。しかし、

「どうでしょう、普段は目立つ彼女さんでも、オフの時は地味で目立たない格好をしていて、佐藤くんが気付かなかっただけだとか、そういった可能性もあると私は思いますよ」

 彼女はそう言って、一輝の言葉を否定した。すると、

「……まあ確かに、その可能性もありますね、僕は誰かが髪を切ったりしても、誰かに言われないと気付かないくらいには鈍感なので」

 一輝は彼女の言葉を否定しなかった。すると、

「そんなに気になるのなら、彼女さんに直接聞いてみたらいいのではないですか?」

 彼女はそう言ったので。

「そうですね、そうしたい気持ちもあるのですが……」

「あるのですが、何ですか?」

「……これは僕の二つ目の悩みなのですが、付き合いたてのカップルってどんな会話をすればいいのでしょうか?」

「……え?」

 そう言われて、彼女は言葉を詰まらせた。すると、

「非常に恥ずかしい話なのですが、僕は今まで誰とも付き合ったことがないので、彼女とどんな話をすればいいのか全く分からないのです。なので、どういった話をすればいいのか、山下さんなりのアドバイスをもらえませんか?」

 一輝はそんなことを言った。しかし、

「そう言われましても……私も今まで男の人とお付き合いをしたことはないので、私には分かりません」

 彼女はそう言った。すると、

「そうですか……でもそうなると、彼女に電話するのはもう少し話す内容を考えてからになりそうですね」

 一輝はポツリとそんなことを呟いた。すると、

「あ!! でも、そうですね……取りあえず、趣味とか好きな食べ物とか、デートをするのなら何処に行きたいのかとか、そういった無難な内容で問題ないと私は思いますよ!!」

 彼女は慌てた様子で少し早口にそう言った。すると、その話を聞き終えた一輝は、

「えっと、そんな内容で本当に大丈夫なんですかね?」

 少し不安そうにそう言った。なので、

「ええ、きっと大丈夫だと私は思いますよ、付き合いたてで、お二人はまだお互いのことをそんなに知らないでしょうから、まずは少しずつお互いのことを知って行きましょう!!」

 彼女は一輝を元気づける様に力強くそう言った。そして、その言葉を聞き終えた一輝は、

「そうですね、ありがとうございます、山下さん、お陰で彼女に電話をする勇気がもらえました。家に帰ったら早速、彼女に電話をしてみようと思います」

 一輝はそう言ったので。

「それなら良かったです、頑張って下さいね」

 彼女は笑顔を浮かべてそう言った。



 その後、一応一輝の悩みは解決したということで、その後、二人は雑談をしながら昼ご飯を食べ終えて、各々帰路へ付いた。そして、

「ただいま」

 山下夏月はそう言って、靴を脱いで家の中へ入ると、手洗いを済ませてから階段を上げり、二階にある自分の部屋へ入った。

 そして、部屋に入った彼女は、帽子を脱いでそれを机の上に置くと、ポニーテールを結んでいたゴムを外して、綺麗な長い黒髪を部屋の中でなびかせると。

 最後には、彼女が自分をあえてダサく見せるために掛けていた、黒縁の眼鏡を外して。

「もしかして、山下夏月の正体が私だと気付いたから、佐藤くんは私に告白したのではないのかと思っていたのですが、そういうわけではないみたいですね」

 学園一の美少女と言われ、今では佐藤一輝の彼女である立花綾香は自分の部屋でポツリとそう呟いた。そして、

「でもどうして、佐藤くんは私に告白したのでしょうか?」

 立花綾香はそう言った。一年間それなりに話をしてきて、共通の趣味もある山下夏月の姿でいる時に告白してくるのなら、綾香は納得できたし、特に難しいことを考える必要もなく、彼の告白にOKして自分の正体を明かすことも出来たのだが。

 何故か彼はクラスが同じだったことくらいしか接点が無かった立花綾香に告白をしてきて、返事をどうするか悩んだものの、自分が彼のことを好きになっていたのは間違いなかったので、納得のいかない部分はありつつも、好きな人を振る訳にもいかず。

 その結果、今の様に少し複雑な状態になっていたのだった。そして、

「というか、私の恋人の恋愛相談に私自身が答えるなんて、私は一体何をしているのでしょうか……それに佐藤くんこそ、私のことを好きだっていうのなら、これくらいの変装、見破ってくれてもいいのに」

 綾香はそんなに風に自分の不安を口にした。そして、

「……電話、早く掛かって来ないかな」

 綾香がポツリとそう呟くと。

「プルルルルルル……」

 そんな綾香の気持ちを読んだかのように、彼女のポケットの中に入っていたスマートフォンが鳴り出した。

 なので、綾香は少し慌てながらもポケットからスマホを取り出すと、そこには知らない番号が表示されていた。

 そういった場合、慎重な綾香は一度電話に出ず、その後、番号をネットで調べて大丈夫そうなら改めて自分から掛け直すのだが。

「……もしもし」

 タイミング的に、この相手は佐藤一輝だろうと綾香は確信していたので、彼女は静かに電話に出た。すると、

「……あ、もしもし、その……立花綾香さんの携帯ですか?」

 先程、山下夏月として会っていた時とは違い、少し緊張した様子で電話の主は話しかけて来た。

 そして、そんな彼の分かりやすい変化を感じて、綾香は内心、ちょっとだけ面白いなと思いつつも、その思いは口には出さず。

「ええ、そうですが、もしかして、佐藤一輝くんですか?」

 分かっていながらも、一応確認のためにそう質問してみると。

「え、あ、はい、そうです!! こんな中途半端な時間に電話をしてすみません」

 一輝はそんなことを言い出した。なので、綾香は少し考えてから。

「別に構いませんよ、いつでも掛けて大丈夫ですと言ったのは私ですから……ただ、昨日電話をしてくれなかったのは少し悲しかったです。もしかして、私のことはそんなに好きではないのですか?」

 そう言って、自分が一輝に抱いていた不安を少し彼にぶつけてみた。すると、

「あ、いえ、そんなことはないです!! あまり話したことはありませんが、それでも僕は立花さんのことが大好きです!!」

 一輝は力強くそう言った。すると、

「はうっ!!」

 その言葉を聞いた途端、綾香はそんな少し変わった悲鳴を上げた。なので、

「えっ、大丈夫ですか!! 立花さん」

 そんな声を聴いた一輝は少し驚いた様子で綾香に向けて語り掛けて来た。なので、

「ええ、大丈夫です……それと、佐藤くん」

「え、あ、はい、何ですか?」

「その……私も佐藤くんのこと、大好きですよ」

 先程のお返しとばかりに綾香がそう言うと。

「ぐはっ、ごほっ!!」

 その声を聴いた途端、一輝は思い切り咽てしまった。なので、

「え、あの、佐藤くん、大丈夫ですか?」

 綾香が少し心配そうにそう聞くと。

「……ええ、大丈夫です。ただ、立花さん」

「何ですか?」

「えっと、その、立花さんにいきなり好きと言われるのは、幾ら何でも僕の心臓に悪すぎるので、出来れば控えてもらえませんか?」

 一輝はそんなことを言った。しかし、その言葉を聞いた途端、綾香の中に眠る何かが強く刺激されてしまい。

「ええ、いいじゃないですか、私は佐藤くんのことが大好きなので、いつでも佐藤くんに大好きって、そう伝えたいです!!」

 綾香が少し力強くそう言うと。

「……ぼふっ」

 電話先からそんな風に人が倒れた音が聞こえた。なので、

「えっ? あの、佐藤くん、大丈夫ですか?」

 綾香が少し困惑した様子でそう聞くと。

「あっ、はい、大丈夫です。すみません、あまりの破壊力の高さに意識が一瞬飛んでいました」

 一輝はそんなことを言った。なので、

「ふふ、佐藤くんは冗談が上手いですね」

 綾香はそう言ったが。

「いえ、本気で言っているのですが。正直、今後もこんな風に不意打ちで言われると、僕の命が幾つあっても足りないです」

 一輝は真面目な口調でそう言葉を返した。すると、

「そうですか、ただ残念ですが、私は思ったことは素直に口に出さないと気が済まないタイプの人間なんです。だから、佐藤くんは頑張って私に好きと言われることに慣れて下さいね」

 綾香はそう言った。そして、再びそんなことを言われて、一輝はまたダメージを受けそうになるもの、何とか堪えて。

「……分かりました、立花さんがそう言うのでしたら、慣れるよう頑張ります」

「ええ、頑張って下さい」

 一輝がそう言うと、綾香は満足した表情を浮かべながらそう言葉を返した。そして、

「……えっと、立花さん、俺から一つ質問があるのですが、聞いてもいいですか?」

 一輝がそう言うと。

「ええ、何ですか?」

 綾香はそう答えた。すると、一輝は一呼吸終えた後。

「立花さんはどうして、僕の告白をOKしてくれたのですか?」

 一輝はそう言って、一番気になっている疑問を口にした。そして、その言葉を聞いた綾香は、

「知りたいですか?」

 短くそう聞いた。すると、

「はい、自分で言うのも何ですが、僕は別にイケメンではないですし、何か特別な才能があるわけでもない普通の人間です。それに、立花さんともこれといった接点は今まで無かったです。なのに、どうして僕なんかを恋人として認めてくれたのか、正直分からないんです」

 一輝はそう言った。そして、彼の言葉を全て聞き終えた彼女は、

「そうですね、確かに佐藤くんの言う通り、今そんな疑問を持つのは無理もないと思います。ですが、私が佐藤くんのことを好きなのは何の裏もない本心ですし、それにはちゃんと、佐藤くんも納得できるだけの理由もあります。ですが……」

 そこまで言うと、綾香は一度言葉を切り。

「その理由に関しては、出来れば私が伝えるのではなく、佐藤くん自身で気付いて欲しいです。気付いてさえしまえば、そんなに難しい話ではないと私は思うので。ただ、これはあくまで私のわがままで、佐藤くんが今直ぐ教えて欲しいと言うのなら、私はこの場でその理由を全てお話ししますが、どうしますか?」

 一輝に対してそう問いかけた。そして、その言葉を聞いた一輝は少し考えてから。

「……いえ、今は教えてくれなくて大丈夫です。分からないからって何も考えず、直ぐに答えを聞くのはあまり良くないと思いますから、それに」

「それに、何ですか?」

 綾香がそう聞くと。

「彼女のわがままを叶えるのも彼氏の勤めだと、僕はそう思うので。なので、立花さんがそう望むのでしたら、僕なりに頑張ってその答えを探したいと思います」

 一輝はそう言った。そして、そんな一輝の答えを聞いた綾香は、

「分かりました、佐藤くんがそう言うのでしたら、期待して待っています」

 優しい口調でそう言葉を返した。

 その後、二人は趣味や好きな食べ物など、事前に彼女がアドバイスしていた内容の話をしていた。そして、

「えっと、それじゃあそろそろ電話を切りますね」

 一通り話し終えた後、一輝がそう言ったので。

「ええ、分かりました」

 綾香もそう言葉を返した。すると、

「あっ、そうだ立花さん、最後にもう一つだけ質問をしてもいいですか?」

 一輝はそんなことを聞いてきたので。

「いいですよ、何ですか?」

 綾香がそう返事をすると。

「その、迷惑でなければ明日も電話を掛けていいですか? 恋人だからというのもありますが、それ以上に立花さんとは会話が弾みますし、話をしていてとても楽しかったので」

 一輝はそんなことを聞いてきた。なので、

「ええ、勿論いいですよ、私も佐藤くんと話をしていてとても楽しかったですし、それに今以上に私は佐藤くんのことを知りたいですから」

 綾香はそう言った。なので、

「えっと、その、分かりました。僕ももっと、立花さんのことを知りたいので、これからも電話をさせてもらいます……それでは、また明日」

 一輝がそう言うと。

「ええ、また明日」

 綾香がそう返事をして、一輝は静かに電話を切った。そして、綾香は暫くの間、その場に立っていたが、急に眼の前に合った、自分のベッドにダイブすると。

「うーー!!」

 枕に顔を押し付けたまま、そんな声を上げた。そして、

「もう、佐藤くん可愛すぎですよ!!」

 枕に顔を押し付けたまま綾香はそう言った。

 電話で一輝と話をした時、最初、一輝はがかなり緊張した様子で話しかけて来たので、綾香は山下夏月として接している時とのギャップに少し笑いそうになってしまったのだが。

 そもそも、一輝は夏月と綾香が同一人物だとは思ってもいないので、それも仕方がないことだと思ったし。

 緊張しながらも頑張って自分に話しかけてくれる一輝に対して、段々と愛おしいと思える感情が芽生えて来たのだった。そして、

「明日も電話してくれるのですね、ふふっ、今から楽しみです」

 綾香はそう言って、枕に顔を埋めたまま微笑んだ。

 こうして、少し複雑な事情を抱えつつも、初々しい一組のカップルが新しく生まれたのだった。

追記 思ったよりPVの伸びかよくて、いい評価もしてくれる方もいたので、続編を書こうと思いま す。書き溜めは無いので直ぐにとはいきませんが、良かったらのんびり待っていて下さい。

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