第一話②
俺たちのでこからゆっくり手を離した洸太は、そのまま俺の目をじっと見つめた。
「なんかないの?」
「何が?」
「手がかりとか」
そうだよ、と呟いて一樹がまた俺に詰め寄る。
「そこまで勿体ぶられてさ、気になるじゃん」
そんなこと言われても……。
あの時は、絶対顔を見られたくねーって気持ちでいっぱいで、正直相手が人間かどうかもわからなかったし。いつの間にかって感じだったから、人間じゃなかったら逆に怖いんだけど。
落ち着いた頃にやっと腕の感触がわかったくらいで……あ。そういえば。
「金木犀」
「は?」
「金木犀の匂いがした」
言い終えるとすぐに、一樹がドンと机を叩きながらデカい声を出した。
「どこの少女漫画だよ!」
「俺は少女じゃねーわ!」
「はいはい、もういいから」
また洸太の一声で試合開始のゴングは鳴らず…。
すぐムキになっちまう。一樹と俺は、こういうところがよく似ている。
「そんなことより隼。またお客さんが来てるよ」
そう言った洸太の視線の先には、うわ。
最近俺の悩みの一つである人物がニコニコしながら立っていやがる。
数日に一回は2-Aにやってきて、ああやってドアの前からじっと俺を見ている。特に何をするわけでもなく、ある程度無視してたら去っていくんだが…いい加減そろそろキモいな。
「ふふん♪いいじゃん隼。フラれてもモテモテでさ〜」
「お前それ以上言ったらマジでぶっ殺すからな」
「ひょ〜〜い」
口を尖らせて茶化す一樹を背に、俺は制服の袖を肘上まで捲り上げた。
今日こそ…今日こそ言ってやる。
"ウザい"という感情を全面に醸し出しながら、俺はその悩みの種へと足を運んだ。
すごい剣幕をしていたんだろう。教室に入ってきた奴らがいつもよりも俺から距離をとって避けていくのがわかった。
それなのに。なのに…!!そいつはニコニコといつもの表情を崩さない。なんでだ!!
俺は、スゥ〜と音が出るほど息を吸ってから、ドアにもたれるようにして言い放った。
「あのさ、お前なんなわけ。俺に何の用?何もせずにそこに立ってんの毎回キモいんだけど。正直、ウザい」
ふう。
軽くため息をついてからその場から去ろうとすると、弾んだ明るい声が背後から聞こえてきた。
「敷島青。1-B 敷島青です」
「は?」
突然の自己紹介に思わず振り返ってしまった。自然と目が合って、嫌でもこいつをまじまじと見ることに。
いつも遠目にうぜーな、くらいにしか思ってなかったけどこいつ…。
女子が男装してますって言われてもおかしくないくらいのルックス。目デカ…。背も俺より低いし、声も高いし、女子か…?
と、思わず解説してしまうくらいの容姿だった。
「あの…何か」
「あ?それを聞きてーのはこっちだ!」
あぶねー。思わずこいつのペースに巻き込まれるところだった。俺が焦っているのに気づいたのかなんなのか、途端にもっと解けた表情になった。
「やっと俺のこと見てくれましたね」
「キモ」
容姿が気になったのも束の間、こいつの得体の知れない好意に背筋がゾッとした。
「俺、ずっと先輩のこと見てて」
ああもうめんどくせー。なんなんだよ。
「知ってる」
「綺麗だなあって思って」
「ああそういうのいいから」
「俺、実は先…」
キーンコーンカーンコーン…
あっ!!昼休み!!
「あぁあぁああ!!くそ!!お前のせいで昼休み終わっちまったじゃねーか!ふざけんじゃねえ!!もう二度と俺の前に現れるな!!いいか!!」
最後は怒りの感情を思い切りぶつけ、あいつらの元へ戻る形でピリオド。くっそ〜〜弁当〜!!
結構怒鳴ったと思ったんだけど……
後で二人から、満面の笑みであいつが教室に戻っていったことを聞いた。
何。ほんとにキモいんだけど……。




