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83、デネブ湖 〜学校のことを知りたがる二人

「ヴァン、ぷぅちゃんのごはん、忘れてない?」


 フロリスちゃんは、ぷくーっと頬を膨らませている。待ちくたびれたのだろうか。すっかり元気な子供だね。よかった。


 一緒にいたはずのアラン様は、少女から少し離れた場所で、冒険者風の人達と何か話している。五歳の女の子から離れるなんて、ちょっと危機感が足りないんじゃないかな。


「フロリス様、大丈夫、忘れていませんよ。ただ、この場所は荒らされてしまいましたね」


「うん、そうなの。ぷぅちゃんが悲しいって言ってるの」


 少女と話していると、冒険者風の人達が僕に気づいたみたいだ。しかし、すぐに目を逸らされた。うーん、気になる。



「アラン! フロリスから離れて、何をしているの!?」


 ここに戻る途中で、レストランの支配人に声をかけられた神官様は、この場所には、僕より少し遅れてたどり着いた。


 神官様に怒鳴られて、アラン様は慌てて、こちらへ戻ってきた。だよね、彼には警戒心がないのかな? 屋敷では、毒殺されかけたのにな。


「フランさん、すみません。冒険者の人に声をかけられて、俺の知らないことをいろいろ聞いていたんですよ」


「アラン、危機感が足りないわ! ここは屋敷の庭じゃないのよ? まぁ、ある意味、屋敷よりは安全かもしれないけど」


 確かに、そうかもしれない。屋敷が異常なんだよね。


「もう精霊獣もいないし、ここは、魔導士と精霊使い限定のキャンプ場だから、大丈夫かと思って」


「魔導士にも貴族はいるわよ」


 アラン様は、少し不満げだ。魔導士と精霊使いに限定されているのか。彼は、自分の家のような争いは、武術系の貴族だけのことだと考えているのかもしれない。



「ヴァン、冒険者カードを出しなさい」


「フラン様、突然どうしたんですか? 冒険者のミッションは受けたことないから、何も……」


「この騒動を全体緊急ミッション扱いにするそうよ」


「えっ? ここはギルドじゃないですよね? 魔導士と精霊使いのキャンプ場って……」


「何か勘違いしてない? 宿泊施設だけのキャンプ場じゃないわ。精霊学校の学生が来ているように、ここは、合宿所よ。冒険者ギルドが運営しているわ。訓練をギルドポイントに換算してくれるのよ」


「へぇ、そんな施設があるんですね」


「だから、さっさと出しなさい」


 あはは、いつもの神官様だ。横暴だよね。もっと言い方があると思うんだけど……これが彼女の素なのかな。


 僕は、冒険者カードを神官様に渡した。彼女は、それを持って、レストランの支配人の方へと行ってしまった。



「フランさんって、ヴァンにもキツイ言い方をするんだな。いつの間にか、あの雰囲気がいつもの彼女になってしまったよ。俺が小さかった頃は、とても上品で優しかったのに」


 アラン様は、苦笑いしている。


 そうか、その頃はファシルド家に預けられていたからかな。いつ、旦那様に嫁ぐ話を聞いたのかはわからない。そして、ジョブ神官だとわかった途端、アウスレーゼ家に連れ戻されたんだったよね。


 それに、さっき聞いた話だけど、婚約者をセーラ様に盗られたって言っていた。フロリスちゃんのお母さんの件もある。


 うん、あんな風になりそうなキッカケが多すぎて、何が原因かはわからない。でもきっと、変わるしかなかったんだろうな。



「ヴァン、本当にフランさんの婚約者なのか?」


「そうみたいですね」


「そうか、役割を理解しているみたいだな。ヴァンは俺と同い年なのに、随分と大人だ。あっ、俺は明後日までは年下か」


 役割? あー、婚約者のふり、だと言ってしまったようなものか。失言だったかな。


「半年ほど、僕の方が成人の儀が早かったですね。そっか、同級生かぁ」


「うん? 同級生? あー、学校での数え方だな」


 僕は、やわらかく微笑んだ。そういえば、アラン様は、学校には通っていないようだ。まぁ、魔導学校も、有力貴族の子は少ないからね。



「ヴァン、学校に通っているの?」


 フロリスちゃんは、話題に首を突っ込んできた。かまってほしいのかな? いや、対等に話したいのか。少女は、すまし顔だ。


「はい、スピカの魔導学校に通っています。と言っても、僕は少年期生なので、あと一年半で卒業試験に合格しないと、退学になっちゃうんですけどね」


「少年期生ってなぁに?」


「はい、魔導学校は、成人の儀より前から入学する学生を少年期生って呼ぶんです。成人の儀は十三歳ですが、少年期生は十五歳になるまでに、卒業のための試験に合格しなければならないんですよ」


「ふぅん、大変ね、ヴァン」


「はい、僕は戦闘系の実技の成績が悪くて、大変です」


「ふふっ、ヴァンは弱いのね。フランちゃんが言ってた」


「そうなんですよねー。他の人が強すぎると思うんですけど」


「あははは、そうかも」


 フロリスちゃんは、ケラケラと楽しそうに笑っている。頭がいいな。まだ五歳なのに、キチンと話が理解できているようだ。


「ヴァン、成人の儀の後に入学する学生もいるのか?」


「はい、そちらの方が多いです。少年期生は一応年齢ごとのクラスはありますが、授業は年齢関係なく必要なものを選んで学びます。成人の儀の後に入学する人達は、学年制です」


「学年制?」


「はい、年齢関係なく入学したタイミングで、同じ学年になります。毎年、期末試験を受けて合格すれば進級、不合格なら留年です。留年2回で退学になります」


「厳しいな」


「そうですね。少年期生が、緩すぎるのかもしれませんけどね。週イチ程度しか通わないクラスメイトもいますし」


「学年制の方は、毎日か?」


「はい、毎日、2時間ほどの授業があります。長期休みもありますけど、試験勉強や実技訓練に大変みたいですよ」


「通う期間は?」


「学年制の場合は、三年です。三年目は自由出席になるので、実質は二年かな。僕の場合は、十歳から通っているし、学年制の一年生の範囲までしか学ばないので、ゆったりなんですよ」


「ということは、少年期生を終えて、学年制へ通う人もいるのか?」


「はい、上級以上の魔導士を目指す子は、学年制の二年生に編入しています。その場合は、成人になっていなくても編入できるので、未成年で、学年制の最終卒業試験に合格する人もいます」


「へぇ、優秀だな」


 アラン様は、なぜか頷きながら真剣に耳を傾けている。もしかして、剣術系の学校に通うつもりなのかな?


「スピカの学校は、他の武術系の学校も同じ仕組みになっています」


「そうか、ということは、ここで合宿している精霊学校の学生は、学年制の奴らだな」


「はい、そうだと思います。魔導学校では、ここの話は聞いたことがないから、少年期生ではありません」


「あはは、見た目でわかるぜ。みんな、大人ばかりだからな」


 確かに、おっしゃる通り。



「ヴァン、アラン兄様ばかり話しててズルいの。うーんと、学校は、何歳から行くの?」


 フロリスちゃんが、少し拗ねた顔で、また首を突っ込んできた。ふふっ、対等に扱ってほしいお年頃なのかな。


「学年制は、基本的に成人の儀が終わっていれば、何歳からでも入学できますよ」


「子供は?」


「はい、少年期生は、特に入学年齢の制限はないと思います。ただ、最低限の読み書き能力は必要です」


「読み書き……私は? 読み書きできてる?」


「商系文字は、すべて読み書きできますか?」


「うん、それくらいならできるよ。じゃないと買い物できないって、フランちゃんが言ってたもん。でも、蘭系文字や部族文字はわからない」


「それは、学校で習いますから、入学時には知らなくて問題ないですよ。フロリス様は、すごいですね」


 普通、商系文字を習得するのは、十歳程度だと言われている。僕も、魔導学校に入学するために、必死に勉強したんだ。この少女は、本当に頭がいいんだな。


 もしかしたら、勉強させることで、いろいろなことから気を逸らそうと、神官様が考えたのかもしれない。




「ヴァン、はい、これ」


 神官様が戻ってきて、僕に冒険者カードを手渡した。あれ? カードの色が変わっている。


「フラン様、僕のカードを間違えていませんか? 色が変わっているんですけど」


「当たり前でしょ。見てみなさい、もうGランクじゃないでしょ。詳細情報は、今の貴方には見られないけどね」


 詳細情報? ギルドで測った能力値のことかな?




『冒険者ギルドカード』


 名前:ヴァン(13歳)

 ジョブ:ソムリエ

 登録スキル:薬師、精霊師

 冒険者職種:薬師

 冒険者ランク:Eランク

 冒険者ギルドポイント:1,300

 特記事項:なし



 あれ? 登録スキルが増えてる。



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