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70、ボックス山脈 〜りんごのエリクサー

「チビ、遅かったな。待ちくたびれたぞ」


 ロックドラゴンの洞穴前では、チビドラゴンが待っていたみたいだ。トカゲ達は、チビドラゴンの姿が見えると、その場で立ち止まった。


「おまえらは、帰っていいぞ」


 チビドラゴンが、そう言うと、トカゲ達は一斉に駆け出した。逃げるように山を下っていく。


 へぇ、種族が違うのに、完璧に意思疎通ができているんだな。でも、言葉としての理解じゃないようだ。トカゲ達は、チビドラゴンが吼えたことで、怖くて逃げたみたいなんだよね。双方の言葉がわかると面白い。


「チビ、早く来いよ。母さんも嵐になるって言ってるぞ」


「うん、ありがとう」


 マルクは、チビドラゴンの言葉がわからないのに、洞穴へと歩き出した。ほんとに勘がいいよな。急かされたとわかるんだ。




「あっ、薬屋と魔法使いが来た! 母さ〜ん」


 チビドラゴンの妹は、僕達を見つけると奥へと走り去った。覚えてくれていたのか、びっくりだな。


「マルク、チビドラゴンの妹ドラゴンが、僕達のことを覚えていたみたい」


「人間は珍しいんじゃない? 洞穴からずっとこっちを見ていたし」


「そうなの? マルク、見えるんだ」


「いや、目で見えるわけじゃないよ。自分に視線が向いていると感知できるんだ。危機感知の技能だよ」


「へぇ、便利だな」


「危機感知の技能が得られるスキルは多いから、ヴァンもそのうち、手に入れられるんじゃない? ハンターも、どの種類でも中級までには手に入ると思うよ」


「そっか、期待しておくよ」


 僕がそう言うと、マルクはニッと笑った。だけど、突然、どこかを見て顔が固まった。



 マルクの視線の先をたどると、人の言葉を理解するトカゲがいた。手のひらに乗りそうな小さなトカゲだ。天井にへばりついているのではない。地面で淡く光っている。透明感のあるトカゲはいないみたいだけど。


 あれ? マルクは、何か言われているのだろうか。なんだか、暗い表情をしている。見えないけど、近くに、あの特殊な個体がいるのかな。



『精霊師のスキルを得たようだな』


 えっ? 頭の中に突然、あの声が聞こえた。たぶん、この山の竜神様だよね?


『神殿のある聖域にも足を踏み入れた。それが、どのようなことを意味するか、正しく理解しているか?』


 えっと、えっ?


『ふむ、その者と同じだな。残念だ』


 えーっと、あの?


 僕が混乱している間に、声は聞こえなくなった。マルクが暗い表情をしていたのは、同じことを問われたのか。


 やはり、本物の神殿なんだ。聖域に入ったことをとがめられたのだろうか。でも、チビドラゴンの好意からの行動だ。まさか、チビドラゴンまで叱られていないよね?




「チビ! 何を立ち止まってるんだ? 魔法使いのチビも元気がないぞ? 嵐が怖いのか? こっちに来ればいいぞ」


 奥へ入っていたチビドラゴンから、声がかかった。


「ありがとう、すぐに行くよ」


 僕がチビドラゴンにそう返事をしていると、マルクがハッとした顔をした。


「ヴァン、ごめん。ちょっと不思議な声が聞こえてきて……今の鳴き声は、奥へ来いってことだよな」


「うん、マルクの元気がないって心配しているみたいだよ」


 マルクは、力なく笑った。あー、これは、かなりヤバイ。キツイことを言われたのか。


 でも、下手に僕が聞くより、そっとしておく方がいいよな。何を言われたのか、だいたい想像できる。竜神様は、容赦ないもんな。マルクの苦手なもののことだよね、きっと。



「チビ、早く来いよ〜」


 また、催促された。


「マルク、チビドラゴンさんが、なんだかうずうずしてるよ。早く来いって」


「まさか、行ったら口を開けた何かがいる、なんてことはないよな?」


 あちゃ、マルクはダメな顔だ。奥には、水飲み場の泉がある。こないだ、気持ち悪いものが出て来たのを思い出したのかもしれない。


「大丈夫だよ、この辺は、風が吹き込むからじゃない?」


「それならいいけど」


 全然良さそうな顔じゃないけど、マルクは奥へと進んだ。おそらく、闇の精霊の加護を発動中なんだろうな。アンデッドなんて、こんな昼間に出てこないと思うけど。




 僕達が近寄ると、チビドラゴンは、ぴょんと跳躍した。


 ドカドカ!


 えっ? な、何? 何か降ってきた!


 僕は、まさかのドッキリに、声を失った。マルクも、ヒッと小さな悲鳴をあげている。


「あははは! チビも、魔法使いのチビも、変な顔だぞ」


「突然、何かが降ってきたから、めちゃくちゃ驚いたよ。もしかしてドッキリ?」


「なはははは! でも、当たらなかったね。もう食べていい?」


「いいぞ。あっ、チビ達に先に選ばせてあげるんだぞ」


 チビドラゴンだけじゃなく、妹ドラゴンも楽しそうに笑っている。少し離れた場所にいるお母さんドラゴンは、そんな二体の様子を優しい目で見ているようだ。


 妹ドラゴンが、僕達をちょんちょんと突いた。早くしろってことだね。


「マルク、僕達に先に選べって言ってるよ」


「……死ぬかと思った。何の気配もなかったのに」


 ははは、マルクはアンデッドを警戒していたからだね。こんなドッキリを仕掛ける知恵があるなんて、僕も予想しなかった。


「肉塊や果物には、気配はないもんな」


「あぁ、確かに。しかし、悪戯っ子だなー。びっくりした」


 チビドラゴンと妹ドラゴンは、楽しくて仕方ないようだ。僕達が呆然としているからか、まだゲラゲラと笑っている。


「マルク、何にする?」


「たぶん果物は、俺達のために採ってきたんじゃないか? 野生のりんごかな?」


「だよね。じゃあ、それにしようか。すごい量だけど」


 僕達は、小さなりんごを手に取った。熟していて甘い香りがする。かじると、中に蜜が詰まっていた。めちゃくちゃ美味しい!


 マルクも、初めて食べたみたいだ。かじって、ポカン顔をしている。あはは、驚きすぎじゃない?


 僕達がりんごをかじっていると、チビドラゴンは、うんうんと頷いている。やはり、これをわざわざ用意してくれていたのか。でも、こんなに大量に?


「食べていい?」


 妹ドラゴンは、よだれを垂らしながら、待て、をしている。チビドラゴンの言うことをキチンと守るんだな。


「いいぞ」


 そう言われた瞬間、妹ドラゴンは肉塊に頭を突っ込んでいる。ひゃー、なんだか、ちょっと怖い。緑色のトカゲにしか見えないけど、ドラゴンなんだと実感した。

 


「チビドラゴンさん、この果物、めちゃくちゃ美味しいよ」


「だろ? ぼくは、人間が喜ぶのを知っていたんだ」


「ふふ、ありがとう。マルクも驚いているよ。これは、野生のりんごだよね? こんなに蜜が詰まっていて甘いりんごは初めて食べたよ」


 僕がそう言うと、チビドラゴンは、満足そうにふんぞり返っている。いつものポーズだね。


「わざわざ、採ってきてくれたの?」


「そうだぞ。あ、でも、採りに行ったのは、ぼくじゃないぞ。そんな小さな物は上手くつかめないからな」


 誰が採りに行ったんだろう?


「ん? そう、だよね。チビドラゴンさんも食べる?」


 そう尋ねると、チビドラゴンは首を横に振った。


「ぼくは、すっぱい果物は食べられないんだ。妹も、母さんも食べられないから、チビが全部食べていいぞ」


「こんなにたくさん?」


「なんでも袋を持ってるだろ? 食べられない分は持って帰ればいいぞ」


「ありがとう。あっ……これをエリクサーにできるかも」


 マルクの方をチラッと見ると、彼は外を見た。


「ヴァン、これだけマナがあれば余裕だろ」


 外はすごい嵐になっている。乱れたマナが、洞穴の中に吹き込んで渦を巻いている。


「だよね、やってみる」



 僕は、小さなりんごを集め、改良しようとイメージしながら、手をかざした。


 すると、僕の手から放たれた魔力によって、小さなりんごは、さらに小さな熟す前の青い実に変わった。僕の手には、りんごのエネルギーが集まってきた。りんごがエネルギーを返せと言っているように感じる。


 僕は、ヒート魔法を使って、青いりんごを乾燥させ、次に風魔法を使い、乱れたマナの渦にぶつけるように巻き上げた。そして、手に集まっていたエネルギーをそこに合流させるように放った。


 キラキラとした風が、空中の乱れたマナをどんどん吸収している。うん、完璧だ。


 ポト、ポトポトポト



「チビ、果物で遊んでいるのか? 食べ物で遊んじゃいけないんだぞ」


 あはは、チビドラゴンに叱られた。


「チビドラゴンさん、たくさんのりんごは食べ切れないから、薬に変えたんだ。怪我も魔力もすべて回復するエリクサーだよ」


 僕は、地面に落ちたりんごのエリクサーを、農家の技能を使って一気に拾い集めた。



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