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67、ボックス山脈 〜チビドラゴンを訪ねて

「マルク、これでもう、ハンターになる理由がなくなったよね」


 マルクは、幽霊とかアンデッド系を察知する技能を探すために、ハンターの情報網がほしいと言っていた。闇の精霊の加護があれば、きっとマルクが苦手な幽霊を察知することもできるだろう。


 ジョブ『精霊使い』は、支配精霊と同じ属性の魔物の危機感知能力があると、魔導学校で誰かが言っていた。精霊師は、精霊使いの上位職だ。


 そうだ、マルクは、もう……。



「あー、そういえば、下級ハンターの講習を受けなきゃな」


「えっ……でも、マルクにはもう」


「ヴァン、なに、しょんぼりしてんのさ。ハンターごっこに付き合うって約束しただろ?」


「まじ? でも、マルクは……」


「もっと他にも、使える技能があるかもしれないからさ。それに、兄貴達に認めさせるには、精霊師では、ちょっとインパクトが弱いんだ」


「あ、下級だから」


「いや、下級でも、精霊使い超級以上の力はあると思うけどさ。戦闘系のスキルじゃないし」


「そっか、よかった」


 僕がホッとしていると、マルクは、少しはにかんだような笑みを浮かべた。照れているのかな。


 そうだ、マルクは、お兄さん達に認めさせるスキルも必要なんだ。超級以上の使えるスキルがないって言ってたっけ。上位職なら、下級でもいいんだな。


 でも、何かの上位職なんて、そうそう手に入れられるスキルではない。そもそも、僕は、精霊師って、何ができるのか知らないんだよな。



 僕は、なんだか、なかなか寝つけない夜を過ごした。モヤモヤするんだ。結局、精霊イーターに魔矢を当てることができなかった。マルクがいないと、何もできないような無力感。竜を従える資格なんて、僕にはないんじゃないか。


 一方、マルクはすぐに、眠りに落ちていた。魔力を使いすぎて、疲れたんだろうな。





「ヴァン、おはよう」


 マルクは、ジョブボードを表示して考えごとをしていたみたいだ。


「おはよう、マルク。そうだ、前にボックス山脈で神矢の富を集めたじゃない? あれ、どうする? 分けようと言ってて、そのままだよ」


「あー、あれは、まだいいんじゃない? もっと集めてから、神矢ハンターを雇おうと思ってるんだ」


「あー、トレジャーハンターの神矢バージョンのスキルだね」


「そう。富に変換しないでも何の神矢かわかるのは、たぶん上級以上だと思うからさ。上級以上の神矢ハンターは、めちゃくちゃ高いんだ」


「へぇ、そうなんだ」


 マルクがめちゃくちゃ高いって言うってことは、相当な報酬が必要なんだろうな。



「朝食を食べて、狩りに行こうぜ。あ、でも、昨夜、チビドラゴンくんが、朝になったら来いって言っていたな」


「あー、うん、そうだね。何か用事なのかな」


「俺は、ドラゴンの習性なんてわからないけど、あのチビドラゴンは、ヴァンのことを友達だと思ってるみたいだから、遊びの誘いかもしれないな」


「助けてもらったから、少しは付き合ってあげる方がいいかな」


 マルクは、軽く頷いた。だよな、やっぱり、ちょっと遊んであげる方がいいか。もしかすると、あの洞穴の泉の不具合かもしれない。



 僕達は、レストランで簡単に朝食を食べて、宿を後にした。やたらと注目されるから、居心地が悪かったんだよね。


「ヴァン、じゃあ、行くか」


「うん、そうだね」


 昨夜のことを知って話しかけてくる貴族を、マルクは笑顔であしらっている。うん、こういうところもすごいよな。


 レストランの屋根の上には、精霊様は居なかった。挨拶しようと思ったんだけど、まぁ、いいか。


「精霊様は居ないみたいだな。ここなら、また来ることもあるだろうけど」


「うん、そうだね」


 マルクも、挨拶をしようと思ったのかな。


「じゃあ、行くよ」


 僕が頷くと、マルクは転移魔法を使った。以前来たときと違って、今日は長距離転移も可能らしい。入山するときも、何も言われなかったもんな。





 風の強い草原に、僕達は移動した。


「天気は良いのに、この風だと、弓が使えないな」


「あ、うーん。僕は風がなくても、魔矢を当てられないよ」


 僕がそう言うと、マルクは笑った。いや、冗談じゃなくて、本当に当たらないんだってば。



 ドカドカと何かが駆け寄る地響きを感じた。


「チビ! やっと来たか。迷い子になったかと心配したぞ」


 声のした方を見ると、緑色のチビドラゴンが、同じく緑色のひと回り大きな大量のトカゲを先導するかのように、こちらに向かって走ってきた。


「ヴァン、あのトカゲって、ヴァンを崖に落としたトカゲと同じ種族だ。子供みたいだけどな」


「えっ……チビドラゴンが、率いているように見えるけど」


「俺にも、そう見える」


 返事をしなかったからか、チビドラゴンは、トカゲ達から離れて近寄ってきた。


「どうしたんだ? チビ。魔法使いのチビも、ビビってるのか? コイツらは、ただのザコだぞ」


 気を遣ってくれたのかな。


「チビドラゴンさん、昨夜はありがとうね」


 昨夜の礼を言うと、チビドラゴンは、ポカンとした顔をしている。もしかして、覚えてないとか?


「突然、チビの声が聞こえたと思ったら、あんな場所に転移していたから、びっくりしたぞ。母さんに聞いたら、ぼくが優しいからチビの危険を知る能力があるって言ってたぞ」


 そう言うと、チビドラゴンは、またふんぞり返っている。相変わらず、マザコンなのかな。でも、確かに、優しい個体だ。


「そうなんだ。僕もびっくりしたよ。でも、チビドラゴンさんが来てくれてすごく助かったよ」


「まぁな、ぼくは賢いからな」


 あれ? ここは強いというところじゃないのかな。チビドラゴンにとって、強いというより賢い方を自慢したいのか。



「朝に来いと言ってたけど、チビドラゴンさん、何かしている途中だった?」


 僕の視線が、大量のトカゲに向いていることに気づいたらしい。チビドラゴンも、僕の視線の先を追って振り返っている。


「チビを連れて行ってやろうと思ってたとこに、変な巣がたくさんできていたからな。アイツらに食わせようと思って呼んだんだ」


「友達なの? 種族が違うのに」


 僕がそう尋ねると、チビドラゴンは、大袈裟にのけぞっている。えっと、びっくりしたのかな。


「あんなザコと友達にならないぞ。違う種族の友達は、チビだけだぞ?」


「へぇ、そうなんだ」


「あっ、間違えた。チビの知り合いの魔物が、ぼくと友達になりたいみたいだぞ。まだ、友達にはしてやってないんだけどな」


 ん? ビードロかな?


「えっと、ヒョウみたいな魔物?」


「ほへ? うーん? 逃げ足の速い魔物だぞ。ザコだけど、一匹だけ、ぼくの言葉がわかる賢い奴がいるんだ」


「そうなんだ。僕と話せるビードロが一体いるんだよ」


 へぇ、従属同士が、話せるのか。


「じゃあ、そいつだな。友達にしてやってもいいけど、ザコだからな。でも、チビと話せるなら賢いのか。うーん」


 なんだか、悩んでいる子竜。話を戻そうかな。じゃないと、チビドラゴンは忘れてしまいそうだ。


「何の巣があったの?」


「小さいふわふわした奴だ。まぁ、いいや。チビと魔法使いのチビも、連れて行くぞ」


 チビドラゴンは、マルクに、首でくいくいと、ついて来いの合図をしている。言葉が通じない相手とも意思疎通ができるのか。マルクは、ニッと笑って頷いている。


「マルク、ついて来いって」


「あぁ、だいたい、そんなことかと思ってたよ」


 マルクって、勘がいいよね。



 僕達は、チビドラゴンの後を追いかけた。その後ろを大量のトカゲがついてくるのが、かなり怖いんだけど。



 少し走ると、大きな岩壁が現れた。頂上近くにこんな岩壁が、なぜあるんだろう。人工的に作られたようにも見える。


「ヴァン、これって、遺跡じゃないか? 昔は、ボックス山脈のいくつかの山の頂上には、村があったらしいよ」


「えっ? そんなの初耳だよ」


「隠れ住む必要のある人達の村だったはずだ。ボックス山脈の魔物が増えて、そんな村は滅びたはずだけど」


「そうなんだ」


 岩壁の前に来ると、チビドラゴンは、ぴょんと高く跳躍した。そして、岩壁の上に乗っている。


「さすが、すごい身体能力だ。俺達は、浮遊魔法だな」


 そう言うとマルクは、僕の腕をつかんだ。ふわりと浮き上がると、チビドラゴンは、びっくりしたみたいだ。


 緑色のトカゲ達は、岩壁にくっつき、よじ登っていった。巨体なのに、登れるのか。


「うわっ、ヴァン、すごいぞ、ここ!」


 マルクが叫んだ。いつの間にか、僕は、岩壁の向こう側に降り立っていた。何、ここ? 山頂にこんな……。


「すごい! 神殿みたいだな」



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