66、ボックス山脈 〜新たなスキルに驚くマルク
精霊様が放ったやわらかな光は、僕達の身体の中に吸い込まれた。ふわふわした不思議な感覚だ。
「うわぁ!」
マルクが精霊様を指差して、ダメすぎる引きつった顔で叫んだ。えっ、指差してる?
「……ヴァン、幽霊がいる」
「マルクが指差してる方向には、精霊ブリリアント様がいらっしゃるんだけど」
「ええっ?」
慌てふためくマルクの様子に、精霊様からは、ふふっと笑い声がこぼれた。
「精霊も幽霊のようなものだからな。キミ達には、感謝している。私の消滅を救ってくれた礼として、スキルを授けた。たいしたスキルではないが、私の加護をつけておいた」
「あ、ありがとうございます。それで見えるように……驚きました。それに、精霊様がこんなに大きいなんて知りませんでした」
幽霊じゃないとわかると、マルクは落ち着いたみたいだ。夜だから、余計にビビったんだと思う。
「ふふっ、純粋な感想とは、面白いものだな。では、宿に戻るとしようか」
精霊様がそう言うと、僕達は、ふわっとした不思議な光に包まれた。そして、その光は、真っ直ぐにキャンプ場へと伸びていった。
気づくと、僕達はキャンプ場に戻っている。転移魔法でもなく、不思議な光の道を通ってきた感じだ。
妖精さん達も、にぎやかに騒ぎながら、その光の道を通って戻ってきた。あれ? さっきよりも、はっきりと妖精の姿が見える。精霊様の加護の影響だろうか。
「あぁ、この光は、守護精霊の光だ! ありがとうございます! 守護精霊を見つけてくださったんですね」
レストランの白髭のお爺さんが、駆け寄ってきた。そっか、光は見えるんだな。
精霊様は、レストランの建物の屋根に座っている。その場所が、彼の定位置なのかな。
「あれ? 回復したのですか」
十数人の人が、レストランから出てきて、屋根を見上げている。
「魔獣に襲われたというのは、デマだったのか?」
「いや、確かに黒い亡霊のような何かに襲われていたのを見たぞ」
「おまえが忌避弾で追い払ったんだよな?」
貴族の人達は、互いに責めるような言い方をしている。マルクの方を見ると、ちょっとダメな顔をしていたけど僕と目が合うと頷いた。うん、任せておけばいいね。
黒い亡霊って、なんだろう? マルクは、それにビビってるみたいだけど。ここはボックス山脈だから、どんな未知のバケモノがいるかわからない。
「精霊様は、少し離れた所で、動けなくなっておられたようです。精霊イーターの襲撃がありました」
マルクは、説明を始めた。
「すごい爆音がしたのだが……」
「何かの咆哮も聞こえたぞ」
ここまで聞こえていたのか。だよね、すごい雷撃だったし。
「あぁ、派手な音は、俺の雷撃です。ゴーレムが出たので爆破したんですよ。そのゴーレムの魔石と超薬草を使って、彼が精霊様の回復薬を作りました」
マルクは、何でもないことのように、サラリと話した。騒いでいた人達は、信じられないものを見るような目でマルクを見ている。僕も、マルクって何者だろうって思ったもんな。
「咆哮の魔物も倒したのか?」
「あの声は、ドラゴンじゃないか? 夜になると、こんな場所でも、ドラゴンがうろついているのか」
チビドラゴンの咆哮のことだよね。
「あー、あれは、彼が従えているロックドラゴンですよ。精霊イーターの数が多くて苦戦していたら、彼を守りに来たみたいです」
マルクは、また何でもないことのように、サラリと話した。ちょ、ちょっと、やめてよ。今度は僕に、信じられない者を見るような目が集まった。
そうか……。竜を従えるというのは、こういうことなんだ。僕みたいな子供だから、余計だよね。でも、チビドラゴンだし、友達みたいな感じなんだけどな。
僕達は、宿の部屋へと戻った。貴族の人達は、まだ話を聞きたそうにしていたんだけど、マルクがサラリと切り上げたんだ。ほんと、マルクは大人の扱い方が上手い。
「ヴァン、まさかの夜道だったよな」
部屋に戻ると、マルクは、ぶるぶるっと震えてそんなことを言っている。
「僕は、妖精さん達が淡く光るから暗さは感じなかったけど、マルクは真っ暗だったよね」
「ヴァン、ずるいぞ」
「えー? あはは。マルク、チビっ子みたいな顔になってるよ。あっ、そうだ。これ、あげるから元気を出して」
僕は、神官様と商業ギルドで買ったグミの容器を取り出して、マルクに渡した。
「おっ! これは果汁たっぷりグミじゃないか。なかなか売ってないんだよな。やったぜ」
意外なくらい、マルクは喜んでいる。
「どこの冒険者ギルドに置いてた?」
マルクは、もう、グミを何粒か口に放り込んでいる。いくつかの色を混ぜて食べているみたいだ。
「屋敷の近くの商業ギルドだよ。小さな商業ギルドだけど、お菓子の種類が多かったかな」
「あー、商業ギルドか。確かにその方がいろいろあるよな。お菓子の種類って……世話係をしている子に買ってあげたのか」
「うん、神官様が選んで、僕がお会計をさせられた」
「あはは、その神官様って面白い人だな」
「うーん、なんだか振り回されてるよ」
僕がそう言うと、マルクはニヤッと笑った。えっ? まさか、僕がキスされたと勘づいた? いやいや、そんなわけはないよな。
「あっ、そうだ! ジョブボードを確認してみようぜ。何かスキルをくれたって言ってたし。たぶん、精霊使いだろうけど、輝きの精霊の加護って気になる」
「うん、そうだね。精霊使いだから、マルクは精霊様が見えるようになったんだ」
僕は、印に触れて、ジョブボードを表示してみた。
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.1)
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.1)
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.1)
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』上級(Lv.3)
●友達
●通訳
●従属
●拡張
『道化師』中級(Lv.1)
●笑顔
●ポーカーフェイス
『木工職人』中級(Lv.1)
●木工の初級技術
●小物の木工
『精霊師』下級(Lv.1)New!
●精霊使い
●六属性の加護(小)
●精霊ブリリアントの加護(極大)
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
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えっ? 精霊師? これって確か、精霊使いの上位職だと、屋敷に来ていた冒険者ギルドの支店長さんが言っていたっけ。でも下級かぁ。ジョブなら上級だから、あんなに騒いでいたんだろうな。
たいしたスキルじゃないって精霊様が言っていたのは、下級だからかな。だけど、希少スキルだよね。
六属性って何だろう?
説明を表示してみると、火、水、風、土、光、闇。
この六つの精霊の加護みたいだ。小って書いてあるから、加護の程度は弱いんだろうな。
精霊ブリリアント様の加護は、極大って、すごい。たぶん、最大級の加護だよね。すごい、ありがたい。
マルクの方を見ると、ポカンとしている。うん? そんなに驚くほどのスキルなのかな? 精霊様の極大加護に、ポカンとしているのかも。
「マルク、精霊使いじゃなくて、精霊師だったね。精霊ブリリアント様の加護、これって最大級だよね」
「あぁ」
あれ? まだポカン顔から復活していないみたいだ。
「おーい、マルク〜、大丈夫?」
「あぁ」
「聞こえてる?」
「あぁ」
「聞いてないんだろ」
「あぁ」
やっぱり。聞こえてないか。
マルクは、ボーっとどこかを見ている。たぶん、その場所にジョブボードを表示しているんだろうけど、僕には呆けているようにしか見えない。
「ヴァン、大変だ!」
やっと、ポカン顔からマルクが復活した。
「うん、精霊師だね。下級だけど」
「それもそうだけど、アレもアレだよな」
マルクさん、何をおっしゃっているんですかー?
「マルク、意味わからないよ」
「六属性の加護って、闇の精霊の加護もあるじゃないか」
「うん?」
「これを常に使っていれば、突然、幽霊が現れて襲ってきたりしないだろ」
「あっ、マルクの欠点、克服できるじゃないか」
マルクは、ガッツポーズだ。だけど……。




