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65、ボックス山脈 〜精霊ブリリアント

「ヴァン、どのあたり?」


「光が集まってるとこ、と言ってもわからないよね。倒れた木の根元に座っているみたいだ」


 僕は、精霊様らしき影に近寄った。手にはガラスのような花を持っている男性だ。頭に花を飾っている男性だと聞いていたから、間違いないだろう。


「人間、やはり、ブリりんは死んでるかもしれない」


「精霊は、死んだら消えちゃうの」


「でも、影みたいになってる。光ってないもの」


 輝きの精霊だと言っていたっけ。確かに、影のようだ。妖精さん達の光がなかったら、見えないよね。


 手で触れようとしても、触ることができない。輝きを失って影だけになってしまっているからか。もしかしたら、消える寸前なのかもしれない。



「マルク、精霊様が影のようになっていて、触れないんだ」


「まずいな、輝きの精霊が輝きを失ったら、消滅するぞ」


「なんとかならないかな」


「正解な場所を教えて。どれくらいの大きさ?」


「この木の根元に座ってるけど、座った状態で僕より少し大きいかな」


「それなら、確実に魔法を当てられるな」


 マルクは、左手を向けて、緑色の光を放った。回復魔法だ。左手には、増幅のグローブをつけているんだよね。


「すごい! 影だったのが、立体的な人型になったよ」


「輝きは戻ってないか」


「うん、あ、でも、少し動いてる」


「今のが、唯一、何にでも使えるヒーリング魔法なんだけどな。俺、白魔法は全然ダメなんだ」


「そんなことないよ。めちゃくちゃ効いてる。さっきまでは死んだと言っていた妖精さん達が、ブリりんが生きてるって喜んでいるよ」


 マルクは、ホッとしたようだ。


 僕は、もう一度、触れようと手を伸ばしてみた。でも、やはり触れられない。顔もハッキリと見えるんだけどな。


 突然、バチリと目が開いた。

 び、びっくりした。


『……人間、か』


 頭の中に直接響く声が聞こえた。低く弱々しい声だ。


「はい、人間です。精霊ブリリアント様ですね。助けに来ました。だけど、白魔導士は、キャンプ場から出られないんです。動けそうですか?」


 彼は首をかすかに横に振った。


「どうすれば動けるようになりますか」


『この花が輝けば……』


 僕は、薬師の目を使った。そうか、この花は、精霊様のエネルギー貯蔵庫のようなものか。魔物でいえば体内にできる魔石にあたる。


 花から精霊様に、僅かなエネルギーが流れている。これがあったから、消滅せずに済んだのか。マナの花だけど……もう、カスカスだな。もろいガラスのようだ。触れると、ほんのわずかな力でも壊れてしまいそうだ。



「ヴァン、それは妖精の花? 精霊の魔石だよな?」


 マルクにも見えているのか。


「うん、そうだと思う。この花に輝きが戻れば、精霊様は動けるようになるみたいだ。これを回復するには、莫大なマナが必要だよ、どうすれば……」


 するとマルクは、魔法袋から小さな石を取り出した。あっ、魔石?


「これでなんとかできないか? 魔石にもマナは詰まっている。ヴァン、超薬草を持ってるだろ?」


「うん、やってみるよ」


 僕は、魔法袋から超薬草を取り出した。そして、マルクから受け取った魔石と超薬草を使って、マナの花を回復しようと考えながら、新薬の創造を使った。


 うわっ、何これ? 熱い!


 出来上がった水薬は、熱を発している。大丈夫なのかな。僕は、そっと、花に水薬をかけた。みるみるうちに吸い込まれている。


「ヴァン、花が燃えてる? いや、何? 色がコロコロ変わる」


「水薬が、花に吸収されたんだ。花が回復していってる。あっ、精霊様にも花からエネルギーが流れ始めたよ」


「やったじゃないか、ヴァン。すごいな、超級薬師」


「でも、これでは足りないみたいだ。まだ、精霊様は動けない」




 妖精さん達が騒ぎ始めた。あれ? 上空へとあがっていく。喜んでいるだけじゃない。まさか!?


「マルク、何かが近づいてきてるかもしれない」


「あぁ、わかってる。精霊イーターだ。数が多い。ヴァンも手伝って」


「えっ? 僕は、しょぼい基本魔法しか使えないよ」


「ショートボウをもらっただろ? 右手で持てば、増幅した魔矢が射てる」


 あ、そうだった。僕は、小型の弓を取り出して構えた。手が震える。でも、今、ここで逃げると、この精霊様は、確実に殺される。



 ガゥウ〜!


 シュバババババッ!!


 すごい! マルクは、一度で何十もの氷矢を射ってる。



 シュッ


 僕は、近寄ってきた奴に、氷矢を射った。うげ、当たらないよ。


 シュッ

 シュッ


 当たれ! 当たれ!


 ガゥウ〜


 やばっ!


 シュバババババッ!


 マルクの氷矢が、近寄ってきていた精霊イーターに当たった。どうしよう、僕は全然役に立たない。



 グォォオ〜!!


 えっ? な、何? 咆哮?


 恐ろしい咆哮が聞こえた。この声は……?



「チビ、何を遊んでるんだ?」


 僕をかばうように現れたのは、体長2メートルほどのトカゲ。いや、この個体は、ロックドラゴンの子供だ! 随分と大きくなっている。


 そうか、従属の技能を使ったから、僕の危機を察知して来てくれたんだ。


「チビドラゴンさん! 精霊様を助けたくて。僕とマルクが宿泊するキャンプ場の守護精霊なんだ」


「それで、精霊喰いが集まってるんだな」


 マルクは、チビドラゴンの登場に固まっていた。だけどすぐに、あの緑色のトカゲだとわかって、ホッとしたみたいだ。


「チビ、ぼくがコイツらを追い払ってやるよ」


 そう言うとチビドラゴンは、精霊イーターを威嚇し、数体を爪で切り裂いた。


 すると精霊イーターは、一気に逃げ出した。すごいな、子供でも、さすがドラゴンだな。


「チビドラゴンさん、すごい強い! ありがとう」


 ぴょんと戻ってきたチビドラゴンは、やはり、ふんぞり返っている。あはは、このポーズは、この子の癖なのかな。




「うぇ、変な奴が来るぞ。あれは、ぼくは追い払えない」


 チビドラゴンは、落ち着きなく、ソワソワし始めた。


「えっ? 何が来るの?」


 マルクの方を見ると、ニヤッと笑っている。ちょ、夜が怖すぎて、壊れてないよね? マルク。


「ヴァン、いい獲物だよ。たぶん、そのチビドラゴンを襲う気だ」


「ええっ!?」


「ゴーレムだよ。絶対に魔石を持ってる」


 マルクは、弓を僕に渡して、ぶどうのエリクサーを食べた。そして、手に魔力を集めている。


 うわぁ〜! 


 突然、巨大な岩が現れた。いや、壁かもしれない。


 チュドーン!!


 その次の瞬間、マルクは特大の雷撃を放った。巨大な岩は砕け散っている。ちょ、ちょっとマルクさん、何者ですかー?


 チビドラゴンも驚いて、マルクを化け物を見るような目で見てるよ。



「ヴァン、灯りが欲しいんだけど」


「あ、うん」


 僕は、指の先に小さな火を出した。マルクもできるはずだけど、両手を自由にしておきたいみたいだな。


 がれきの中から、マルクは、握りこぶし程の大きな何かを見つけ出した。


「あったぜ。まぁまぁの魔石だな」


「すごい、めちゃくちゃ大きいじゃないか」


「これで足りないなら、もう知らないからな」




『竜を従えているのか……』


 精霊様に近寄って、再び水薬を作っていると、頭の中にそんな声が響いてきた。


「従えているというよりは、友達のような感じです」


 チビドラゴンは、僕の近くでジッとしている。たまに、咆哮をあげるのは、近寄ろうとする魔物を追い払ってくれているみたいだ。


『そうか、良き友だな』


「はい、そうですね。精霊様、身体は動きそうですか? 新たな薬がもうすぐ出来ますからね」


 よし、水薬は完成だな。


 先程と同じように、そっとマナの花へかけると、やはり一気に吸収された。花は様々な色に輝き、そして精霊様へとエネルギーが流れていく。



 付近が、パッと明るくなった。


 マルクも、眩しそうにしているから、精霊様が光っているんだな。



「チビ、この光は目が痛いぞ。もう大丈夫みたいだから、ぼくは帰りたいぞ。朝になったら、ぼくのとこに来いよな」


「えっ? あ、うん、ありがとう」


 僕がそう返事をすると、チビドラゴンはスッと姿を消した。ドラゴンなのに、転移魔法を使えるの?



「マルク、チビドラゴンが転移魔法を使った!」


「はい? 従属の技能の一部だよ。ヴァンが呼び寄せたんだ。危機が去ったから、元いた場所に戻っただけだよ」


「えっ? 僕が?」


 呼んだ覚えはないんだけど。確かにやばかったから、どうしようとは思ったけど。



 光が収まってくると、精霊様の姿が変わっていた。中性的な綺麗な顔をしている。声は男性だけど、話さなければ性別はわからないよね。


「ありがとう、キミ達には感謝する」


 精霊様は、立ち上がると、僕とマルクに向かって、やわらかな光を放った。




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