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62、ボックス山脈 〜検問所は交易所のようだな

 僕は今、待ち伏せをしている。マルクにもらった手袋に触れると、マルクのだいたいの居場所がわかるんだ。


 旦那様に外泊の許可をもらって、メイド二人とフロリス様に説明をして、屋敷を離れたところまでは良かった。だけどボックス山脈へ、どうやっていけばいいかわからない。とりあえず、マルクに相談しようと思ったんだ。



 あっ、来た!


 マルクは、暗い表情をしている。黒服が一人、マルクについているみたいだ。そっか、マルクにも担当する黒服がいるんだな。


「マルク!」


 僕が声をかけると、マルクはめちゃくちゃ驚いた顔をしている。あれ? 幽霊を見たときのような、ダメな顔をしてる。


「まさか、ヴァンか? 生き霊か?」


 生き霊って……。


「ヴァンだよ。あっ、服に驚いた?」


 服は、黒服のままだ。


「どうしたんだよ、魔導学校が始まるまで、ジョブの役目がどうのって言ってなかったか? まさか、いじめられて逃げ出してきたのか?」


「いや、今は仕事中だよ。ちょっとそのことで、マルクに相談があってさ」


「勝手に屋敷を離れるのはマズイよ? どこの家だっけ」


「旦那様に外泊許可を得て、ちょっと食材調達に行くことになったんだ。僕の今の契約先は、ファシルド家だよ」


 僕がそう言うと、マルクよりも一緒にいた黒服の方が驚いている。僕と目が合うと、軽く会釈されたけど、なぜか疑わしげなんだよね。


「ちょっと、テト、その顔は失礼だろ。ヴァンは俺の友達だぞ」


「失礼致しました。ですが、厳格なファシルド家が契約期間中に、黒服を外に自由に出すなど信じられません。しかも外泊などと……」


「ヴァンは、ジョブソムリエだから、特別なんじゃないの? ファシルド家にソムリエはいないはずだけど」


「なるほど。しかし、それならなぜ、彼に監視がついているのでしょう? 坊ちゃん、付き合う友達は、気が合うというだけで選ばれませんように」


 えっ? 監視? 辺りを見回すと、サッと隠れる人影が見えた。全然気づかなかった。この人、できる人だ。彼は、マルクの説明には納得していないみたいだ。この黒服を説得しないと、マルクに相談できないか。


「ヴァンの護衛なんじゃない?」


「なぜ、派遣の黒服に護衛などつけます?」


「えーっと……」


 マルクは言い負かされてる。


「マルク、この黒服さんは、マルクの専属の人?」


「専属じゃないけど、子供の頃から俺を守ってくれてる」


「信頼してるんだ」


 僕がそう尋ねると、マルクは頷いた。この感じは嘘ではないね。そっか、頭が上がらないって感じなのかも。



 僕は、マルクの黒服の方を向いた。すると、怪訝な顔で睨まれた。悪い友達は排除しようってことなんだな。貴族にとって悪い友達は、利益をもたらさない友達、だよね。


「監視か護衛かわかりませんが、誰かがついてきているなんて、気づきませんでした。旦那様が命じられたのなら、護衛かもしれません」


「は? 黒服に護衛ですか」


「僕は、ある方の専属として雇われています。詳細は話せませんが、僕は薬師の超級スキルを持っています。ちょっと調達したい物があって、ボックス山脈へ向かうところです。この時間から、日帰りというわけにはいきませんので、外泊許可をいただいています」


 何も嘘はついていない。どう誤解をされても、僕の責任じゃないよね。


「は? 超級薬師ですと?」


「ええ、そうですよ。マルクは、黙ってくれていますけど」


 するとマルクは、ニヤッと笑った。


「テトにあげた、ぶどうのエリクサーを作ったのはヴァンだよ。あっ、内緒にしておいてよ? 知れ渡るといろいろと面倒だから」


「かしこまりました。冒険者をしている下級貴族が取り入ろうと騒いでいる謎の少年、ですか」


 マルクは、シーッと、人差し指を立てている。


「ボックス山脈か、じゃあ、俺が連れて行ってあげなきゃね。ヴァンは転移魔法を使えないからな」


「坊ちゃん、これから来客の予定が……」


「テト、それなら、ルファス家はファシルド家に協力できないと言って来てよ。きっと、急ぎの用事だよ? ヴァンに監視がついているなら、このやり取りも見られている」


「まさか、そんな恐ろしいことを……」


「じゃ、来客を断って。俺は、このまま出かけるから」


「はぁ……かしこまりました。お気をつけて」


 おぉ〜、マルクが黒服を言い負かした!




「ヴァン、なぜ黒服なんだよ。まるで俺の従者のようじゃないか」


「あはは、それ、面白いね。うーん、黒服以外は、部屋着しかないんだよね」


「最初から黒服を着て行ったのか? それ、結構高そうだけど」


「キチンとした格好で行ったんだけど、黒服に着替えて、クローゼットに入れちゃったんだよね。クローゼットが空っぽなのもマズイかと思って」


「ヴァン、全然意味わかんない。あっ、わかった。いじめられたってことか」


 僕は、やわらかく笑ってごまかしておいた。マルクも、それ以上は聞かなかった。


 クローゼットにいれておいた服が、ビリビリに切り裂かれていたなんて、言えないよね。さっき、宿舎に戻ったときには冷や汗が出た。フロリス様の部屋の物置に泊めてもらえることのありがたさを痛感したんだ。


「じゃあ、服と安い魔法袋を調達してから、ボックス山脈へ向かおう」


「うん、あ、食料は?」


「水や非常食は、一人なら半年は生きられるくらい持ってるよ。どこかで突然遭難しても生きられるようにね」


 マルクの言葉の意味が、今の僕にはよくわかる。以前なら、理解できなかっただろうな。マルクも、やはり狙われているんだ。



 ふらっとマルクが入った店で服を選んで着替えた。マルクも、軽装に着替えてる。そして、小さな魔法袋も買っている。なぜか、マルクがすべて払ってくれた。


「マルク、服代とか、悪いし」


「何言ってんの? 俺、ヴァン預金かなりあるんだけど」


「へ? ヴァン預金って何?」


「ヴァンがくれたエリクサーやポーションだよ。おかげで、俺、兄貴よりも金持ちかも」


 マルクは、そう言ってケラケラと笑っている。まぁ、それならいいんだけど、なんだか、ちょっと無理に笑ってるようにも見える。


 店を出ると、マルクの転移魔法で、以前行ったボックス山脈のふもとへと移動した。





「この時間は、空いてるね」


 そう言いつつマルクを見ると、彼はポカンとしている。えーっと、これは、何に驚いて固まってるのかな。


「ヴァン、検問所を通過できたら、すぐに宿へ行こう」


「うん、そうだね」


 なるほど、日が暮れてきたからだ。僕も、ボックス山脈の夜は怖い。だけど、入山許可証がないんだよな。ガメイの荒野も、もう水路のにごりはないし……。



「次の人。うん? 子供二人か? 許可証は?」


 ここはマルクを頼るしかない。マルクの方を向くと、マルクはカードを提示している。入山許可証?


「冒険者ギルドの特務官ですか。そちらの少年は?」


「彼は、超級薬師なので、今回の協力者です」


 な、何? 冒険者ギルドの特務官? 僕が協力者って……逆なんだけど。


「あぁ、キミが噂の少年か。超級薬師のジョブソムリエ」


「えっ? 僕のジョブまで?」


「あはは、ここに出入りする貴族がよく話してるからな。あのグミポーションは、どこで売っているんだ?」


 正方形のゼリー状ポーションのことだよね? 一応、これって、僕が超級薬師かどうかを確認しているのかな。


「決まった販売所はありません。よかったらどうぞ」


 僕は、魔法袋から十個ほど取り出して、検問所の人に渡した。


「いや、くれと言ったわけじゃないんだが……ありがたくもらっておくよ。代わりにはならねぇが、これを持っていってくれ」


 小さな弓を渡された。弓だけで、矢がないんだけど?


「ありがとうございます。これは?」


「俺が作っているショートボウだ。こうやって構えると、魔法を発動する要領で、いろいろな属性の矢が出るんだ。魔導士に爆売れ中なんだぜ」


「へぇ、ありがとうございます」


 僕だけじゃなく、マルクももらっている。


「気をつけていけよ」


 にこやかに見送られて、入山できた。なんだか、物々交換の交易所みたいだな。



「ヴァン、すぐに転移するよ。前に行った貴族だらけのキャンプ場に行く」


「了解〜」





 僕達は、山小屋が立ち並ぶ集落のような場所に移動した。こないだ来たときより、人は少ないみたいだ。


「失礼ですが、冒険者カードの提示をお願いします」


 突然、背後から黒スーツの男性に声をかけられた。


「ヴァン、冒険者ギルドも登録した?」


「うん、三つとも登録したけど、まだミッションは受けてないよ」


 僕は冒険者カードを取り出し、恐る恐る提示した。




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