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567、自由の町デネブ 〜賑やかな小屋

 僕は、昼食を食べながら、覇王が消えたことを皆に話した。


 あまり、神官三家やノレア神父のことは悪く言うべきではないと思ったけど、フロリスちゃんが補足するように、全部ぶちまけたんだ。


 だけど、従属達は無関心だな。神官三家もノレア神父も、僕の覇王の技能も、どうでもいいらしい。


 フラン様は、このことを事前に知っていたようだ。覇王を奪ったことを怒ってくれたけど、彼女の予想よりはマシだったみたいだ。


「ヴァンが、神官三家の奴隷にされなくてよかったわ」


「フランちゃん、全然良くないよっ! ヴァンがずっと努力してきたのに、酷すぎるよっ」


 フロリスちゃんの怒りは収まらない。


「だけど、神官三家は、今の体制を維持することに必死なのよ。ヴァンが極級ハンターを目指さなかったら、おそらく別の方法で力を削ごうとしたわ」


 フラン様がそう言うと、フロリスちゃんはさらに激怒していた。フラン様も僕も、神官三家がやることなら仕方ないという諦めがある。ゼクトは、なおさらだ。


 だけど、フロリスちゃんは、まだ15歳だから純粋なんだよな。僕はいつの間にか、変わってしまったな。



「ふぅん、古い権利者は必死なのね〜」


 突然、小屋にやってきたのは、海竜のマリンさんだ。よかった、マリンさんもいつも通りだ。もともと覇王は使ってなかったからか。


「あーっ、マリン! ぴらぴら持ってきてくれた?」


 青い髪の少女が立ち上がった。ルージュの側を離れるなんて珍しいな。


「テンちゃ、持って来ようとしたんだけどね。なんだか眠くなって……気づいたら潮に流されちゃったわ」


 何の話だ? ぴらぴら?


「なっ!? 何ですって! あたしも眠くなったけど、それって覇王を消すためだから……うぬぬぬぬ……」


 青い髪の少女は、怒りで髪の毛を逆立てている。まずいな、小屋が壊れる。



「テンちゃ、ルージュのデザートは何がいいかな?」


 僕がそう尋ねると、少女の放つオーラはパッとかき消えた。そして、マリンさんのことを忘れたかのように、ルージュの方にすっ飛んでいく。


 これが、覇王が消えた結果か。


 これまでは、僕のいる室内で、テンウッドが妙なオーラを放つことはなかった。そして、そんなことがあると、バーバラさんは即座に僕にバリアを張ってくれた。


 僕は従属達にとって、守るべき王ではなくなったのだと感じる。だけど、友好的だ。これまでとは少し違うけど、最悪の結果にならなかっただけ、良しとしなきゃな。



「あの、みんなにお願いがあるんだ」


 僕が口を開くと、テンウッド以外は僕の方に注目してくれた。青い髪の少女は、ルージュとデザートを相談することに必死だ。


「お兄さん、どうしたのですか?」


 バーバラさんがそう尋ねる。僕の考えは見えてるんじゃないのかな? ブラビィが隠すこともあったけど……腰にブラビィは戻って来ていない。


 ブラビィも、去ってしまったか。もともと偽神獣だったし、悪霊だったもんな。覇王は、ブラビィがキッカケで得た技能だ。それが消えたから……。


 失ったモノを悔やんでいても始まらない。僕の様子に、バーバラさんが心配そうにしてくれている。



「あのね、僕が覇王を失ったことで、覇王の底上げ効果も消えてるんだ」


「あぁ、確かに、うとうとした後、なんだか身体が重くなっていました。何かの呪いにかかったみたいに」


 やはり、バーバラさんには変化があったのか。


 赤い髪のチビっ子は、両手にパンケーキを掴んだまま、首を傾げている。本来の姿にならないと気づかないのかもしれないな。人間に化けているから、テンちゃもチビちゃも、本来の力を封じ込めている。


「そうね、まさに呪いって感じだったわね。嫌な夢を見たもの。私、あのうさぎは嫌いなのよねー」


 マリンさんがそう言うと、バーバラさんは頷いている。統制のアマピュラスが直接、語りかけたのか。マリンさんには覇王は使ってないのに、何かの効果が及んでいたみたいだ。



「だから、寿命の短い泥ネズミは、死んだみたいなんだ。ちゃんとお墓をつくってあげたいから、死骸を探したい。探すのを手伝ってもらえないかな」


 そう話すと、従属達はシーンとした。覇王がないから頼んでも聞いてくれないのか。


 するとフロリスちゃんが、口を開く。


「みんな! ヴァンのお願いを聞いてあげてよっ! 神官三家の人達は、リーダーくんが死んだことを喜んでたの。このままにしておけないわ!」


 だよな。神官達が死を喜ぶということは、その死んだモノは悪霊に変わる。でもそれなら、僕が影の世界に捜しに行けばいいか。



「フロリス、そのお願いは聞いてあげられないよ!」


 ルージュを抱っこした青い髪の少女が、冷たく言い放った。なんだかルージュを人質に取られたようで、僕の胸は苦しくなる。


「テンちゃ! どうして、そんなに酷いことを言うのっ」


「うん? だぁって〜」


 テンウッドが、裏庭への扉を蹴り開けた。



『にゃははははっ、ツルツルテンの〜……ふにゃっ?』


 裏庭には、巨大な桃を削った滑り台のようなものを登ろうとしている泥ネズミ達がいた。リーダーくんと、ばっちり目が合った。


「リーダーくん! どうして生きてるの?」


『あにゃにゃにゃっ? 我が王から、ピカピカが消えてますでございますです! な、何があったのでございますですか』


 リーダーくんは、慌てて駆け寄ってきた。そして、心配そうに、僕をペタペタと触っている。僕は、リーダーくんの頭をそっと撫でた。賢そうな個体もいる。覇王が消えても、ここにいたんだ!



「ちょ、テンちゃ、どうなってるの?」


「知らなーい。土ネズミじゃない?」


 テンウッドは、少女の腕の中でルージュが寝てしまったので、嬉しくてたまらないらしい。ニヤニヤしながら、ゆりかごのように左右に揺らし始めた。


「バーバラさんが?」


「お兄さん、あの、私が眠くなって、そして目覚めたときに、泥ネズミ達が床に転がっていたの。呪いでショック死したのかと思って、蘇生しました」


 えっ!? あ、そっか、バーバラさんは、すべての魔法を操る魔女だ。蘇生魔法も当然使える!


「そっか、ありがとう! バーバラさん。でも、あの子達はもう寿命だよね」


「えーっと、蘇生してもすぐに死ぬから生命エネルギーを与えたので、たぶん大丈夫です」


 ちょ、えっ!?


「じゃあ、バーバラさんの寿命が……」


「大丈夫です。お兄さんのエリクサーがありますから」


 バーバラさんは、少女のように微笑んだ。あぁ、よかった。



「うるせーな。失敗したじゃねーか! 騒ぐなら、扉を閉めるぞ」


 巨大な桃に空いた穴から、不機嫌そうな黒い兎が顔を出した。


「えっ? ブラビィ、戻ってきたの? 逃げたんじゃないの」


「は? どこに逃げるんだよ? おまえの覇王が消えたせいで、大迷惑だ。俺、堕天使の姿になれなくなったじゃねーか」


「チカラを失ったから。じゃあ、ブラビィはもう、ただの黒いお気楽うさぎだね」


「おまえなー、その方がいいに決まってるだろ。オレは、くっそダセー聖天使にしかなれねーんだ。堕天使の方がキャーキャー言われるのに」


 はい? ブラビィは何を言ってんの?



「おまえ、覇王が消えたのに、なぜここにいる?」


 ゼクトがそう尋ねると、ブラビィはさらに不機嫌な顔をしている。ぷぅちゃんの眷属けんぞくが嫌だからだよね。


「狂人、オレがアイツの眷属けんぞくにされたくないから術返しをしねーって思ってるだろ。バカだろ。オレは、コイツの世話係だからな。それに、神獣を抑えられるのは、オレしかいねーだろ」


 えっ、嘘っ? ブラビィが、なんだか聖天使様のようなことを言ってる。僕がそう考えると、フンッと顔を逸らす。照れたらしい。



「そんなことより、狂人! おまえらがうるさいから失敗したんだ。さっさと新しい桃を出せよ!」


 ブラビィは、照れ隠しだな。ゼクトも、それがわかっているから、ニヤニヤしながらも、巨大な桃のエリクサーを出した。


 するとブラビィは、すぐさま、表面を斜めに滑り台のようにカットした。


「テンウッド、これ凍らせろ。斜めになったところだけだぞ」


「やだよー。あたし、ルージュを抱っこしてるもん」


「チッ! おまえら、まだ……あぁ……。足跡だらけにするなよ! 凍らせても滑らないだろーが。バカか、おまえら」


『にゃはははっ。にゅるにゅるでございますですね〜』


「狂人! もう一個出せ!」


 凍らせた滑り台を作ってるのか? 確かに、ブラビィが穴を開けている桃は、表面が凍っているみたいだけど。


「残り少なくなってきたからな。新たなリジェネ効果のあるエリクサーもないしな」


「じゃあ、さっさとボックス山脈に行って来いよ!」


「だが、ヴァンの覇王が消えた今、危険だろ」


 ゼクトがそう言うと、ブラビィは黙った。そして、マリンさんの方に視線を移した。従属同士の念話は有効なんだな。



「確かに、ボックス山脈にいるはずの子達は、応答しないわねぇ。従属が外れたのかしら」


 えっ!? チビドラゴンやビードロは、大丈夫だと思ってたのに……。あまり会わない従属は、消えてしまったのか。ボックス山脈から出られない魔物だもんな。人間に従い続けられないか。


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