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552、商業の街スピカ 〜アランの後継者指名式

「ぎゃあ! 暗殺者ピオンだ! 脚を、脚を……粉砕された!」


 水属性の作り置きしてあった弾薬は、当たるとその部分を凍らせる。だから、足元を狙うのが効率的だ。僕が適当に投げていても、ブラビィがしっかり軌道修正して当ててくれる。


「足を失いたくなければ、動かなければいい」


 すれ違い様にそう冷たく言い放ち、僕は次々と、アラン様を狙う暗殺者の足止めをしていく。



 ゼクトは、アラン様の近くにいる。ありえないことに、アラン様自身が、護衛をつけてないんだ。彼の背後からついていくフラン様が、一応簡易バリアを張っているようだ。彼女の横には神官服を着た国王様もいる。


 ララさんは、そんは二人を守っているはずなのに何もしていない。ただ、二人の後ろから歩いていくことで、背後を守っているのかもしれない。ララさんは、暗殺貴族の仕組みを構築したアーネスト家の当主だけど、王族出身だ。


 アラン様は、後ろからついてくる3人の誰よりも、地位が低いんだよな。これは、たぶん国王様の悪ふざけだと思う。だから、ゼクトは、あのクソガキとか言って、飛び出していったんだ。



『おい、屋敷からも狙ってるぜ。そろそろちょーやべぇ場所だぞ』


 僕の腰をブラビィが蹴った。こんなあちこちから、隙あらばと狙う中を歩かせるなんて、ファシルド家の正気を疑う。だけど、これが、次の当主を選ぶ見せ物であり、その後継者の度量をはかるイベントらしい。


 だから、暗殺者は、依頼されていない者まで寄ってくる。そんな中を生き延びることができなければ、有力貴族の当主とはなれないらしいけど……。



 屋敷のあちこちから狙っている暗殺者には、魔道具メガネは気づかせてくれる。だが、連携しているのか、一斉に攻撃を合わせようとタイミングをはかっているように見える。


 もう数メートル進むと、あらゆる方向から見える位置を通る。客人もそれがわかっているのか、巻き込まれないように離れているんだよな。


 これは、やばい。キツすぎる。


 ゼクトも、屋敷にいる人影の多さに、緊張しているみたいだな。ほとんどの窓から見られている。式に参加しない奥様やお子様たちを含め、ただの観客が大半だ。


 そんな中に、大量の暗殺者が紛れている。



『おい、派手にいくぜ! 100発くらい空に放り投げろ』


 ノリノリなブラビィが、念話で叫んだ。楽しくてたまらないような声だな。ちゃんと、間違わずに当てられるんだろうか。


 僕は、アラン様達の進路、ガラ空きの危険地帯に先回りをして、ニヤリと笑う。デュラハンが笑えとうるさかったんだ。


 そして、魔法袋から取り出した弾薬を風魔法で、空高く巻き上げ、ブラビィにやれと言われたように、片手を空にあげ、指をパチンと鳴らす。


 すると、空に放り投げた弾薬は、パッと青い光を放ち、あらゆる方向へと弾け飛んでいく。


「うわぁあ!」


 屋敷の窓から覗いていた暗殺者も、離れた場所からここを狙っていた暗殺者にも、正確に弾薬が当たったようだ。あちこちで、火魔法を使う光が見える。


 だけど、そう簡単には解凍できないようだ。脚を地面に凍てつかせるほどの氷魔法だもんな。


 新しいヤバすぎる技能を使って、超薬草に水属性を掛け合わせて弾薬化した。簡単に解除されないように、また、どんなバリアがあったとしても防御を無効化できるように、マルクとゼクトに協力してもらって、かなり練習したからな。



 デュラハンが、僕を纏う闇のオーラを付近にぶわっと広げた。何かの術が込められているわけではない。ただ冷たく感じるだけの霧状のオーラだ。


 そして、二人の指示通り、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、ぐるりと辺りを見回した。


 すると、魔道具メガネは、このショーを楽しんでいた客人達だけでなく、それなりの暗殺者達まで、強い恐怖と怯えを感じていることを教えてくれる。



『あはは、楽しーよな。くっそ偉そうな奴らも、ちびりそうになってるぜ。きゃはは』


 ブラビィは、悪霊だった頃の本領発揮しているのか、デュラハンと協力しながら、架空の暗殺者ピオンで遊んでいる。



「ふふっ、ヴァン、やりすぎだ」


 僕の前を通るときに、アラン様は笑っていた。そんな彼に、僕は、仰々しく跪き、アラン様が通り過ぎるのを見送った。


 僕が、アラン様に跪いたことで、この場の雰囲気は決定的なものとなった。その場から、壇上までの道は、誰も動かない。いや、逆に、アラン様に道を開けるように、後ずさっていく。



 アラン様を先導するように進むゼクトは、超有名人だ。


 最年少で極級ハンターになった後は、神官家に利用されて感情を失い狂人と呼ばれていたけど、今では、冒険者ギルドでは最も有名で憧れの対象となっている。


 そんなゼクトは、頼まれても警護の依頼は受けない。彼が親しくしている人しか守らないんだ。今回は、国王様を守るために飛び出していったけど、アラン様を守っているように見える。これは、国王様の作戦だろうな。


 そして、裏ギルドでは、暗殺者ピオンは伝説級に有名だ。たぶん、暗殺貴族のクリスティさんが、そんな風に、架空の伝説の暗殺者を作り上げてるんだと思う。


 暗殺者ピオンは、神獣ヤークの子孫だとか、神官家ベーレン家の正統な後継者候補だとか、いろいろな噂がある。


 僕は、暗殺しない暗殺者として売ってるはずなのに、遭遇したら心を殺されるとか、暗殺者人生を絶たれるとか、変な噂もあるんだ。恐怖を植え付けるために、わざと殺さない冷徹な悪魔だとか……。


 きっと、全部クリスティさんが撒いた噂だと思うんだよね。


 なぜか暗殺者ピオンの姿は有名なのに、どんな力を使うのかは、全く知らされていない。それを、いま、披露してしまった感じだ。


 暗殺者は、基本的に手の内はさらさない。知られても問題のないようなものしか見せない。


 そして、今、こんな形で、どれだけ集まっているかわからない暗殺者達の足止めをした。何人かは脚を失ったみたいだけど、自業自得だ。


 まさしく、暗殺者ピオンは、とんでもない恐怖の対象だな。厄災級かもしれない。




 ファシルド家の旦那様が、壇上に転移で現れた。


 アラン様の挨拶と決意表明の後、旦那様からアラン様をファシルド家の後継者とするという宣言があった。


 フラン様は、その宣言の見届け人という役割のようだ。通常なら、見届け人は、旦那様と共に現れるらしい。だけど、フラン様は、こんな大胆なことをしたんだ。


 アラン様の後継者指名の後、彼女はドゥ家の当主であることを宣伝し、ファシルド家を見守っているとスピーチをした。最後にドゥ教会への勧誘の言葉を添えていたのは、神官服を着た国王様だ。


 誰も、彼が国王様だとは気づいてないのかな?



 集まっていた客人は、アラン様への拍手と、さっきまでとは違った会話で盛り上がっていた。


 壇上までの道のりは、アラン様の後継者への道のりだったのだろうか。僕は、つまらないパフォーマンスだと思う。こんなことで、次期当主の力量をはかるなんて……貴族家は、どうかしている。


 だけど、何かを変えるためにも、今までの慣習に従う必要があるのかもしれない。アラン様は国王様の側近だ。国王様は、貴族家の酷すぎる後継者争いを無くしたいと考えている。きっと、アラン様の世代では、変えてくれるのだと信じたい。


 そういえば、ファシルド家の旦那様は、絶対的な強者には、貴族も従うと言っていたことがあった。


 このショーには、そういう理由があるのかもしれない。



「これにて、当家の後継者指名の式は、終了となります。この後、夕方からは、ささやかではございますが、屋敷内においてパーティを行います。お時間のある方は、お越しいだければ嬉しく存じます」


 バトラーさんが、執事長らしく、ビシッと挨拶をした。このパーティに参加する人数によって、後継者への評価がわかるそうだ。少ないとマズイからと、パーティで客人のフリをするミッションもあるほどだ。




「あー、その前に、少しいいですか」


 神官服を着た国王様が、なぜか拡声の魔道具をバトラーさんから、奪っている。国王だとカミングアウトするのだろうか。


 移動を始めている人達は、神官服を着た彼の言葉には、興味の無さそうな人も多い。特にご婦人方は、パーティ用のドレスに着替えるために、一旦、自分の屋敷に戻るから、急いでいるのだろう。



 国王様は、僕の方を見てニヤリと笑い、何かを探しているようだ。何? まさか、ピオンの正体をバラす気?


 そして、フロリスちゃん達の方に視線を移すと、フワッと柔らかな笑顔を浮かべた。



「私は、フロリス・ファシルド様に求婚する! フロリス、私と結婚してくれ!」



皆様、いつもありがとうございます♪

日曜日はお休み。

次回は、7月18日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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