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533、ボックス山脈 〜三人の人型の竜神

 光が収まってくると、黒い巨大な竜の前には、雷獣と、3人の人の姿が見えた。二人は女性、もう一人は男。竜ではなく人?


『ふむ、やはりそれを選ぶか。海のバカの子というより、ヴァンの子か。まぁ、経緯もそうであったな』


 黒く巨大な竜の姿の竜神様は、何かに納得したように頷いている。確かに、竜神様の子達は、僕が海の竜神様の姿を借りたときに、出来た子だ。まさか鳴き声だけで、魔物を妊娠させるなんて知らなかったもんな。


 彼らは、さっきと同じく15歳くらいに見える人の姿をしている。だけど大きく違うのは服だな。さっきまでは同じ白いローブだったけど、今は、3人それぞれ異なる服を着ている。


 それに、額には小さな突起が二つ。ツノだろうか。



「私達は、大人になったのですか?」


 青いローブを着た女の子がそう尋ねた。


『あぁ、チカラはまだ半人前なのにな。すべてはヴァンのせいだ』


 えっ? ちょ、なぜ、僕のせい? やはり、変化へんげを使い過ぎて、竜神様に負担をかけていたからか。


「私は、あの水辺を担当するのですか? でもバカ兄貴が主なのに?」


 彼女は、自分の服を見てそう尋ねた。服の違いは役割の違いなのだろうか。


『いや、誰も管理していない氷雪樹林だ。これまでは、放置で構わないエリアだったが、ヴァンのせいで、監視が必要となった』


 はい? 氷雪樹林なんて知らないよ。あっ、テンウッドがさっき、氷雪樹林って言ってたっけ?



「私は、何をするのですか?」


 騎士のような服の女の子がそう尋ねた。金色の装飾が輝き、騎士系貴族よりも上位だと思わせる威圧感がある。


『人間が出入りする地区の警備だ。おそらくヴァンの従属が、半端なく暴れるだろう。ヴァンは甘い。それに放任主義だ。だから、妙な小芝居をやりすぎないように監視する必要がある』


 ちょ、言い方!


 テンウッドやマネコンブが、無双しすぎないように調整する役割なのかな。騎士のような姿からは、強者の風格を感じる。テンウッドを抑える戦闘力が備わっているのかもしれない。



「あの、ぼくは……」


 黒いローブを着た少し気の弱そうな男の子が口を開いた。そういえば、白い不思議な魔物の姿のときも、1体だけおとなしい子がいたよな。この子か。


『人間の集落の監視だ。影の世界とこちらの世界の住人の調整をする必要がある。これまでは必要なかったことだが、共存しようと考えたヴァンのせいで、二つの世界に交流が生まれた。価値観の異なる二つの世界は、放っておくと戦乱を引き起こすからな』


 竜神様はわざと、僕のせいだと言ってるよね?


「だからぼくは、この姿なんですね。わかりました」


『異界の竜神がおまえを気に入っているせいでもある。あの頑固者とワシらとの緩衝材の役割も担っていると思え』


 黒いローブの意味は僕にはわからないけど、影の世界とこちらの世界の両方を監視するなんて、一番大変そうだな。



 新たな3人の竜神の中では、青いローブの子が一番楽なのかな。いや、だが、氷雪樹林って? 


 僕は、スキル『迷い人』のマッピングを使う。だけど、氷雪樹林という場所を見つけることができない。そもそも、ボックス山脈の全体をマッピングする能力は、僕にはないんだけど。



「テンちゃ、そういえば氷雪樹林がどうのとか言ってたよね?」


 そう尋ねると、青い髪の少女は首を傾げた。まさか、もう忘れたとか言わないよな?



『神獣テンウッドが、ゲナードを氷雪樹林で氷漬けにしている』


 竜神様は、ため息まじりにそう教えてくれた。ゲナードを氷漬け?


「あー! 主人あるじぃ、アイツ、主人に執着してウザイから、氷に閉じ込めて氷雪樹林に持ってったの! あそこなら溶けないし、たぶんどんどん氷が厚くなるから、余裕だよ!」


 青い髪の少女は、ゲナードをボコボコにすることに飽きたのだろうか?


「テンちゃ、じゃあ、ゲナードは……。あ、でも、奴は炎を操るよね? 氷漬けにしても、体力が戻れば逃げ出すんじゃないの?」


 だから、竜神様の監視が必要になるのか。


主人あるじぃ、氷雪樹林だよ?」


 青い髪の少女は不思議そうに首を傾げている。だから、何?


『テンウッド、人間は氷雪樹林を知らぬはずだ。あの場所に入ることのできる種族は限られておる。ワシも、行きたくない』


 えっ? 竜神様が行きたくない場所?


「ふぅん、そっか。確かに人間は見たことないかも。氷雪樹林は、悪さをした魔物を閉じ込めておくためのお仕置き部屋だよ! 頭を冷やして反省させるの! あたしは、もともと氷雪樹林で生まれたんだよ」


 氷の神獣テンウッドが生まれた場所? 神が創り出したのが神獣だよな。神殿で生まれたわけじゃないのか。


「そうなんだ、知らなかったよ」


「キラキラがいっぱいで、綺麗な場所だよ。主人あるじも遊びに行く?」


『テンウッド、あの場所に人間を連れて行くと即死だ。どんなバリアも凍る。魂だけが氷漬けになっている者ならいるがな』


 バリアが凍るって……。


「ふぅん、キラキラをルージュに見せてあげようと思ってたのにぃ。すっごく綺麗なんだよ! キラキラの中でお昼寝すると気持ちいいのに」


 ちょ、僕の娘を殺さないで!



「私は、テンちゃを見張ればいいのね?」


 青いローブの竜神になった女の子がそう言うと、テンウッドはキラッと目を輝かせた。


「竜神ちゃんと遊べるなら、まぁいいや。強いよね? あたしとどっちが強いかな」


「テンちゃ、本気を出すとあたしの方が強いに決まってるじゃん。青い衣は、青竜の証だよ? 水も氷も天候も、あたしの得意分野だからね」


 へぇ、竜神様ってそれぞれ特徴があるのか。でも、一人の竜神様が様々な姿を使うよな? 得意分野というのは役割ということなのかな。



「むぅ……青竜は、厄介ね。じゃあ、こっちの竜神ちゃんと遊ぶよ!」


 青い髪の少女は、騎士風の女の子の方を向いた。でも、一瞬で何かを悟ったのか、黒いローブの男の子の方に視線を移し……そして、なぜか、僕に助けを求めるような目を向けてきた。何?


主人あるじぃ、竜神ちゃん達、みんな、あたしより強いかもしんない。ポヨンポヨンしてたくせにぃ〜」


 そりゃそうでしょ。神獣と竜神様は、対等なわけがない。でも僕としても、あの子達の急成長には、戸惑いを感じる。


「急に大人になっちゃったから、なんだか寂しいよね」


 僕がそう呟くと、腕の中で眠っているチビっ子が、何かを主張するかのように、僕の腕をキュッと握った。




 パララ〜ッ!


 突然、管楽器のような音が響き渡った。空を見上げると夕焼けが美しい。えっ? これって、まさか?



 僕は、ゼクトの方を見る。すると、彼は少し複雑な表情をしていた。


「あれ? 予定よりも早いわ! ゼクトさん、これは?」


 フロリスちゃんが慌てているようだ。まだ、夕方だもんな。さっき、今夜から明日の朝と、彼女は予告していたっけ。


「ここで音が聞こえたってことは、この真上だな。はぁ、褒美のつもりか? 竜神」


 なぜかゼクトは、黒い巨大な竜神様を睨んでいるんだよね。



『さぁ? ワシは知らぬ。半人前な者たちへの神からの施しかもしれぬな』


 そう言うと、黒い巨大な竜はスーッと消えた。


「チビ! また遊びに来るんだぞっ」


「うん、チビドラゴンさん、ありがとう」


 僕の返事を待たずに、従属召喚したロックドラゴンも、戻って行った。竜神様が強制的に連れ帰ったのだろうか……クラーケンゴッドの姿も消えている。



「あー! 奴まで逃げた!」


 青い髪の少女はそう言いつつも、この場から動かない。いつもなら追いかけていくのにな。これから神矢が降るからか。竜神様がそのために、今この場に、神矢を降らせる進言をされたのかもしれない。



 パラッパラッパラ〜!


 空に神の姿が映し出された。天使達もいる。だけど、まとはない。新たに何かを選ぶわけじゃないからだな。



「ヴァン、これでゾーンは終了だ。まだ何の仕掛けもしてねぇのに……はぁ、竜神の仕返しか?」


 なぜ、竜神様が仕返しをするんだ? ゼクトのため息の意味は、イマイチわからない。ただ、予定が変わったことだけは理解した。



 僕は、空を見上げ、神の言葉を待った。だけど、神は微笑みを浮かべただけで、シュッと青い矢を射った。


 夕方の空に無数のキラキラと輝く光が見える。だけど、この場所を避けるかのように、ボックス山脈の広い範囲に広がっていくようだ。


「なんか避けられてるね。だから、ため息か」


 ゼクトにそう声をかけると、彼は面倒くさそうに表情を歪めた。


「ここには、1本ずつ落ちてくるだろうがな」


 1本ずつ?


 僕が口を開こうとすると、額にぽすっと神矢が刺さった。



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