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530、ボックス山脈 〜まさかのまさか

 七色に輝く小さなトカゲに姿を変えた子達は、それぞれ別の動きを始めた。


 スルスルと空高く伸びていった個体が、この場所に張ってあるクラーケンゴッドの結界を砕いた。


 別の個体はスーッと浮かび上がり、強い風を起こした。すると、一気に身体が軽くなってきた。外から新鮮なマナが入ってきたんだ。


 もう1体は、金竜に姿を変え、この場所のマナの支配権をクラーケンゴッドから、取り返したようだ。



『お、おまえ達は……』


 クラーケンゴッドの言葉は無視する竜神様の子達。いや、竜神様そのものか。



 この子達が、大人になると竜神様になるのだと聞いていた。そして、大人になるのは、他の竜神様が死んだときだとも……。この子達は、竜神様の後継者であり、空いた穴を埋めるためのスペアだとも言われていた。


 僕が竜神様の力を借りすぎてしまったのだろうか。そのせいで、竜神様の誰かを死なせてしまったのだろうか。機械竜に化けたとき、色がおかしいと言われていた。そして、勝手に変化へんげが解除されてしまった。


 あれは、やはり……。どうしよう、僕のせいだ。



 ヒュッ!


 マルクが魔力を放った。


「ヴァン! 呆けてないで!」


 そうだ、まだ終わっていない。マルクは、クラーケンゴッドが再びマナを集めようとしたから、足を切り落としたんだ。



「マルクさん、無理してそんなに張り切らなくてもいいよ?」


 うん? 誰の声だ?


 声のした方を見ると、見慣れない15歳前後に見える女性がいた。あれ? 竜神様の子達が居ない。いや、あれ? もう一人女性と、そして男? 3人とも、白いローブを纏っている。


 マルクも、ポカンとしている。


「あたし達がいるから、任せて」


「父さんをこんな目に遭わせたバカ兄貴は、殺す!」


「ちょ、だから、奴はゲナードに騙されたんだってば」


 やはり、この会話……。竜神様の子達だ! 人の姿になってる。普通に話せるんだ!


「キミ達、人の姿に……」


「父さん、あたしも道化師の神矢が欲しい。あっ、ゼクトさん!」


 ゼクトに向かって叫んで……ここに、強制的にワープさせてるよ、この子。


 ゼクトも、ポカンとしている。



 あれ? 何か変だな。


「あたし達が、バカ兄貴を片付けるから」


 そうだ! さっきからずっと、バカ兄貴って言ってるよね?


「ちょ、誰がキミ達の兄貴なの?」


「うん? 父さんをこんなに出血させた奴だよ」


「へ? クラーケンゴッドって、竜神様の子?」


「そうみたい。1000コくらい年上みたいだけど、バカすぎるよね」


 えっ……。


「やっぱ、殺す!」


「ダメだよ。一応、アイツにも役割あるじゃん。殺したら、その仕事が回ってくるよ」


 この子達、あんなにポヨンポヨンと人懐っこい子だったのに、なんだか性格変わりすぎてない?



「あっ!」


 3人が同時に、僕の背後に視線を移した。振り返ってみると、テテテと走ってくる小さな影。赤い髪のチビっ子が、僕の方に駆け寄ってきた。


「にいに〜! ハッ! にいに、も?」


 うん? 何? 


「チビちゃ?」


 赤い髪のチビっ子は、キッと湖の方を睨んだ。




「チビちゃ、速いんだからぁ。えっ? ヴァン、すごい血……」


 フロリスちゃんも走ってきたようだ。結界が消えたからか。でも、まだ終わってないんだ。


「フロリス様、大丈夫です。傷はもう治りました」


「それならいい……け、ど……」


 フロリスちゃんは、湖の方を向いて固まっている。クラーケンゴッドを見て恐れているのか。


 僕は熱風を感じて、湖の方に視線を移した。はい?



 赤く燃える巨大な鳥が、クラーケンゴッドの頭に乗り、奴に向かって白い光を吐いている。


 その次の瞬間、竜神様の子達が、一斉に、付近にバリアを張った。呆けていた僕達も、キラキラとしたバリアに覆われている。


 白い光は、一瞬で湖の水を水蒸気に変えた。それどころか、湖だった場所は、一気に溶岩のようなオレンジ色のモノに満たされていく。



「ちょ、何?」


「父さん、チビちゃに取られちゃったよ」


 竜神様の子の一人が、残念そうにそう言った。


「チビちゃが、めちゃくちゃ怒ってる。大好きな二人が傷つけられたからだね」


「二人って?」


 僕がそう尋ねると、若い男が口を開く。


「父さんとラフレアのマザーのことだよ。ここに入ろうとしたラフレアの根が、かなり奴にやられたからね」


「それで、チビちゃは、溶岩を作ってんの?」


「奴を消し炭にする気なんじゃない? 殺されても困るんだけどなぁ」


 竜神様の子達は、あーあと言いつつ、傍観している。燃える赤い鳥は、さらに白い光を吐き続けている。チビちゃに、そこまでの力があったのか? まさか、フェニックスの変異種の魔石を使い切るつもりじゃないよね?


 あの子は、鉱物系の新種の魔物だけど、フェニックスの変異種の魔石を失うと、身体を失うことになる。僕は、他に合う魔石なんて持ってない。



 僕は立ち上がり、湖だった場所に向かって叫ぶ。


「チビちゃ! もういいよ!」


 だが、怒りで何も聞こえなくなっているのか、攻撃は止まらない。


「チビちゃ! 僕達も熱いよ!」


 そう叫ぶと、ハッとした赤い鳥は攻撃を止め、僕の方を向いた。付近一帯がドロドロに溶けていることに気づいたようだ。


 フェニックスの変異種はふわりと浮かぶと、身体から変な水蒸気を出しているクラーケンゴッドを蹴り飛ばし、溶岩の湖に着地した。


 そして、自分が放出した熱を回収しているようだ。溶けてオレンジ色に光っていた地面は、一気に冷えていく。



 しばらくすると、竜神様の子達は、キラキラしたバリアを解除した。まだ、かなり熱さは残っているが、耐えられる程度だ。バリアを張ってくれなかったら、僕達は一瞬でミイラになっていたかもしれない。


 赤く燃えていた巨大な鳥は、褐色に変わっている。やはり、かなりのエネルギーを失ったんだ。ジッと、うずくまったまま動かない。



 僕は、褐色の鳥の方へと歩いていく。


「チビちゃ」


 そう呼ぶと、褐色の鳥は僕の方を見た。スキル『薬師』の技能を使って調べてみたが、この子の身体には大きな異常はなかった。ただ、ブルブルと震えている。


「チビちゃ、ありがとう。助かったよ。人の姿に戻れる?」


 僕がそう穏やかな声で尋ねると、褐色の鳥はスーッと小さくなり、3歳児くらいの男の子の姿に変わった。あー、マルクにもらった魔道具の服は、焼失してしまったんだな。


 人化したチビちゃは、スッポンポンだ。そして何より、不安げに瞳を揺らしている。やり過ぎたと気づいたのか。いや従属の誰かに、念話で叱られたのかもしれないな。



 僕は、魔法袋の中から厚手のシャツを取り出して、チビっ子に着せた。マルクの魔道具服があるから、何も用意してなかったな。


「チビちゃの服がないから、とりあえずはこれでいいかな。寒い?」


「にいにのにおいがする」


 寒くないとは言わないな。褐色だったもんな。


「チビちゃ、おいで。ちょっとあったかくしよう」


 そう声をかけると、キュッと抱きついてきた。ふふっ、甘えん坊さんだね。たぶん不安なんだろう。この顔は、誰かにかなり叱られた顔だ。


 僕は、手にヒート魔法を使い、チビっ子を抱き上げた。なんだか軽い気がする。この子が重力魔法を使っているのかな。




「あー、もうっ、何? 終わったの? ズルイ」


 頭上から、そんな声が聞こえてきた。見上げると、青く輝く神獣が浮かんでいる。


「テンちゃ、どこへ行ってたんだ?」


「うん? えーっと、ずーっと向こうの氷雪樹林……げっ!? 主人あるじの血の臭いがする。えっ? ちょ、えっ?」


 神獣テンウッドは、キョロキョロと湖の付近を見回している。だんだんとその表情は、険しくなってきた。状況を把握したらしい。



「テンちゃ、ダメだぞっ。奴には役割がある、爺ちゃんの子なんだぞ」


 チビドラゴンが、テンウッドのすぐ真下に移動してきた。チビドラゴンの怪我はいつの間にか治っている。マネコンブが、正方形のゼリー状ポーションを食べさせたんだな。


「だけど竜神の子なら、なぜ主人あるじを殺そうとするの!? 狂った獣なら、狩らなきゃ!」


 氷の神獣も怒りに染まってきたようだ。僕が死ぬと、テンウッドは再び、氷の檻に入ることになるからだよね。



「テンちゃ、人の姿に戻って。寒いよ」


 テンウッドの怒りで、さっきまでは熱さが残っていたこの付近は、真冬のような寒さに変わっている。


「テンちゃが居なかったから、みんな死にかけたんだぞっ」


 チビドラゴンがそう言うと、テンウッドは、やっと青い髪の少女の姿に戻った。



「だって、アイツが主人あるじに執着するんだもん!」


「テンちゃ、まさか、ゲナードを殺してないよね?」



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